背中合わせの邂逅 最終話
元気そうだがイルマも私も魔力はとうの昔に底を突いている。だが、雷管式銃なら魔力は関係ない。気がかりがあるとすれば集中力が劣るかもしれない。
私がその不安に駆られて撃つことに躊躇しているのが分かったのか、フラメッシュ大尉が銃の台尻を支えていた肩を叩いた。
「狙って撃つ必要は無い! お前らのタマの筋なんざ全く期待してないからな。
とにかくだ! 弾幕を張れ! それだけで充分だ。
視界が防げりゃこっちに当たらない! だが、敵は辺り一面にいる! こっちからどこに撃っても当たる事に違いはない! 乗車賃ぐらいはきっちり働けよ!」
「ヒュー、こいつぁとんだイイ女だぜ。惚れちまいそうだ!」
「ベルカ、冗談言ってないでやるよ」
二人が撃ちながら余裕を見せそう言っているのを横目に、フラメッシュ大尉は窓を開けて、「撃て! 撃て!」と怒鳴った。
開け放された窓から後方を覗くと、ヴィンダーフェルケオーデンは何故まだこんなに数が多いのかと驚くほどいた。
しかし、先ほどから数は全くと言っていいほどに減っていないが、その数に対する絶望はもはやほとんどないのである。
自分たちの発砲音で耳が慣れてきたのか気にならなかったが、アンチメイジカルライフルも魔法機関銃の合間に断続的に撃ち続けられていた。
破裂音と言うよりも爆発音に近い音が頭上から抑えつけるように響くと、赤い弾丸が集団に飛んでいく。それが着弾炸裂すると辺り一帯を地面ごと吹き飛ばし黒い煙を上げた。
やがて煙が晴れるとそこには誰もおらず、溶けた砂が真っ赤に燃えて流れているだけになった。
さらに、数人の前に張られていた薄い紫色をした幕が消えていくのも見えた。魔法のバリアが解除されているようだ。
バリアが消えると、それを追いかけるように車の上から無数の魔法の弾が飛んでいった。
それが何度も繰り返されると砂丘を埋め尽くすほどいたヴァンダーフェルケオーデンとやらが目に見える形で数を減らしていくのである。
熱で消し飛び殺したのかどうかすらも分からない、相手も殺されたことにも気がついていないのではないかと思うような陰惨な光景をおぞましいと思いつつも、抑えられない興奮で血がたぎるのを感じてしまうのは戦争の性だ。
より圧倒的な力で生を確実にその手に収めたとき、生を奪おうとした者たちへの怒りは渦を巻き、今度はこちらから奪ってやろうと狂気に体も心も乗っ取られる。
引き金は軽く、弾を打てば無意識で次を込める。引き金が軽いのではない。泥が血に代わる狂気。それが引き金を容赦なく握り、弾を込めるのだ。
引き金を握り、ボルトを引き、木箱に乱雑に放り込まれた弾を見向きもせず掌をその山に無造作に突っ込んでつかみ取り、掌からこぼれなかった一発を流れるように込める。そして、引き金を握る。
繰り返し自らの身体は勝手に動く。だが、殺しであっても精神はそれを止めようとはしない。
お前たちは先ほどこちらを殺そうとしたではないか。そんな奴など殺しても構わないと、それを後押しをするように狂気に身体を委ねる。
さらにベルカとストレルカも撃つ度に狙いを正していき、着実に黄色い閃光を敵に当て始めている。攻撃時にバリアが解かれる刹那の隙を突いて、その閃光を当ててさえもいるのだ。
弾幕を張るだけの自分たちが情けなくも感じつつも、絶望に落ちる寸前ですくい上げられた感覚に昂揚して脇は汗にまみれ冷たくなった。そして、手に汗を握るほどの歓喜と爽快感がそこには確かにあった。
先ほどまで押されていたとは思えないほどに圧倒的だ。圧倒的。圧倒的、圧倒的、圧倒的圧倒的。
歓喜を抱くべきではないという背徳感を押しつぶすほどに圧倒的。
閣下の目的は必ず果たせる。私はそのときそう確信したのである――。
~長くなりそうになったのでカットした台詞~
「そういや、北公どもがなんでイズミのビラ・ホラ到達を願ってんだか聞いてねェな、ベルカ?」
「ひゃっははは! こいつぁすげぇや! うお! ひゃははは! オレも欲しいぞ、コレ! ひゃあっはははは! おい、おいおい! 大尉! フラメッシュ大尉、次は魔法機関銃撃たせてくれよ!」
「……聞いちゃいねェか。だが、もうちょっと狙えよ。大尉殿苦笑いしてんじゃねぇか」




