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失うことで得るもの 第三話

 部屋のカーテンは開けられていて、窓から差し込む陽射しは格子の作る十字影をベッドに投げかけている。

 ここは……まだどこだか分からないが、とにかく外は晴れているようだ。先ほどよりも傾いた(かあるいは登った)陽が腕に当たると、右腕チリチリと熱くなった。

 陽射しは以前の強さを日々取り戻している様子だ。

 部屋の中は鼻の奥がツンとするような消毒液か何かの匂いが充満している。

 鉄パイプのベッドに白いシーツ。カーテンはクリーム色で壁も床も白く眩しく、ほんの少しでも汚れたら目立ちそうなほどに清潔だ。おそらく病室なのだろう。


「多少の怪我は仕方ないとしても、みんな無事ならそれでいい。今からカルルさんに詳しく聞きに行くよ」


「い、いえ、その」


 アニエスは先ほどから歯切れが悪い。青い顔で俺を見つめたまま、ずっと瞳が揺れているのだ。セシリアもどこか悲しげで、近づいてこようとしない。

 事態は一応の決着を付けて終わったはず。だが、二人はなぜここまで深刻な、下手をすればビラ・ホラ探しの真っ最中よりも辛辣な顔をしているのだろうか。


「何かあったのか? カルルさんは立場があるからすぐには会えないとか?」


「いえ、いえ。その、そういうわけでは」


「誰か致命傷で意識がないとか?」


 そう尋ねると肩をびくつかせて「あ、あなたが」ともごつく様に囁き、視線を合わせまいと上下左右に動かし始めた。


「破砕機に巻き込まれて……う、腕が……」


 腕? 何のことだ?

 特に変わった感触は無い。左腕が夜中に痺れて冷たくなっているような感覚はあるが、きっと寝相が悪くて痺れているだけだろう。血が巡ればすぐに元に戻る。

 しかし、さすがに稼働中の破砕機に落っこちたともなると骨が折れたか砕けたか、デカい裂傷でも出来た程度だろう。投入口もそれなりの高さがあった。


「俺は大丈夫だよ。少し身体動かさないとな」


 再び右手で顔を擦った。また何日か意識不明になっていたようだ。生え始めた髭に触れると、硬いいががじょりじょり音を立てた。

 起き上がることに問題は無さそうなので両手をベッドについて起き上がった。

 だが、足腰が抜けてしまい、左手で手すりに掴まった。


「あらら、今回はどれだけ寝込んでたんだ? 足腰がまたふにゃけてるよ」


 支えようとしてくれたアニエスに尋ねると、「四日間……です」と耳元で囁いた。

 まだ引きつったまま彼女たちを余所に「また、そんなに」と笑いがこみ上げてしまった。

 アニエスは脇から手を回し肩を持ち上げて俺を再びベッドの上に座らせてくれた。


 しかし、何かがおかしい。

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