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失うことで得るもの 第十八話

 ムーバリは窓に手をかけてロックを回すと、窓の鍵をきっちりと締めた。そして、くるりと振り返ると、両腕を左右に開きながらベッドに向かって歩き出した。


「キューディラの掲示板機能を利用し広く伝えて、ブルゼイ族を集めようと思います。ですが、掲示板機能を持つキューディラは普及したとは言え、ブルゼイ族にはまだ高価な物であることに変わりはありません。

 そこでキューディラジオを使うのです。世界は新しく面白い情報に飢えています。街頭でラジオを流しているところも少なくありません」


 やがてベッドの脇まで近づいてくると、傍の椅子に腰掛けた。


「イズミさん、あなた、確かキューディラジオを管理なさっていましたね」


 どこからそれを知り得たのか。ピクリと顔の筋肉が動き、むっという吐息のような声が漏れてしまった。

 少なくとも俺は、これまでにムーバリにその話をした記憶は無い。だが、どこにでも顔を出す男だ。何を知っていてもおかしくない。驚いたことに変わりはないが、そこまで大きな反応はせずに済んだ。

 それよりも眼瞼を引きつらせたのは、宣言と言う言葉の次にキューディラジオと来たことだ。言わずもがな、ユニオンの独立式典で行ったことを再びやれということだ。


「連盟政府と敵対する北公がブルゼイ族を支援するなんて声高に言うなんて、ただの挑発としか思えないぞ」


 何をしろとも言う前にそう切り返した俺に、ムーバリは目を見開き些か驚いたような表情を見せてきた。

 そこまで言われて、これから何をしろと言われているのか分からないわけがない。こいつはまだ俺を馬鹿にしてんのか。無性に腹が立った。

 だが、腹を立ててばかりいるわけにもいかない。こいつのおかげで助かったことも多かった。怒りを飲み込んで黙り込み、ムーバリの言葉を待った。


「ええ、そうでしょうね。ですが、恐れ多くも、あなたはすでにその実績を持っているではありませんか。ユニオン独立のときに」


「あのときは独立宣言だけだった。お前の言うそれはだいぶ状況が違う。独立だけならまだしも、民族を一つ認めることがどういうことか分からないわけないだろ。

 だいたいブルゼイ族ってどれくらいいるんだ? 放浪の民みたいにエノクミア全体にくまなく散らばってるんだろ?」


「潜在ブルゼイ族はおそらく凄まじい数でしょう。民籍表(ライテレジスタ)を与えなかった分、連盟政府でさえもその数を大雑把にすら把握できていないでしょうね」


「ブルゼイ族は戦争こそしなかったが戦闘力の非常に高い部族だって聞いてる。ベルカとストレルカを見ててもそれはわかる。

 みんながみんなそうだとは限らないが、あいつらみたいなのが一カ所に集まるのがどれほど脅威になるか。統治者もいないからすぐに破裂するぞ。下手すりゃお前らが喰われるぞ」


 そう言うとムーバリは「お気に召しませんか?」と小首をかしげて困ったように眉を寄せた


「ブルゼイ族の再興は構わない。でも、焦りすぎてないか? 何もこんな時代にやらなくてもいいだろ。ブルゼイ族のためというよりも、北公の野望が見え隠れしてるんだよ」


 かつて追い出した立場と追い出された立場が逆転している。今では強くなった追い出された側が、追い出した側を許すということになる。


 迫害があったのは、かつてのプライドがなどと喚き倒す者が出てきたり当時を知る老人がいたりするほど最近の話ではない。もはや神話に等しいほどの過去の出来事であり、ブルゼイ族は今ではただの弱者だ。

 救済を得られる弱者はその希望に縋るのは間違いない。

 北公のやろうとしていることは弱者を集め、国を作らせる――。だけでは済まないはずだ。

 建国に大きく力を貸すことでその内部に深く介入をする。指導者から何から、中枢に配置する人材を北公が指定することで、自分たちの都合の良いように動く国家を作り上げる。

 要するに傀儡国家だ。傀儡国家であれば鉱床も軋轢を生まずに採ることが出来る。


 そして、ブルゼイ族の人口は未知だが数としては非常に多い。傀儡国家であろうとなかろうと、支援をした北公にブルゼイ族はつく。

 戦闘民族であり基本的な体力は高い。ベルカとストレルカが見れば分かるとおり、真っ当に生きることは出来ず、日常を送るだけでも生死を賭していた者が多い。訓練や条件付けのさほど必要のない戦士たちが一気に増えると言うことだ。


 戦争は補給を無視してはいけないが、数も大きな戦力指標となる。


「あなたもなかなか、鋭くなってきましたね」


 ムーバリは立ち上がると窓の方へと歩みを進めた。窓の前に立つと、そこに見えていた格子をなぞるように触った。


「あなた方、三人がこの部屋にいるのは何故か分かりますか?」

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