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白く遠い故郷への旅路 第三十五話

 シバサキの足は思った以上に速い。


 装甲車で追いかけているはずなのに一向に追いつくことが出来ないのだ。

 装甲車自体は砂漠仕様である設置面積の多いタイヤに換装されており、出せても最高で時速六十キロほどで速くはないかもしれない。

 しかし、それでもよく鍛錬した人間のアスリートが全速力で短距離を走って出せても時速四十五キロだ。追いつけないというのは考えられない。


「なんで追いつかないのですか!? 装甲車は人間の走る速さより速いはずなのに!」


 走れども追いつけないことに苛立ちを見せ始めたアニエスが助手席から焦った声を上げた。


「あいつはよく分からない力を超自然的な存在から貰ってる! それで何かしてるんだ!」


「こりゃあマズいね。急いだ方が良いよ」


 助手席に座るアニエスの肩越しにエルメンガルトが顔を覗かせた。


「あいつは黄金で贅沢しようとしてたんだ。でも、それが無いって分かったのにまだいるってのは他に目的があるからだよ。

 おそらくあの子、セシリアだね。彼女が何かを握ってる」


 そう言うと前を見て、遠くを見通すように目を細めた。

 視線の先にはシバサキの背中とまだ力なくうなだれているセシリアがいる。引き離されているのか、先ほどよりも小さくなっている。


「硝石じゃないのか!? あいつも連盟政府の人間だから北公に渡るのを阻止したいんじゃないのか!?」


「あんたはあいつが、戦略だとかそんな御大層なこと考えられる奴だと思うのかい?」


 確かにエルメンガルトの言うとおり、シバサキは戦争だろうが何だろうが、まず、後にも先にも自分のことしか考えていない。

 今まさに追いかけているシバサキはもはや無関係になったセシリアを抱えて走っている。あいつにとって自分だけが良い思いする為の何かをセシリアが握っているということになる。


 しかし、それが何なのかは分からない。それが分からないことが途轍もなく恐ろしいのだ。


 これまでの彼が俺に対してしてきたこと、そして、かつてククーシュカになる前の最初のセシリアだったとき、ずっと昔、話すことさえ出来ないようなトラウマを植え付けてきたことを考えると、これからセシリアにとって必ず良くないことが訪れるのは間違いない。


 考えれば考えるほどに冷静さを失っていく。

 ひたすらに追いつくことだけを考えればいいというのは無理だ。セシリアがこれから味わう恐怖を考えなければ、彼女を救い出せないのではないかと恐ろしい。

 そして、おそらく考えもつかないような恐ろしいことをして俺たちをさらに奈落に突き落とすだろうと思うとさらに焦りが募る。

 速度は落ちていないはずなのに、視界に大きな砂丘が入り込むとまるで車の速度が落ちているように感じる。

 しかし、タコメーターを見ても針は最高速度で壊れてしまいそうなほどに震え続けていて、アクセルを踏みしめても踏みしめても速度はそれ以上出すことは出来ない。

 モーターの回転音が窓ガラスを揺らすほどに嘶き、速度を上げ砂丘を登り切って飛び跳ね、着地と共に砂を巻き上げると速度は落ちて、再び速度を上げてもシバサキには追いつかない。

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