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失うことで得るもの 第十七話

「独立宣言か?」


 さきほどムーバリは宣言としか言わなかった。それが独立に関するものであるのはすぐに分かった。だが、確かめるように尋ねずにはいられなかったのだ。

 分かりきった問いかけに首だけを回して俺を見つめてきた。

 糸目の笑顔と視線がぶつかり合うと、鼓動が強く打つのを感じた。それが良い期待による鼓動なのか、それとも全く真逆のものによる動悸の一打なのか、その瞬間にはどちらとも判別が出来なかった。


「簡単にですが、お伝えしましょう」


 窓が閉められると、差し込む陽射しは弱まり部屋を僅かに暗くし、風が遮られカーテンは踊るのをやめた。

 ムーバリは窓枠に寄りかかると、宣言の草案を暗唱し始めた。


“新興国であるアルバトロス・オセアノユニオン、友国学術連合。長き歴史と伝統のあるエルフのルーア共和国、そして、古き惰性の象徴である連盟政府。および、その土地々々に隠れ住むブルゼイ族たちへ宣言する。

 我々、北公は、ブルゼイ族を人間の住まうエノクミア大陸に存在する一民族として認識し、国家を形成するに値する知識と一定の人数がいることと認定する。今後ブルゼイ族が集い、国家・組織を形成する用意があれば、我々北公は全力を持ってそれを支援し、ブルゼイ族の自立を促す。”


「大雑把に言えば、こうですね。成案はこれ以上に具体的な内容になるでしょう」


 なるほど、そういうことか。

 宣言の焦点は独立よりもむしろブルゼイ族を存在する一つの民族として認めるということだ。文言には直接出てこなかったブルゼイ族のかつての首都であるビラ・ホラを保護していると言うことか。


 だが、果たしてそれは本当に保護なのか。


 確かに、商会という勢力が攻め込んでくる可能性は大いにある。

 彼らは硝石という商品を得る為としてではなく、北公の渡らないようにする為にビラ・ホラへ攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

 さらに彼らが商人である限り、占拠した後に資源である硝石を採掘し、それを売りつけようとするだろう。それ故に保護の必要性はある。


 瞬く間に兵士の基本的な武装を銃に変更した北公は、硝石を大量に必要としている。保護というのはどう考えても名目上だろう。ビラ・ホラの硝石がどのような形で北公に渡るかと言って考えられるのは、保護の代価としてだ。


 だが、暴力的な奪取をしようとする商会に比べれば、保護の代価としてまだ平和的な方法を採ろうとしている北公の方が幾分マシではないかと考えてしまう。


(もし、保護の代価としての硝石鉱床譲渡に集まったブルゼイ族が挙って反対したら北公は蹂躙するのだろうか。それは考えないことにした)。


 偶然にも視界の隅に入ったセシリアが気になり、彼女の方へ向いてしまった。

 目が合うと、少し怯えたように肩を上げてアニエスの影に隠れてしまった。アニエスの上着の裾を強く握りしめている。

 ブルゼイ族の国、そして、ビラ・ホラに置かれたものとなると、今後彼女の存在が大きくなるのではないだろうか、そんな予感がしてしまったのだ。

 おそらく、雰囲気を殺伐とさせた会話が導くこれからに、自分の存在が否が応でも関わってくることを彼女もどことなく悟り、怯えてしまったのだろう。


 あくまで平和保護の目的でビラ・ホラに北公が軍を置いているということにして、そこでは硝石鉱床のことは尋ねず、セシリアを安心させたくて微笑みかけた。


「宣言の内容はこれからも練られていくことでしょう。

 さて、宣言というからには広く知らしめなければいけません。話が伝わる方法はいくつもます。

 ですが、又聞きや噂話などは正確性を欠きます。正確な内容を届けるには、より多くの人の耳に宣言そのものを直接伝える必要があります。

 そこでまず、あなたに動いていただくことは、これをどうやって広めるかについてです」

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