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失うことで得るもの 第十一話

「なんで表面を金属にしたんですか? しかも、隕鉄ってめちゃくちゃ希少じゃないですか。もっと有効な使い方があると思うのですが」


 貴重であるなら、例えば貴重であったり高価であったりすること自体に意味のある杖の材料とか。

 左腕を外転させながら伸ばし、掌を開き前腕部を眺めるようにしながら尋ねると、博士は鼻から息を吸い込み始めた。

 そして、全身を震わせて顎を上げ始めて肺いっぱいに吸い込んだところでピタリと止まると、くわっと目を見開いた。


「その方が断然カッコイイでないか! それにその模様、いかにも魔術的でいいではないか!」


 と絶叫した。血走った目で飛ばしてくる飛沫と突風にはもう慣れた。

 マジネリンプロテーゼが素晴らしいシステムを持っていることよりも、そのラメラの表面処理をしたことの方が重要であるかのように声をこれまでで最も大きく張ったのだ。

 どれほどに力めば、額に青筋が浮かび目を充血させられるのだろうか。相当なこだわりがそこにはあるようだ。


 いいのか、それで? まぁ、いいか。


 繰り返し素早く頷き最も大事なのであろう主張を理解した俺を見ると、博士はパンパンに膨らみ力を込めすぎて赤くなり始めてすらいた顔を離した。


「ついでに伝えておくと、一応、魔力稼働式で魔工万能義手(マジネリンプロテーゼ)と基本的な仕組みは同じだが、無しでも簡易的に使えるようにはなっている」


 そう言うと、白衣のポケットから工具を持ち出し、肩と上膊の間にある隙間に突っ込んで何かを回した。すると、左肩から空気の漏れるような音がしてずしりと重くなった。

 左腕を上げようとしたが、全く上がらなかった。動かそうと肩を意識すると、腕の付け根に残っている筋肉の動きを拾ったのか指が痙攣するように動いた。

 だが、それはそこにはいる虫か何かがいて指を押し退けようと動かしているようで、自分の意図するものではなかった。

 いきなり左腕が言うことを聞かなくなり、頭の中での情報と視角が一致しなくなり混乱と恐怖が沸き起きた。

 俺の顔が引きつっていたのを見かねたのか、またしても工具を突っ込んで何かを回すと、左腕は思った通りに動き始めた。


 ほんの一瞬だったが、本当に腕をなくした恐怖に近い喪失感に襲われた。

 自らの腕の自由を噛みしめて恐怖を解き放とうと、俺は指をピアノでも弾くかのように素早く動かし、肘関節を曲げ伸ばし、左腕を確かめるように動かした。

 出来ればもう魔力無しの状態にはしたくない。だが、魔力の無い状態での訓練は必要かもしれない。

 腕を回すのを止め、左拳を強く握った。


「衰退期が近いとは言えまだまだ魔法主義の時代、君が高度魔術ウンタラ師であるなら死ぬまで使えるだろう。

 シンギュラリティを迎える魔術単独利用から魔力雷管式銃に代表される工学科学応用魔術、そして、科学の時代に取って代わられ世界の魔法の日が沈むのはせいぜい君が死んで四、五〇年後の話だろう。まぁ必要など無いとは思うがな」


 ウィドマンシュテッテン構造よりもその“ついで”の方が大事ではないだろうか。

 博士は満足したように息を吐き出すとベッドから離れていった。背中を向けて後ろで手を組んで「取説は君の家に代引きで送っておいた。よく読んでおきたまえ! ではな!」と言うと、笑い出してドアの方へと向かっていった。

 言いたいことを全て伝えきったのか、どうやら帰る様子だ。

 それからも笑い声を響かせながらそのまま部屋を出て行こうとした。しかし、ドア枠に集音アンテナが引っかった。「おっと」といってそれを外して抱えると、「もう少しフレキシブルに……」と何かをブツブツ言いながらひょこひょこと出て行った。


 ドアはこれまでの勢いとは裏腹に、そっと閉じられた。閉まりきる直前にドアノブを回し、まるで施錠の音すら響かせまいと静かに閉じられた。

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