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失うことで得るもの 第二十八話

「どうせそんなこったろうと思ったよ。気が進まない」


「どうしてですか? 女王ともなれば暮らしは安泰ですよ。

 少なくとも満足に食事は食べられるようになりますよ。あなたもアニエス中佐も、表だっては無理ですが、恩恵はかなり受けられます」


「食事は今で充分だよ。配給もジャガイモばっかりだが、アニエスがうまくやってくれてる。基地の食堂も使えるしな。早雪ももう少しで明ける。そしたら芋ばっかでもなくなるだろ?

 立場に就く、ってことはそれだけ自由も無くなる。危険な目に遭う機会も増える。自分で自分の身を守れる大人ならまだしも、セシリアはまだ子どもだ。その分だけ狙われる。

 俺はセシリアには幸せになって欲しい。普通の、何でもない、よく笑ってよく寝る、ただの子どもとして育って欲しい」


 返答にムーバリはテーブルに肘を突き「幸せ。なるほど」と考え込むように顎を弄りだした。


「では、保護者であるあなたに尋ねますが、今後あの子をどうやって育てていくつもりですか?

 幸せにするという希望は大事ですが、そのためには具体的にどう育てていくか、それが大事なのです。

 幸せにしたいという願いだけで、人は勝手に幸せになるものではありません。思い願いという熱量だけで誰かを幸せにするというのは不可能です。

 そして、あなたの仰る“普通の子ども”というのは一番難しい育ち方です。

 もちろん今という時代もあります。混乱の時代だからこそ、普通に育って欲しいというのは親の願いとしては理想的です。あくまで理想。

 それに実際、世の中がどれほど平和であったとしても、普通に育つのは難しいですよ。

 そういえば、イズミさん、あなただいぶセシリアを甘やかして自由にさせていますね」


「ダメか? 色々あったし、あの子にはのびのび過ごして貰いたいんだよ」


「自由も大事ですが、あなたのそれではただの甘やかしの放任です。放任主義で優秀に育つ子もいますが、希です。

 そして、申し訳ないですが、あの子にそれはおそらく合いません。

 例えば、自由に育てられて、彼女に困ったことが起きた。そして、それをどうしても解決できない。

 そんなときには親が出てきて手を差し伸て全てを解決して上げる。とても良い子育てですね。

 しかし、自由になるということは困難を回避する様に育ちます。確かに困難は回避すべきですが、立ち向かい自ら解決する力を持つことも必要なのです。

 まずはあなた方の都合に合わせて話をしました。ここで首を立て振っていただければ、私も楽でしたが」


「それにしては厳しいな。今度はいよいよ力尽くか?」


「まさか。現実的で国家規模の話をしなければいけません。もはや家族単位の話ではなく。

 今、ノルデンヴィズに限らず、北公の都市圏でどのような問題が起きているのはご理解いただけましたね?」


「ブルゼイ族の過剰による雇用の問題か」


「問題点は雇用に限ったことではないのですが、それが現時点で最大の問題となっております。

 まだ話し合われている段階ですが、多くのブルゼイ族の生活を保証できるほどの大きな雇用が生まれる可能性があるのです」


「そうなら早くすれば良いだろう」


「それを円滑により速く進める為には、セシリアが女王になることが糸口となるのです」


 俺はそれでも表情を変えずに、黙ってムーバリを睨み続けた。問題解決の為なら俺があっさりと了承してくれると思っていたのだろう。

 確かに、争いをなくすという大義を抱えて俺は動いているし、それもこいつは知っている。大きな目標であり、我が儘など言っていては到底叶えられないと言われるのも覚悟の上だ。

 しかし、それでも俺は人間だ。救世主でも無ければ聖人でも無い。


 だが、自分の一番守るべき、すぐ傍にいてまず守らなければいけない家族が巻き込まれているとなると首を縦には振りたくないのだ。


 我が儘だというのも分かっている。近くを守れないようなヤツが多くを守ることなどできるわけがないと言い訳を並べようとしているのも分かっている。

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