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失うことで得るもの 第十九話

 背中越しにそう尋ねてきたムーバリの視線の先にある格子はよく見れば、十五センチほどの間隔で十字が刻まれ、黒く光るそれは鉄製のものだ。内側と外側で二重のようだ。

 これまでも見えていたが、改めてよく見ると相当に堅牢な作りをしている。


 ドアも鍵が上から三つ付いており、鍵穴がそれぞれにこちらに向かって付いている。一見すれば普通のドアだが、開けるには内部からも鍵が必要だ。


 自分たちが監禁されていることに気がついたのか、セシリアの不安な顔はさらに悲壮を帯び始めた。アニエスは視線を強めた。

 二人とも俺に会う為に安易に部屋に入ってしまったことに焦りを覚えているのだろう。


 八等分に切り分けられウサギの形をしているリンゴをつまみ上げた。これを切ってお皿に綺麗に並べてくれたのはアニエスだが、この部屋に持って来たのはムーバリだ。

 くるくると回して覗き込んだ。これから利用しようという人間たちに毒を盛るワケもないと分かってはいたが、怪しむふりを見せつけるようにした。

 そして、散々睨みをきかせた後に、思い切り口の中に放り込んだ。


「なるほど、従わなければ監禁か。ここがどこだかも俺に言わないのもそうだろ? もう少し具体的じゃないと移動魔法が使えないからな」


 食べやすいように小さく切られた、アニエスの気遣いと優しさが溢れるリンゴの一かけを力強く噛みしめると、爽やかに甘く歯に染みるほどに冷たい果汁が溢れた。乾いていた喉に水が流れ込むとすがすがしい気分になった。

 だが、久しぶりの固形物に消化器は驚いたのだろう。食道に痛みが走った。


「あなた方に移動魔法があるのは承知の上です。今場所が分からなくても、自分がどこにいるのか具体的に分かるのは時間の問題です。

 その足で歩き、窓辺に立つ私の隣に並んで、この意味の無い格子の間から外の景色を見れば、すぐに分かりますよ。

 こちらには監禁しようという意思があるというのが伝わればよろしいのです」


 ムーバリは格子を掴んで眩しい外の光りに目を細めた。格子を二、三度叩くように軽く揺らした後、こちらへ振り返り真っ直ぐ見てきた。

 俺はその視線を外して左手の義手を持ち上げて見つめた。


「わざわざこんなコトしなくても、やらないことも無い」


 相変わらず違和感がある。触覚は無いが思った通りに動く奇妙な腕を回し、掌を開いては閉じた。


「お前もそんくらい分かってんだろ? 俺たちも付き合い短いわけじゃないんだから」


 ムーバリの顔をしゃくり上げるように見上げると、

「万が一に備える必要はありますね。立場上、思い浮かんだリスクは例え最小のものであっても回避する為に対策を取らなければ気が済まない質なので」

 と笑顔を返してきた。


「北公には世話になったんだ。逃げ出したのに許してくれた。でも、俺はその上でさらに出し抜こうとした。それなのに、治療までしてこんな義手までくれたんだ。さすがにこれ以上は泥をかけられない。

 だけどな、色々教えろ。俺は何にも知らない。今どこがどうなっているのかも、北公がこれから何をどうしようとしているのかも。それ次第だ」


 もう一つリンゴをつまみ上げた。食べ物を採っただけで、まだ消化もされていないのに身体に力が漲るような気がした。喉も渇いているので、身体が求めているようだ。

 霜を踏むような軽快な音を立て溜まった果汁を飛ばすようによく噛んで飲み込むと、戻り始めた活力に背中を押された。


 ムーバリは黙り、俺から尋ねるの促すように小首をかしげて微笑んできた。

 回りくどく探るようなことはせず、いきなり踏み込んで硝石のことについて尋ねることにした。戦略的に聞き出そうとしたところでうまくいく自信も無いし、かえって色々なことが覆い隠されてしまう。

 それにさえ俺の求める回答が得られれば、俺は何も言わずに北公には従うつもりはあるのだ。


「ブルゼイ族が集まって国を作ることに文句は無い。だが、それで争いを煽るな。そういえば、お前ら、確か硝石を探してたな? ビラ・ホラはどうするつもりだ?」


「どうもしません。私たちからは」


 あっさりと即答した。だが、北公が硝石を必要としないわけがないのだ。

 相手からの、つまりブルゼイ族側からの働きかけを待つような言い方をした。

 要するに、奪取でも搾取でもない、そして、保護の代価でもない第四の方法である“自ら献上させる”というのを目的としているようだ。

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