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白く遠い故郷への旅路 第四十四話

 入った。シバサキのオトガイに確実に入った。


――しかし、妙だ。杖で殴れば表面の金属や軸である木を伝って自ら掌に返ってくるはずの反動がない。まるで力そのものがなくなったようなのだ。


 親指と人差し指の付け根に広がるはずのじんわりとした痛みが返って来ないことに違和感があった。

 杖を振り抜こうとしたが、まだ顎の下で止まっている。俺は残った回転の勢いで右手を軸に宙を舞っていた。


 その刹那にシバサキの様子が見えた。

 顎の下には杖。確かに入っていた。だが、杖と顎の間には赤い光の幕が見えたのだ。


 いや、入っていない! 赤く光る何かがシバサキを守っている!


 攻撃が効いていないことは瞬時に理解出来たが、一撃で決めるつもりで後先考えずに宙に浮いていたのがまずかった。すぐに身動きが取れない。


 ダメージが全くないことにシバサキも気がつき、余裕を取り戻してゆっくりと不敵に笑い始めた。そして、セシリアを抱きかかえていない方の手を拳に変えた。


 痛みが来る前に視界が右に大きく揺さぶられ、身体が大きく回転した。そして、次の瞬間には地面が、さらに空が見えた。それを何回か繰り返した後に、視界は砂だけになった。

 俺はシバサキに殴られたのだ。


 両腕を地面について起き上がり、辺りを見回すとシバサキから十メートルほど離れたところにいた。

 錆びた鉄を舐めたような味が口に広がると、舌先が伸びるような痛みが走った。

 頬には外側がじんじんと張り詰めるような痛みがある。利き腕ではないはずなのにどれほどの威力で殴られたのか、強化魔法が残っていなければ首の骨が折れていただろう。


 転がる間に食った口の中の砂と血をまとめて吐き出して口元を拭いシバサキを睨みつけた。


「だから、僕には魔法なんて効かないんだって。何度言ったら分かるんだ。三回言って分からないから、お前は本当にバカなんだな」


 俺は今魔法を使っていない。勢いを付けて硬い杖で顎を思い切りただぶん殴ろうとしただけだ。

 舌打ちをしてシバサキの方へと再び走り出した。


 するとシバサキは「しつこい奴だな。調子に乗るなよ。だからモテないんだよ」と顔をしかめ、破砕機の急な階段を上り始めた。

 その動きは異様に素早く、あっという間に頂上へと登っていった。天に向けて大きく口を開けた投入口の縁に立つと、やっと階段の下まで追いついた俺を見下ろして口角上げた。

 そして、セシリアを左手でつるすように持ち上げ始めたのだ。

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