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失うことで得るもの 第八話

「もう一度言うが、これはー私の最高傑作。とは言っても人生はまだ長い。これからも最高は常に更新していくがな!

 現時点での最高傑作を最高たらしめるために、技術的に最高なだけでなく見た目も超こだわりを持った。表面には隕鉄をふんだんに使っている。

 だが、ただの隕鉄ではない! なんと、驚くなかれ! 三百年前ヤプスールの郊外に落ちた隕石から取り出されたニッケル十パーセントのオクタヘドライト型隕鉄! 超が付くほど稀少な隕鉄だ!」


 すると鼻息があたるほどに顔を近づけてきた。

 顔の前にゾウ耳の集音器が近づいてくると、頭の動きに合わせてぶんぶんと動き風が起こった。

 目の前を通過していく耳を除けるように顎を引こうとすると、思い切り左腕を掴まれ(という感触が肩に伝わってきた)て前に引っ張り出された。

 触覚の無い左腕を鷲づかみされようと、鼻息を当てられようとわからない。


 今度は掴んだ腕を持ち上げるとうっとりと眺めた後、指でなぞり始めた。

 義手の表面にランダムに並んだ無数の三角形が織りなす幾何学模様は、通り過ぎた指の影によって白く照り返す光を際立たせた。自然の作り出す、極めて不自然な模様だった。


「実に、実に素晴らしい。ここまで綺麗にウィドマンシュテッテン構造を出せるのは至難の業ッ!」


 上膊から肘の関節、下膊をなぞり、さらに手首、そして手の甲まで撫できると満足したように鼻から息を吸い込んで顔を上げた。


「なぁ! 綺麗なラメラだろう!? 君もそう思うだろう! 後期ヤプスール魔術学派の魔方陣の原型にもなったと言われるほどに、美しい!」


「いえ、まぁ、そう思」


「そうだろう! そうだろう! 実にそうだろう! 君、見所あるな!

 露出面だけを隕鉄で薄く覆い、そこをナイタールでエッチングしてこれを表面に出したのだ!

 薄い金属を均等にエッチングして尚強度を維持しながら、隕鉄をこのようにラメラを残したまま加工するのは北公の匠の賜だ!

 安心したまえ! 隕石にナイタールかけたからといって石化が溶けるわけではないぞ!!」



 尋ねられた感想を遮られ、さらに何を言っているのか分からずにますます混乱している俺を余所に、アスプルンド博士はゾウ耳を振り回して風を起こしながら話を続けた。


「問題はー山積みだった! まず隕鉄はニッケルが多い! 十パーセントともなると重くなってしまう!

 だが、私はーどうしてもコレを使いたかった! 三日三晩悩んだ挙げ句、導き出した結論は、露出する面だけを隕鉄で覆い、内部は炭素繊維を多く使うことにしたのだ!

 それでも尚問題はーあった! 匠が如何に多い北公といえど多くいる職人の中でここまで精細に出来る者はごく一部! 私も苦労したぞ!」


「そ、それはどうも、わざわざありがとうございます」


 今度は最後のお礼まできちんと言わせて貰えた。博士は感謝の意を伝えると、ますます鼻の穴を膨らませた。

 これは止められないほどに勢いが付く。今後、話に入り込むことはもう不可能だろう。

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