まだ遠き旅路の果てで 最終話
中佐はイズミさんの治療が済み北公のビラ・ホラへの関与行動が落ち着き次第、セシリアを伴って会わせることにした。今度はそのセシリアを今抱えている二人組への指示だ。
私は再び破砕機の上に登り、「ベルカ、ストレルカ。聞こえていますね!?」と二人組を呼んだ。すると、影のしたからベルカとストレルカの落ち着きの無い声が聞こえてきた。
「しばらくは北公軍がビラ・ホラを護衛します。異存はありませんね!? ああ、こちらに来なくて良い。返事だけしなさい!」
私たちは殺し合いもしたし、それ以外にもあれだけ揉めたのだ、さて何を言われるやら、と身構えていたが、ベルカから「構わねぇ。任せる!」と思ってもいない返事が返ってきた。
「アタシら二人じゃどうにもならねェからな!」と遅れてストレルカの声も続いた。
妙に素直なのは不気味だが、どうやらベルカとストレルカ、それとウトリオ上尉とユカライネン下尉は、私がいなくなってから何があったのか知らないが四人一緒になってここまで来ていたようなのだ。
追いつくのも遅くはなかった。四人を運んでくれた足の速い第三者がいたのだろう。その間に話でもしたのだろう。
ユカライネン下尉とウトリオ上尉は何処まで真相を二人組に話したのだろうか。
ビラ・ホラが硝石鉱床であることはベルカとストレルカも商会が言ったのを聞いていて知っている。そして、それが無煙火薬の原料にもなることも気がついているはずだ。
見え透いたまでに明白な目的がちらつくにも拘わらず、北公の黄金捜索の本当の目的は民族紛争の解決だということだけを伝えるという無理難題を押しつけてしまった。
しかし、ユカライネン下尉もウトリオ上尉も馬鹿ではない。
おそらく、北公がビラ・ホラを奪い取り復讐する為に土足で蹂躙するようなつもりが無いと言うことだけを伝えてくれたのだろう。それはベルカとストレルカの反応を見れば分かる。
「けど、お、おい、それよりもイズミは大丈夫なのか!?」
セシリアを抱きかかえたベルカが破砕機の上まで登ってきて覗き込んできた。
セシリアに魔石をあてがい治癒魔法をかけている。どこで手に入れたのかは知らないが、魔石からは緑色の光が強く放たれている。どうやら強力な治癒魔法が込められているようだ。
セシリアも擦り傷や肩の脱臼などあちこち怪我をしていたが、あれならば問題は無さそうだ。
彼女は腕の中で暴れている。ベルカを拒否しているのでは無く、パパにパパに、と自らにかけられている治癒魔法をイズミさんにかけろと言っているようだ。
だが、自身にも痛みはあるようで動くと苦痛に顔を歪めている。
この二人組はイズミさんに対して、故郷への道を開いたという恩がある。セシリアを攫うという罪を犯したのにそれを許し、さらに恩人とまでなった彼を心配などせずに来るなと言うのは無理だったか。
だが、セシリアにあの状態のイズミさんを見せるわけにはいかない。
「馬鹿者! 返事だけで良いと言っただろう! 投入口に顔を覗かせるな! その子の視界に今のイズミさんをいれるんじゃない!
イズミさんを助けたければあなたたちもノルデンヴィズに来なさい。拘束などは一切しません。何せ、重要な参考人であり、そして、大いなる協力者なのですから。
処遇に関しては私が全て責任を持ちます。あちらでは私の傍から離れないでください! いいですね!? 返事は!?」
「ダ、かしこまりました……」
これほどないまでに怒鳴り散らしたのが効いたのか、二人は私にあっけにとられて指示に従ってくれた。
さて指示も出し一段落ついた。ユカライネン下尉とウトリオ上尉が羽の間に詰まっていたイズミさんをうまく取り出せた様で運ぼうとポータルを開こうと思ったそのときだ。
突然遠くで雷が落ちると、指揮系統を失いただの黒い塊に成り下がったヴァンダーフェルケの人集りが爆発と共に飛び散った。
もくもくと舞い上がっていた砂煙が晴れると倒れた装甲車の上で老人が一人両手を挙げてこちらを見ていた。
そして、杖をぶんぶんと振り回し始めると、
「クォラァァァ! ババァは放ったらかしかァァァ! 年寄りを無視するなぁぁぁ!」
とかなり距離があるはずなのに鼓膜を揺するような怒鳴り声を上げた。
どうやらエルメンガルト先生も無事なようだ。さすが元教員、声はよく通る。




