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失うことで得るもの 第十六話

 イルマとオスカリ、それからムーバリを足止めして貰う為に別れて以降、あいつらとは顔を合わせていない。

 左腕を潰された前後の曖昧な意識の中で顔を見ているのかもしれないが、少なくとも今思い出せる記憶の中には登場していない。

 最後に二人を見たのは、ブルゼイ族二人組とスヴェンニーの三人組のいがみ合う種族の真っ向対峙の瞬間であり、その後に戦闘が発生している可能性が高い。

 二人は勝っても負けても、何れにせよビラ・ホラを目前にしてどこかへいなくなるとは思えない。ましてや奪おうとしている北公も側にいるような状況だった。

 北公はビラ・ホラを“保護”と強調して言うだけあるならば、そこをルーツに持つブルゼイ族であるその二人を最悪でも鹵獲していてもおかしくない。


 最悪の場合鹵獲などと言うのさえも甘い考えとは思いつつも、そのブルゼイ族たちと行動を共にしていた俺は、ムーバリがドアを開けて入ってきた瞬間に無警戒にも杖を構えなかった。

 意識のない間に俺をこのベッドに寝かせたのは北公であると分かっていても、警戒すべき相手であるという意思さえなかったのだ。

 それは目覚めてまだ時間が経っていなくて意識がぼんやりしていたからではなく、ムーバリのブルゼイ族への直接的な恨みを黄金捜索中から強くは感じていなかったからだ。

 北公自体が二人を敵視していたとしてもムーバリ個人が何かしてくれるのではないか、という期待を無意識に抱いてしまうことを避けられなかったのだ。

 言われなくても、それが甘いというのはよく分かっている。


「するわけがありません。彼らは今や英雄です。いえ、これから新時代の立役者になるのかもしれません」


 色々悪い方向に考えてはいたが、ムーバリの素早い回答はその甘い読み通り、それ以上だったことに俺は驚きを覚えた。

 だが、それと同時に肯定したくない安堵までしてしまい、張っていた肩が緩んでから肩を張っていたことに気がついた。


 俺の隠せない無意識の反応を見た彼はそう言うと立ち上がり、窓の外を向いた。そして、陽光のカーテンの方へとゆっくり歩みを進めた。


「先ほどまで、私は閣下とある非常に重要なことについて話し合っていました。その場には彼らも居させました」


 窓の傍まで来ると、窓枠に手をかけた。


「閣下ご自身が二人に参加するように直接命令され、私がいさせ、そして、彼らも望んでその場にいました」


「何の話だ。もったい付けるなよ」


 だが、もったい付けるに相応しい重要な無いようであることは俺でも分かる。何か大きな時代の流れを左右するほどの風が立っているのだ。

 そのとき一度、強い風が部屋に吹き込んだ。そして、カーテンを大きく翻すとムーバリの姿を隠した。

 そのカーテンの隙間に見えたムーバリの顔はどこか力強く、それでいてらしくなく野心を浮かび上がらせ、頼もしさと恐ろしさを湛えていたような気がした。


 大風が止み、カーテンは垂れて静かに収まると、彼は


「全世界に向けた我々の宣言の草案についてです」


 と言った。


 ついにカルルさんは独立宣言を正式にするようだ。北公が反乱軍ではなくなるのだ。

 しかし、ただの独立宣言だけではなく、大いなる独立宣言であり尚且つ新たな宣言になる。それが力強い言葉の節々から伝わってくるのだ。

 そして、これまでのブルゼイ族とスヴェンニーの遺恨を打ち払うものであり、新たな時代への幕開けであることも伝わってきた。

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