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失うことで得るもの 第十三話

 親指と人差し指、親指と中指、親指と薬指、親指と小指。そこに爪は無いが、ついているかのように外さず順番に指先を合わせる。

 僅かな動きの意思を漏らすことなく拾い上げ無数の針金が内部で作用し合い、奏でる小さなタイプライターのような音は軽妙で心地よささえあり、使ううちに慣れてしまい、いつかは聞こえなくなりそうだ。


「確かに」


 感覚が無いというのは不思議ではあるが、思ったとおりに動かせるというのは実に素晴らしい。

 そして、意識が戻った直後の博士の押しつぶすような爆発的な勢いは、一番最初に訪れる強烈な悲しみを味わう暇を俺に一切与えなかった。


 博士の義手は、彼自身が誇らなかったとしても、素晴らしいものであることに変わりがない。日本でもここまでの義手は得ることは出来ないだろう。

 勢いで喪失感を押しつぶさなくても、これさえあれば乗り越えられたのではないだろうか。


「そうなのかもしれないな」と肩から指先までを再び見るふりをしながら、間を開けてそう答えた。

 ムーバリも光にかざされた左腕を見て目を細めていた。


「四日も横になっていると足腰に力が入らないでしょう。ですが、体力は戻っていそうですね」


 ムーバリは顔を戻すとベッド脇にさらに近づいた。しかし、そこに置かれていた丸椅子には座らずに、ベッドの脇にある手すりに寄りかかり見下ろすように糸目で笑った。

 嫌な顔をしてやがる。こいつのこういう顔は、俺に何かさせようと企んでいる顔だ。

 もとより、何か用事がなければ俺の前になど顔を出さない。様子を見に来たなどと言う非効率なことはしないからだ。


「俺は一般人だ。おたくら諜報部員ほど鍛えていないから、悪いがすぐには立てないなぁ。理学療法士でも紹介してくれよ」とうそぶいた。少し歩けば何とかなるのは、自分の身体のことなので一番分かっている。

 だが、俺の言ったことなど気にもせず相変わらずの糸目で「イズミさんたちには少し動いていただかなければいけません」と言い切るとニッコリ笑顔になった。

 こちらにも相変わらず腹が立つ。それにも慣れてきて馬鹿馬鹿しい。


「人使いが荒いな。俺は一応病み上がりだぞ」


 とは言うが、休んでいる暇などないはずだ。

 こいつらは保護していると言ったが、ビラ・ホラの今後の処遇について全く検討がつかないからだ。

 まずは硝石を何かしらの方法で強奪するのは間違いない。保護すると言うのはただの名目かもしれない。誰かの不利益が生じるなら止めるべきだ。


 起き抜けだったが、飛び起きてから色々と考える内に消化器まで目を覚めたようで、突然強烈な空腹感に襲われた。

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