失うことで得るもの 第二十六話
ブルゼイ族の問題解決を優先するために、戦線は再び停滞した。
雇用の解決方法の一つとして、一部のブルゼイ族が志願兵として北公軍に参加を希望したので傭兵という形で認めた。
彼らの戦力は噂通りに凄まじく、小隊規模で相手の旅団を撃ち抜くほどの戦闘力を誇った。
強烈な突破力を持ち、ただ粗暴なだけではなく勇猛果敢であり連盟政府の魔法使い相手に支給された軍刀だけで突っ込んでいくのである。長尺の銃は動き回る彼らにはかえって邪魔だそうだ。
しかし、それにより戦線での突出を起こし孤立してしまうことがしばしばあった。
さらに民間人への略奪や強姦なども相次いでしまった。彼らがかつて連盟政府から受けていた仕打ちを考えれば、そういう行動に至っても文句は言えないかもしれないが、閣下は人道的に物事を進めることを希望したので、殊過激なブルゼイ族傭兵部隊は解散せざるを得なくなってしまった。
「――というのが現状です」
ムーバリは部屋に来て北公の現状を話していた。淹れたコーヒーはコップの縁のわずか下に水面を揺らし、湯気はたたなくなって久しい。
「俺に話してどうすんだよ。俺は北公の人間じゃないぞ。べらべらとよくもまぁ喋ったモンだぜ。こっそりクロエとかに伝えたらどうするんだ?」
残っていたコーヒーを飲み干すとただ苦い汁でしかなかった。苦さに顔をしかめて、カップの底の黒い輪を睨んだ。
ノルデンヴィズの基地にある一室で俺たち三人は生活している。窓の格子はそのままで事実上の軟禁は続いていた。
しかし、基地内と市街地には自由にふらふらと出歩けるし、居場所さえ伝えて、オスカリかイルマを連れていけば外の森までくらいなら出ることも可能である。
加えて移動魔法もあり、逃げだそうと思えばいつでも逃げられるのだ。
それでも俺は出て行こうとはしていない。ノルデンヴィズのあの家に戻ろうとすらしていない。
北公の人間では無いとはいいつつも、黄金探しからブルゼイ族の歴史、それからスヴェンニーとの関係を短期間で全て見届けてきたので、その結末を見届ける義務があるような気がするからなのだ。
基地にいればそれを身近に感じることが出来る、そう思っているのは否定できないのだ。
コーヒーにしかめた俺を見て、ムーバリは笑った。あなたがするわけないでしょう、とでも言いたいのか。チクってしまおうという気が無いのは事実だが。
「そうですね。ですが、あなたはセシリアの、彼女が認めた唯一の保護者です」
「それがどうかしたのか?」
「北公でふらふらと生活していて、連盟政府からお尋ね者の放浪者であり、血統では無いのに移動魔法まで使える。
これだけで充分に要職に落とし込んで首輪を付ける理由にできます。それでも閣下はあなたを北公の要職を宛がわなかった。それは何故か。
あなたに限ってセシリアがどういう存在であるか、まさか理解していない。などということはないと思いますが」
「俺の可愛い娘。娘のためなら魔王だってどうにかできるかもしれない」




