まだ遠き旅路の果てで 第四話
しばらく待っていると二人はよじよじと破砕機に登ってきて投入口を左右に眺めた。
血で固まった砂と赤い塊と血の線だらけの羽と、そこに横たわりもぞもぞと動いているイズミさんの姿を見て歯をむき出しにして首を後ろに下げている。
彼らは渋い表情を見せたが、イズミさんはまだ動いている。もちろん残った単なる反射だけではなく、きちんと生きている意思を持った動きを見せている。
どうやら思った通り彼の高価な杖が挟まってくれたおかげで、私が槍で機械を壊すまでの間彼を生かしておいてくれたようだ。
だが、致命傷であることに変わりは無い。意識は既に無いようだが、強烈な痛みだけはあるのだろう。普段の彼からは考えられないほど低い声でうめいている。
「さぁ、脅威は去りましたよ。イズミさんを引きずり出します!
まずは彼が失血死する前に何とかしなければ! コアブカのトナカイのような酷いうめき声を上げているのでまだまだ彼は元気ですよ。
二人とも治癒魔法の基礎は履修していましたね。それで彼を今すぐ止血しなさい!
私はこの破砕機が二度と動かないようにするため動力源を完全に破壊します。
それから、羽を壊して救出し追加で応急処置を施した後に移動魔法で負傷者をノルデンヴィズの病院に運びます」
二人は表情を戻し敬礼すると投入口の傾斜を滑り降り、イズミさんのもとへと向かっていった。応急で良い。死にさえしなければ、腕はどうにでもなる。
次はアニエス中佐だ。先ほどイズミさんが外に放り投げたとき、上尉と下尉がタイミングよく受け止めてくれたようだ。
顔を出して下を覗くと、砂の上に敷かれたシートの上で丁寧に回復体位で横たえられていた。
破砕機を飛び降り、中佐に近づき強めに肩を叩いた。
「アニエス中佐、起きてください」
不快感に眉を寄せると首を動かし始め、ゆっくりと目を開けた。そして、飛び上がるようになると「あの子は? セシリアは?」と尋ねてきた。
中佐は北公で脱走兵扱いではなくイズミさんに拉致されたことになっている。
それも本人もわかっているが、危うくなりかもしれないこの状況で自分の立場よりもまずセシリアの心配をするというのは中佐らしい。
「全て無事です。ですが、イズミさんが負傷してしまいました」
イズミさんのうめき声が聞こえてしまったのか「生きてはいるのですね?」と不安そうに瞳を揺らしながら破砕機の方と私の瞳を交互に見てきたので、とりあえず「大丈夫です」と答えた。
イズミさんはかなりの重傷でアニエス中佐は心配で仕方ないと思うが、中佐にはこれからやって貰わなければいけないことがある。
イズミさんをノルデンヴィズまで運ぶ為のポータルは私のアイテムで開くことにした。今のイズミさんを見て再び失神されては少々厄介なことになるのだ。
「移動魔法の準備をお願い致します。イズミさんが心配なのはわかりますが、その後旅団規模での移動もあります。
ここにいる少人数が全員いなくなってしまって、その隙に商会の者が先んじてビラ・ホラへ到達占拠して権利を主張してしまう可能性があるので」
「北公はビラ・ホラをどうするつもりなのですか?」と中佐は尋ねてきた。計画については中佐でさえも、閣下を独立の最初期から支えたモギレフスキー家の者であってさえも知らないのだ。
「どうもしません。話している余裕はあまりないので端的に言えば、あなた方が考えていたような侵略行動はしません」
中佐は「信じますよ」と言うと頷いてくれた。




