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白く遠い故郷への旅路 第五十三話

「ムーバリ! ムーバリ・ヒュランデル!」


 セシリアに向かって疾走するムーバリの名前を誰かが呼んだ。それはこれまで何度も聞いてきた声だった。

 再び現れ邪魔をするというのは予想が出来ていた。しかし、いつ出てくるのかと覚悟をしていたが遅く、このまま終わってから出てくればいいと気を抜いていた。

 この上なく最悪のタイミングで彼女は現れたのだ。こちらにとっての最悪を的確に選び抜いてこの場に姿を現したのだ。


 砂漠いっぱいに声が広がり消えていくと、ムーバリの進行方向で砂埃が舞った。そして、その中から白装束で白面布をした小柄な人影が見えた。

 何度も見て焼き付いていたその姿はもう顔など見えなくても誰であるかはすぐに分かる。レアがムーバリの前に立ち塞がったのだ。


「ここであなたが動いてはいけない!」


 そういうと行く手を阻むように両腕を大きく広げた。小柄な身体に小さな両腕だが、誰も通すまいという彼女の意思がその姿を何倍にも大きく見せている。

 だが、ムーバリは怖じ気づくことは無く、止まらなかった。それどころか、殺気を強め、さらに速度を上げたのだ。


「なぜです!? 小さな子どもが殺されかけているというのに助けないというのは悪以外の何者でもない!」


「モンタン、あなたは今はムーバリ・ヒュランデルです!

 第二スヴェリア公民連邦国軍上佐という立場で、スヴェンニーでありながらブルゼイ族の、しかも王家尚書諸侯最高位の末裔を助けるということがどういうことかわかっていますか!?

 あなたにセシリアちゃんを助けさせるわけにはいかない!」


「では誰があの子を助ける!? 血の繋がりしかない父親のエゴで身勝手に殺されるなどあってはならない!」


「それでもあなたが助けるのはダメなのです!」


「問答無用! 議論の余地無し!」


 ムーバリは大きくブルゼイ・ストリカザを掲げ、半月を描くように回し柄の中間と石打付近を持つと、切っ先を突き出すようにやや下向きに構えた。


「あの子は希望。押し通る!」


「させません! 私はあなたと刺し違えてでも止めます!」


 槍を突き刺す態勢になったムーバリにレアは立ち向かった。顎を引きそのあどけなささえ残る顔からは想像も出来ないほどに視線を剣のように鋭くしムーバリを睨みつけた。

 そして、いつも使っていたナイフよりも長さのあるマチェテのような剣をどこからか二本取り出して掌の中で回した。

 さらに左足を前に構え、左手を前に右手を後ろにさせ、ムーバリの穿つブルゼイ・ストリカザを受けんと腰を落とした。


 ムーバリはレアを突き抜けても尚止まらないように足を速め、空を切るような音を上げた。


 だが、マチェテと槍の先端がぶつかり合わんとした、まさにそのときだ。

 突然ムーバリは槍をグンと下げ、レアの股の間にあった石に切っ先を突き刺したのだ。

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