表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1087/1860

灰白の早雪宣言《アッシェグラウ・ドクトリーン》

 行動は迅速に行われた。

 承諾するや否や、見るからにベテランのナースが部屋に車椅子を持ち込んで入ってきた。三つ縦に並んでいた鍵を開けている様子も無く、まるでドア前で待ち構えていたかのような素早さだ。

 握っていた手を放すまもなくひょいとムーバリに担がれて車椅子に移されるとそのままゴロゴロと会議室に運ばれ、成案を練る為の会議に参加させられた。

 アニエスもセシリアも同席していた。当日中に内容が錬られ、深夜に成案が完成し、未明に録音された。


 明くる日、繰り返し音楽をかけ続けていただけだったキューディラから、早朝からいつもとは違う音声が流れ始めた。

 十五分に一度音楽の音がフェードして小さくなると

「本日正午よりカルル・ベスパロワ閣下から全種族へ向けた緊急放送が行われます。お聞き逃しの無いよう、正午五分前にキューディラジオを起動して待機をしてください。より多くの方に伝える為に、ラジオをお持ちの方はお持ちでない方をお誘いの上でラジオ前に集合してください。ご協力、よろしくお願い致します」

 と腰の低い男の抑揚の無い声で案内が入り続けた。


 俺は本体をユニオンに置いたまま、移動魔法で開いたポータルを覗き込むようにしてその調整を行った。

 ほぼ徹夜であり眠気はあるが内心ヒヤヒヤものだ。なにせダリダさんの許可を得ていないのだから。


 だが、何処の組織にも属さないと言う彼女との約束はこれで守られるのではないだろうかとも考えた。

 ユニオンの独立宣言を流し、そして、別の国の独立宣言も流したと言う点で平等だろう。……という屁理屈だが。

 今後も独立があれば放送することになるのだろうか。そんなことを考えながら俺は調整を続けた。


 そして、迎えた正午。管楽器の壮大なファンファーレの後、本放送が始まった。



“人間・エルフの諸君。私はカルル・ベスパロワである。


 本日、このキューディラジオにおいて、人間・エルフを問わず世界に住まう全ての種族・民族に分け隔て無く、私は宣言を行う。


 我が一族であるベスパロワ家は、連盟政府形成時から長きにわたりイングマール領の領主として代々連盟政府に所属してきた。そして、連盟政府で行われていた世襲制度により父パウルよりその家を継ぎ、イングマール領主となった。

 父は偉大であり、私に施した多くの教育において、連盟政府を完全な悪だと決めつけて教えることはなく、絶えず中立性を保ち続けていた。

 しかし、自らが領主の立場に就き、務めを果たす日々で様々なことをさらに知ることとなった。その無数の現実に私は目を覚ませと背中をつつかれ、やがていつから連盟政府のシステムに対して不信感を抱き始めたのだ。

 それに対して、最初は我が家柄でもある、旧来よりの連盟政府への必要的反抗勢力という役割を担うためごく自然なことだと受け止めていた。

 だが、それは自らに課せられた反抗勢力の家系たり続けなければいけないという単なる惰性の使命からくるものではなく、連盟政府が実際に腐敗していることに直に気がついたのだ。

 私はそれを糾弾すべく、これまでの父、祖父、曾祖父、高祖父、遡れる代々の領主たちよりも強く声を上げることにしたのだ。

 程なくして、私の考えがそぐわないと判断した連盟政府は私を犯罪者に仕立て上げた。すぐさま捕縛され、さらに未知の脅威から襲撃までも受けた。だが、そのときに一人の青年に助けられ、命を取り留めることが出来た。

 そのとき私は決心したのだ。連盟政府はもはや手遅れである。そこから脱さなければ、先々代が都落ちした土地とは言え、そこで生まれ育った私にとっては愛しき唯一の故郷であるイングマールに、何処までも高くそびえる白き嫋やかなヒミンビョルグに、今や亡き青く懐かしき村ブルンベイクに、輝かしい未来は訪れない。そのために独立が必要であると。

 そして、数ヶ月前、足早な早雪の季節と共に、腐敗と退廃と停滞しきった連盟政府の方針に異を唱え今一度自らと他者のあり方を考え直した北部辺境に位置する数多の自治領の同志諸兄諸姉と私は足並みを揃え、連盟政府への独立を勝ち取るべく戦いを起こした。


 その後、我々の独立を良しとしない連盟政府と繰り広げた幾多の戦いにおいて勝利を収めてきた。

 先頃、旧シュテッヒャー領のノルデンヴィズ南部における戦線において、歴史的な勝利を収めた。この勝利は大いなる転機だったと後世に広く語り継がれるであろう。


 我々は本日をもって一つの国家“第二スヴェリア公民連邦国”であることを正式に宣言をする。


 我々よりも先に独立を宣言したかつてのイスペイネ領たるアルバトロス・オセアノユニオン、および、ストスリアを中心とした知識層による友国学術連合を、我々は新しき正式な国家として認め、その新興国列強に我が第二スヴェリア公民連邦国が名を連ねることが出来たことを大いに喜ばしく思う。

 長き歴史と伝統を持ち、誇り高き戦士を多く抱えるエルフの偉大なるルーア共和国、そして、古き悪しき惰性の象徴である連盟政府は、今日という日を歴史的な転換点と捉え、その歴史に踏襲された知識・経験を用いて、あるべき平等で協力的な諸国との関係性の礎となることを期待する。


 我々はさらに宣言を続ける。

 世界各地の土地々々に隠れ住むブルゼイ族たちへ宣言する。


 我々、北公は先日ブルゼイ族の故郷であるビラ・ホラへと到達を果たした。ビラ・ホラの調査を行った結果、地政学的に極めて重要な土地であるということが判明した。

 現在、そこには我々北公軍が進駐している。


 しかし、ブルゼイ族の諸君、誤解をしないでもらおう。北公以外の支配しようという悪意のある国家、また商会や協会など国家に準ずる規模の組織により不当に占拠されることを抑止するためであり、ブルゼイ族の故郷の支配を目的としてはいない。

 古き新しき土地は素晴らしく、遺跡調査という名目で諸君の故郷に土足で踏み上がろうとする輩を多く魅了するが、北公は全力でその全て排除し、盟友ブルゼイ族の手に渡るその日まで完全な形で守護することをここに約束する。


 さらに、我々、北公は、ブルゼイ族を人間の住まうエノクミア大陸に存在する一大民族として認識し、国家を形成するに値する知識・技能、それから一定の人口がいることと認定する。

 今後ブルゼイ族が集い、国家・組織を形成する用意があれば、我々北公は全力を持ってそれを支援し、ブルゼイ族の自立の日まで寄り添う。

 やがて、国家としての体を作り上げた後、然るべき時期・状態を持って判断し、ビラ・ホラをブルゼイ族の新国家へと譲渡する構えである。


 集う意思を持つブルゼイ族に告げる。北公は諸君らを民族として認めた。しかし、まだ武器を持ち上げ立ち上がるときではない。

 まずは国家としてまとまり確固たる力を蓄えよ。北公の領土内、および砂漠地帯にいるブルゼイ族たちはノルデンヴィズを初めとした北公に所属する大都市へ集え。

 北公の領土外にいる者たちはブルゼイ族の国家が興る、来るべきその日に備えよ。辛抱を要する者が出るが、ブルゼイ族の再興と繁栄を約束し、永劫の豊かな暮らしを保証する。”

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ