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白く遠い故郷への旅路 第四十五話

 セシリアは腕がいきなり引き延ばされた痛みに反応するように瞼を動かすとやがて意識を取り戻した。

 辺りを見回し、自分が置かれている状況を瞬時に理解したのか、シバサキを見ると悲壮にまみれた顔をして、掴まれている手首を振りほどこうと体を揺らし始めた。

 だが、シバサキの力が強いのか、痛みに堪えるように歯を食いしばっている。


「セシリア、今助けるからな!」と俺は階段を上ろうと手すりに手をかけた。


「おっと、動かない方が良いよ」とシバサキは掴んでいるセシリアを落としてしまおうと見せつけるように大きく揺らした。


「君が得意な魔法を撃たれて、僕がうっかりよろけて落ちでもしたら大変だよ? 僕は死なないけど、この子は死んじゃうよね」


 揺らしながら破砕機の開口部をちらりと見て、にやにやと嬉しそうに俺を見た。

 セシリアは関節が痛いのか、暴れながら顔をしかめている。だが、暴れてはシバサキの手から離れてしまう。

 落ちるとは一体何処にだ。シバサキが立っている場所を考えると、俺は背筋が凍るような予感しかしない。


「何でセシリアを攫ったんだよ! もう黄金なんか無いことぐらい知ってるだろう!?」


「そうらしいね。実は僕もね、最初からそんなものは無いんじゃないかって、ずっーと予感はしていたんだよ」


 感慨深そうに頷くと、

「話合いのときも何回か、あるかどうか微妙だって言ってたんだけどね。誰も聞いてなかったよね。僕の言った通りだったじゃないか」

 とため息をした。


 嘘をつくな。シバサキは黄金は自分の物だと捜索にいた誰よりも興奮していたではないか。


「いい加減なこと言うのは勝手だ! それより、まずはセシリアを放せ!」


 シバサキは余裕を見せながら手首を捻るとセシリアを自分の顔の方へ向けた。

 そして、再びこちらを見下してくると「イズミ。君はこの子を僕から引き離して自分の物にしたいんだな?」と尋ねてきた。


「お前のものじゃない! 俺の者でも無い! その子はセシリアだ!」


 言い返すとシバサキはあぁと声を漏らし呆れたように首を回した。


「そういう流れを乱す言い方しないほうがいいよ。なんかうまいこと言った、みたいな感じでドヤるのがますますバカっぽい。

 僕が言いたいのは、何かを得るには何かを犠牲にしなければいけない。つまり、君はこの子を助ける為に一体何を差し出すんだい?」


「何も差し出さない。あんたの都合で作られた選択肢なんざ、選ぶ価値もない」


「本当にいつまで経ってもバカなままだね。僕、言ったよね? 僕は救世主なんだって。うーん、でも、仕方ないなぁ」


 するとシバサキはポータルを真横に開き、その中に勢いよく拳を振るった。すると鈍い音がした。そして、何かを掴むようになると腕を引き戻し始めた。

 同時に背後で氷の山が崩れるような音が響いたのだ。


 ポータルから出てきたのはアニエスだった。シバサキは彼女の首を思い切り掴んでいる。

 アニエスがこちらに引きずり出されると、ポータルに向かって「そのババァも捕まえとけ。そいつはモルモットだ」とあちらにいる男たちに指示を出してポータルを閉じた。


 アニエスは息が苦しさにもがき、シバサキの腕をひっかき始めた。

 しかし、シバサキの腕に筋が浮かぶと、苦ししそうな声を上げて全身を痙攣させると手はだらりと垂れ下がり、その手に握られていた杖が落ちた。

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