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白く遠い故郷への旅路 第四十八話

 その声と共に、何かが目にもとまらぬ速さで真横を飛んでいった。


 空を切る音と共に髪を揺らして通り過ぎていったそれは棒状のもので、地面とほぼ水平に飛び、十メートルほど先で先端を地面に突き刺すと砂埃を上げた。

 煙はすぐに晴れるとその正体が何であるか、俺に向けて主張するように朝の光を受けて白々と光った。


 余韻で震え神秘的なまでにぼやけて見えるそれは、紛れもなくブルゼイ・ストリカザだったのだ。


 その槍を投げた主の声はさらに続いた。


「立ち止まるな! 人は絶望して立ち止まるんじゃない。立ち止まるから絶望するんだ! 走れ! 走るんだ!」


 またあいつか。ムーバリだ。今このときは、ムーバリ・ヒュランデル。

 だが、俺の我が儘を通すにはあいつの力だろうが、何だろうが、あるなら使うほかに選択肢は無い。


 俺は一人じゃない。だから、諦めない。

 二人とも必ず助けるという、他でもない俺自身の願いの為に、俺は走る!


 ムーバリは俺にアニエスを助けろと言った。セシリアはムーバリが必ず助け出す。

 そうだという彼の意思は迷うこと無くすぐに分かった。


 これまでムーバリはセシリアを何度も助けてくれた。

 そして、ムーバリはセシリアを希望と言ってくれた。俺の知るあいつは何重かも分からないほどの諜報部員かもしれない。だが、希望を見殺しにするような男では無い。


 アニエスの方へと向かうべく、足を大きく踏み込んだ。

 力を込めると同時に残った魔力を絞り出し足に強化魔法を目一杯かけた。

 付け焼き刃でもいい。力が欲しいのだ。

 微かだが魔力の込めた足にさらに渾身の力を込めて踝を膨らませ、大きく砂を蹴った。


 ムーバリの登場と同時にセシリアの視線に強い力がこもった。セシリア、彼女も諦めることを止めたようだ。まだ生きようというその意思に、俺は応えなければいけない。

 しかし、目は細くつり上がり鼻筋には皺が寄っている。その視線には、生き延びる事への覚悟ではなく純粋な怒りで満ちあふれていた。


 彼女は突然身体をブランコの様に大きく回し、手首を掴んでいたシバサキの左腕を軸に勢いを付けて自身の身体を逆さになるほど真上に持ち上げると、シバサキの方へと身体を落とした。

 シバサキは曲がらない方向への力に痛みを覚えて顔をしかめ、なんとセシリアの手首を放したのだ。

 しかし、セシリアは離れず、さらに足をシバサキの左上腕に巻き付かせて自らの身体を固定した。そして、コートの中に手を入れるとアスプルンド零年式二十二口径とその銃弾を取り出した。

 目にもとまらぬ速さで弾を込めると、小さな肩で支えてシバサキの顔の方へと銃口を向けた。


「この距離ならいくら私でも外さない。あなたが最後に見るのは私の銃口。さようなら」


 まさか、セシリアはシバサキを撃つつもりなのか。

 俺は二度とそれを彼女に使わせないと誓った。撃たせるわけにはいかない。

 しかも三十センチもない至近距離だ。シバサキは不死身だからいいというわけがない。相手が誰であれ、撃って誰かを傷つけたという事実を心に抱かせたくない。


「撃つな! セシリア、止めるんだ!」


 走りながらかすれた声で彼女を止めたが、それは届かなかった。


 軽快な、だが少しだけ重く響く鞭を打つような音が響き渡った。

 大きな音の後の静けさに耳が慣れていく中で、シバサキの様子が明らかになった。

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