白く遠い故郷への旅路 第四十一話
砂を蹴り上げ、砂丘を飛び越え、腕を振り上げ足を上げ、砂嵐を巻き起こして俺はシバサキに真っ直ぐ向かった。
途中で幾度となく行く手を阻もうとした軍服の男たちには杖を振りかざし、先ほどと同じ要領で土中を爆破して地面ごと吹き飛ばした。
それを切り抜けて近づいてきた者には、杖を回して石打から雷鳴系の魔法を当てて弾き飛ばした。
それさえも切り抜けてきた者たちも少なくなかった。近距離で魔法を放とうとした者の杖を左手で掴み、杖による持ち主以外への抵抗を魔力で力尽くで抑え込み、さらに魔力を逆流させて杖ごと破壊した。
壊れてただの棒きれになった杖を掴み上げ、打撃をたたき込もうとした者の杖を防いだ。棒きれと杖が火花を散らした刹那にまたしても魔力を逆流させて杖ごと吹き飛ばした。
魔法を唱えているために死角になっていた右から突撃されたが、自らの杖を掌の中で回してそれを受け止め、左手に持っていた棒きれで襲い来る者の腹部を殴った。
どこからそんな力が湧いてくるのか、自分でも分からない。
今はこの勢いを借りる為に何も考えず、杖を振るい、魔法を撃ち、撃ち返し、叩き、そして足を止めることなく進み続けた。
しかし、男たちの数は多く、攻撃を繰り返すうちに集中力を欠いて殴る力の加減を忘れ、さらにセシリアを誘拐されていることへのシバサキへの怒りで魔力のコントロールは甘く規模が不安定に大きくなり、まるで噴火でも起こしているかのようになり始めてしまった。
爆発音に紛れて他とは違う怒鳴り声が聞こえた。
声のした方を向けばシバサキがいた。距離を縮められて焦りだしたのか、「お前ら! あいつを殺せ! 急げ、何やってんだ! 早く! はやぁぁぁく!」と裏返った情けない声がを上げている。
だが、それよりもシバサキの周囲にいる者たちに目が行った。動揺で杖を手から落としたり負傷した腕を押さえたりしながら逃げ出している者がいるのだ。それも一人や二人ではない。
そうだ。そうやって逃げ出せ。こんなホコリもクソもない戦いなんて放棄してしまえ。
その惨めにも見える後ろ姿のおかげで、誰も殺さないと決めた信念を思い出すことが出来た。
人に直接魔法は当てない、地面を吹き飛ばすだけだ、と改めて落ち着きを取り戻し、爆破する位置をさらに地中深くにしてより広範囲に弾き飛ばすようにした。
砂煙で視界は悪くなるが、突撃してくるヴァンダーフェルケの足音で方向は分かる。そしてなにより、シバサキの無駄に大きい声で見えなくても場所が分かるのだ。
たまに晴れる砂煙越しにシバサキが手を振り回す姿が見えると、それに応じるかのようにどこからともなく続々とヴァンダーフェルケオーデンが湧き出てきて、目の前に立ち塞がった。
だが、飛ばしては進みを繰り返して何十人、何百人もの軍服の男を吹き飛ばし、ついにシバサキまであと十メートルに迫ったのだ。
シバサキが「お前ら、バカか! 僕を守れ! 命をかけて僕を守るんだ!」と叫ぶと、攻めることを止めて守りに入り始めた。
軍服の男たちは杖をこちらに向けるのを止めると、それぞれに防御魔法を展開した。そして、ある者は跪き、そして背の高い者はできあがった魔法の盾を上に向け、櫓のようになった。
何百人が力を合わせているのか、互いの防御魔法が連鎖している。物理防御と魔法防御が幾重にも折り重なり、先ほどの土中爆破では突破できそうにない。強行突破すればセシリアも巻き込んでしまう。
だが、何も出来ないわけではない。
そう来るのであるならば、
「面白いモン、見せてやるよ」
俺は一度走るのを辞めて立ち止め、杖を握りなおした。そして、目一杯炎熱系の魔法、これまでになく特大で超高温の魔法を煉り上げた。
「何だ? また人殺しか? 最強の魔法とかいって、それで焼き殺すんだろ。でもな、こいつらの防御魔法はお前のライターみたいな魔法なんかじゃ貫通できないぞ! 終わったな! バーカ!」
シバサキは櫓の僅かな隙間から目を覗かせ炎を湛え始めた杖を杖を見ると罵ってきたのだ。
木の洞から覗く小動物のようになりながら何を言っているのか。そう考えるとこちらが何をしようとするのが馬鹿馬鹿しくなりそうだったが何も考えずに「いや」とだけ答えて魔法をさらに強く練り続けた。
そうしている内に後方へ男たちが回り込み、杖を突き出すように構えると円を小さくして追い詰めるようににじり寄って来た。
「全体を焼き殺すわけないだろ。セシリアがいるのに」
唱えていた炎熱系の魔法はまだ継続して温度を上げ続け、身体の周囲すら熱くなり始めている。熱さに身体にじんわりと襲いかかり、痛みに変わり初めて震え出してしまいそうだ。
だが、自らにかけていた強化魔法である程度は耐えられる。まだいける。さらに杖の温度を上げた。
魔方陣の先からバーナーの様に出ていた炎はやがて青くなり、ついに可視光波長を超えて鋭く揺らめく空気だけになった。
自分の身体全体から熱が発せられ始め、周囲を包む空気が揺らめき始めた。
「じゃあどうすんだよ。言ってみせろよ!」
「凍らせる」




