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白く遠い故郷への旅路 第四十話

 急な傾斜を描く氷の壁を滑りながら魔方陣を煉り上げた。

 殺しに行かなければ殺される。それでも俺は誰も殺さない。


 例の音響閃光威嚇魔法を広範囲に使えば、どれほどいようとも一撃でシバサキ含めて全員を失神させられる。

 だが、確かに長時間行動不能にさせる強烈な一撃ではあるが、指向性までコントロールできていない。

 後ろにはアニエスとエルメンガルトがいるので使うことは出来ない。防御魔法がなければ自分が真っ先にまともに食らってしまう。

 ならば元々得意な炎熱系の魔法を使うしかない。何度も戦い続けていくうちに、致命傷にならないが行動不能になる程度の火傷を負わせる加減が分かってきていた。


 だがその前に、まずは着地で転ぶわけにはいかない。それに氷の塔からある程度離れていないと俺が邪魔でエルメンガルトが召雷攻撃を思うように放てない。

 アニエスの氷は簡単には崩れないはずなので杖を足下へ向けた。そして、作り上げた魔法を氷の斜面に思い切り撃ちつけた。


 反動で高く飛び上がると身体が回転し、壁の方が見えた。加減したつもりだが、壁は大きめの穴が開いてしまっていたようだ。そこからアニエスのやり過ぎ、とでも言いたげな顔が覗いていたが、すぐに再生して塞がり表情は見えなくなった。


 空を切る笛のような音の中で地面の方を見下ろすと、男たちは杖を上に掲げ、空中の俺を追いかけて杖先を向けてきている。まるで地面に磁石を近づけたときの砂鉄のようにも見えた。

 やがて、それぞれにそれぞれの魔方陣を展開し始め、空中で無防備な俺を狙い始めた。


 最高点を迎えて速度がなくなり、落下を始めると俺を我先に撃ち落とそうと魔法を容赦なく放ってきた。

 手柄を立てようとしている男たちがお互いの身体を踏み台にして登り始めたので、狙いはどれも滅茶苦茶だ。

 素人目に見ても統率が取れていない。下敷きにされた者は完全に潰されて魔法どころではなくなっている。勝手に潰れてくれるのはありがたいが、惨めにも感じる。

 シバサキの方をちらりと見ると、彼は何もせず余裕の表情でただ様子を見守っているだけだった。


 落下速度も速まって頬の当たる風も強くなってきた。眼下でうごめく男たちの杖の一つ一つが見分けが付くようになったので、こちらも魔法を放つ為に杖を真下に向けた。そして、地面の真下、土中に魔方陣を作り上げ、炎熱系の魔法を放った。

 魔力を力の限り凝縮させた小さな青い火の玉が杖先から地中の魔方陣めがけて水の一滴のように落ち、砂の大地の下に消えていった。

 すぐには何も起きず、そちらに向けられていた黒服の男たちの視線がこちらに戻った瞬間だ。

 地面が盛り上がるとひびが割れ、そこから光が漏れ出して視界がくらんだ。

 遅れて響いた爆音に耳が遠くなり、舞い上がった土埃で視界は茶色く塞がれた。

 しかし、煙と煙の間に黒い服の男たちが吹き飛んでいく様子が見えた。小石や土、誰かが手から放してしまった杖などが顔や身体にぶつかってきた。

 細かい痛みを堪えてさらに地面に向けて炎熱系の魔法を再び放つと、砂埃は弾けるように消えた。地面は目の前に迫っていたが、落下の勢いを相殺してうまく着地をすることが出来た。


 辺りを見回すと半径十メートルはクレーターができており、そこにいた男たちは戦闘不能になっていた。しかし、すぐさまクレーターの縁の外側からあふれ出るように別の団員が押し寄せ始めたのだ。


 背後ではエルメンガルトの雷が天から地へと炸裂している音が聞こえる。俺は振り返ることなく、足に強化魔法を込めてシバサキめがけて大地を蹴った。

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