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白く遠い故郷への旅路 第四十三話

 強烈な低温の波動はヴァンダーフェルケオーデンを襲い、一撃で周囲を取り囲んでいた何百人を一撃で戦闘不能にした。

 シバサキを守っていた櫓にも直撃し波動に吸い込まれるように防御魔法は消えて崩れ去った。男たちは杖から伝わる強烈な冷たさに悲鳴を上げて縦横無尽に逃げ出すと、シバサキへの花道が出来た。


 シバサキは焦ったように左右を見回して後退ると、側で倒れていた隊員を襟を掴み上げて前に出し、影に隠れた。


「シバサキ、アンタ確か不死身だったよな? セシリアを抱えているからその子には当たらないようにはするが、アンタに痛くしないようにするのはちょっとムリだな」


 掴んでいた隊員を投げ捨てると「おい、お前ら! 何とかしろ! お前ら僕に選ばれたエリートだろ!?」と足下を見回した。

 しかし、彼の周りの人間はほとんど意識を失っていた。

 辛うじて意識のある者も凍傷を起こした手や足を押さえて悶絶していたり、魔法使いの誇りである杖さえ投げ捨ててその場から逃げようとしたりする者ばかりで戦意は完全に失われていた。


 戦う意思のない者を攻撃するつもりはなく、そもそも自分自身が戦うことに対して否定的だ。

 それでも、俺はセシリアを取り戻す為に戦う。杖先をシバサキに挑戦的に向けてシバサキだけを狙った。


 だが、俺に魔力はもうほとんど残っていない。櫓を作られる前にはほとんど切れていた。

 最後に放った魔法は実は炎熱系でも氷雪系でも、もちろんそれ以外でもないのだ。

 これまで敵や自分自身が魔法で起こした炎や熱、光によって奪われた分を時空系魔法で無理矢理遅れさせて溜め込み、シバサキを守るヴァンダーフェルケどもにまとめて押しつけただけだ。


 残る魔力はほんの僅か。

 シバサキの意識を奪うたったの、そして渾身の一撃をたたき込むだけに必要な身体強化のために残しておいた。


 顎を引いて睨み、「セシリアを、返せ」と言った。

 同時に足に強化魔法を再度かけ直し、膝を曲げ下半身に力を込めた。身体の半分のバネを最大限に縮ませたあと、踝を膨らませて地面を蹴り上げシバサキに突進した。


 正面から額を狙うのは大ぶりになる。それに頭蓋骨は思っている以上に硬い。気を失わせるにはアッパーがいい。

 走り出しと同時に杖を下に下げ、タイミングを計り振り上げてオトガイを狙う――。


 高速移動術を使ったわけではないが、視界がゆっくりと見え始めた。

 あと二メートル。杖に力の限りを込める為に強く握り直した。自らの手の中にある杖の冷たい感触とあと僅かに迫ったシバサキの顎下。


 左足を地面に付き、これまでの勢いを杖を持つ右腕全体に乗せ、左足を軸に身体を捻る。

 砂と空の世界が一回転すると、シバサキの歯を食いしばる顔が見えた。


 顎を打つ! 喰らえ、脳震盪だ。しばらく寝てろ!



――水の入った硬い革袋が割け、そこに溜まっていた水が弾けるような音がした。

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