失うことで得るもの 第二十三話
ブルゼイ族はことのほか早くノルデンヴィズに集結し始めた。
宣言が放送された翌日の未明には、街の外の街道沿いにキャンプが出来て炊事の煙がいくつか細く登り始め、橙の灯火がぽつりぽつりと現れた。
ラジオを聞くことが出来たブルゼイ族やブルゼイ族を密かに支援していた団体がそれを仲間に伝え、さらに口コミであっという間に広まったのだろう。
そして、集結した者たち全てに、遅い早いで区別をつけずに平等な戸籍を与えよという指示がその日のうちにカルル閣下直々に出された。
その翌日も、その翌々日も、キャンプの数は増え続けた。戸籍が与えられるという噂を聞きつけたのか、増加のペースは上がっていった。
二百年近く自由に生きていた彼らは戸籍などで縛り付けられることなど拒否する可能性もあり、反発による暴動も想定されていた。
しかし、それは杞憂であり、早く欲しいとノルデンヴィズの基地に設けていた受付には長蛇の列が出来たのだ。
北部辺境は環境が厳しく、日々の最低限で精一杯であり自由に生きていると言えるほどに余裕はないのだろう。今回のような早雪ともなれば、明日はおろか今日一日生き延びることすら怪しくなる。
どこかしらに籍を置きコミュニティに属していた方が生活しやすいそうだ。
犯罪歴の有無は、元来の籍である民籍表が存在しないので記録も無い。調べようがない。
前科は不問と言うことになったが、軍によって取り締まりが厳しく行われることになった。さらにキャンプ内コミュニティでも自発的に警備が行われるようになった。
最初の数日は黄色い目、青白い髪といった特徴をぼんやりと持つブルゼイ族がほとんどを占めていたが、キャンプの増加につれて特徴を持たない者も次第に散見されるようになっていった。
かつてのスヴェンニーを生みだしてしまった三階級制度で用いられた見分け方のせいで明確な判別をしづらい状況になっていった。
やがて、戸籍上に人種の明記がされていたが、批判もあったことから表記されることはなくなり、そのかわりに後のブルゼイ族の国家に帰属するか否かの欄が設けられた。(“否”の場合は北公所属となる。ブルゼイ族の国家は先行きが未だ不透明であり、当時は“否”の方が断トツで多かった)。
二週間もすると増加のペースは穏やかになった。しかし、やたらと立派だが無許可での建造物も出現し、ノルデンヴィズ元来の住民やキャンプ内の住民同士での諍いも起き始めた。
上下水道を初めとした生活インフラの整備がない状態のところに突如として多くの人が集まってしまったので衛生状態も良くなく、さらに治安悪化の懸念が生じ始めた。
軍による取り締まりは厳しかったが、籍を与えられるということで当初は我慢していた様だった。しかし、やはり長引いてしまうとフラストレーションが溜まっていくのは目に見えていた。




