失うことで得るもの 第二十二話
北公幹部が気にしているところは、俺のものとは少し乖離があった。
以前のカミュ脱走の件があり、さらにルカス・ブエナフエンテ大統領名義ではないことに顔色をあまり良くしなかったのだ。
俺はヤシマがルカス大統領と比較的近い立場に就いていると聞いていたので、彼がそそくさと帰っていった理由を何となく察することが出来た。
しかし、北公の幹部からすれば最近突然重用され始めたばかりのヤシマについてなど誰も知るよしもなく、ただのよく分からない一般人が国代表の面をして手紙を置いていっただけなのではないかと雲行きが怪しくなっていた。
俺は、大統領名義ではない理由について戦闘が起きている状態であり過度にとある一地域を刺激したくない為であることと、ヤシマの立場について、それからカミュ脱走についてユニオンの指示であることを説明した。
さらに、ユニオンでは大統領に次ぐ立場にあるカルデロン・デ・コメルティオ代表者名義による国家として認める諭旨の内容であり、ユニオン国内でさえもカルデロンの承認を得るのは難しいので効力は確かにあると付け加えると、誰も文句は言わなくなった。
俺がカミュ脱走の際に幇助した張本人であり、ユニオンに肩入れしていたことを知る者がほとんどだったが、俺がそうであるが故に妙に納得を得ることは出来た。(様な気がする)。
それから数時間後、今度はルーア共和国が反応を見せた。
ほぼ徹夜明けだったので知らないうちに会議室の椅子に座ったままうずくまって眠っていたところへ突然俺のキューディラが鳴り響き、たたき起こされた。
それはユリナからであったが応答してみるとマゼルソン法律省長官の声がして、こちらが寝ぼけた声で応答したことに嫌味をチクリと言われた。
そして、長官代表として共同声明を伝えると言った後に「人種民族、その隔たりを無くすという志は大義である。以上」とだけ短い反応にとどまった。
その後「じゃあな、イズミ。あとよろしくー」とユリナの声がすると、すぐに回線は切れられてしまった。
彼らは連盟政府とは和平交渉中ということになっているので、表向きだけではあるが顔色を窺ったようだ。過剰な讃頌や反応は控えている様子だった。
とても短い一文だったが「人種民族の隔たり」という単語だけでその意図を充分に理解出来た。
彼らはエルフなので、独立よりもそちらに重きを置いているのだろう。独立に関して言えば、連盟政府で起きた内乱の延長なので特に言及無しと言う姿勢も覗える。
共和国民は和平を求めてかつての選挙で和平派候補を選んだが、共和国内において唯一稀少なエネルギー資源である魔石の調達はユニオンから行えるので、メリットのない和平に向けて金も時間もかかるだけの交渉が止まるのは長官たちにとって都合が良いのだろう。
共和国は識字率も高く、メディアは国内にくまなく根を広げているので、内乱のニュースは絶えず報道され国民全員が知っているに等しい。
和平交渉が滞っている理由は広く知れ渡っているので国民の支持率に影響はおそらくないのだ。(かつての強硬派が内乱の起きている国と和平交渉など出来るのか、備えるべきだと声を上げているらしいが)。
連盟政府はいつまでも反応を示すことはなかった。
刺々しく上から物を申すか、前線で何かしらの動きを取ると思われたが、何も変わることはなかった。
叛徒どもにくれてやる言葉など無いとでもいうのだろう。だが、これからブルゼイ族の集結が起こることに備えているはずだ。
この点において、カルルさんがブルゼイ族をけしかけたことは悪手だと思った。連盟政府領内にいるブルゼイ族への弾圧や洗脳教育、スパイとしての矯正が始まるかもしれないのだ。




