背中合わせの邂逅 第二十四話
フラメッシュ大尉の話を聞く限り、この車の向かう先はイズミたちのいるところ。それはつまりムーバリ上佐がいるところでもあり、最終的にはビラ・ホラと言うことになる。
我々北公の求める勝利は“イズミたちがムーバリ上佐を伴ってビラ・ホラに到達する”ことである。
そのために今ここにいる私たちのすべきことはその勝利へ障害となり得るものの全てを排除することだ。
このまま共和国軍の車に乗り、イズミという最前線にいる上佐の障害となり得る後ろの敵たちを退ける必要があるのだ。
それに、エルフの共和国の技術力は目を見張る物がある。自分の無知さ未熟さを恥じるよりも、その圧倒的な力に対する憧れが抑えられない。
これさえあれば後ろから迫る山を黒く埋めつくほどの魔法使いの大群を蹴散らし、あのセシリアを攫った不死身のシバサキでさえ吹き飛ばせそうな気がするのだ。
否、そうでなければいけない。そうでなければ、イズミたちを三人にすることができない。
勝ち馬に乗るというのはこの場合我々なのだ。北公の希望たり得るセシリアが攫われた今、彼女を救う為に共和国軍の力が必要なのだ。
私は覚悟を決めてこぶしを握って力を込めた。今にも握り引き抜き掛けていた杖からその手を放し、引けていた腰を力の限り真っ直ぐにした。
そして、フラメッシュ大尉の正面に向き直り、ガタガタと大きく不規則に揺れる車内で足腰を踏ん張り、軍服の生地が伸びきるほどに背筋を正して敬礼をした。
「ルーア共和国軍、フラメッシュ大尉殿。自分は第二スヴェリア公民連邦国軍、第十四魔術擲弾部隊、オスカリ・ウトリオ上尉であります。
共和国軍は高度な兵器を持っているとお見受け致します。此度のムーバリ上佐およびイズミ殿一行のビラ・ホラ到達のため、この素晴らしき技術力と統率力によりご助力を願いたい所存であります!」
私が敬礼をしたのに遅れてイルマもすぐ横に並んで敬礼をした。
「現場の判断でエルフと、いやエルフとも手を組むというのをしていいのか?」
「戦争は兵士の都合では動きません。現場で兵士が何かをしても、全ては革の椅子の上に座る者が決めるのです。今私たちが選んだこれこそが、その者が決めた通りにするための現場の判断です」
フラメッシュ大尉の問いかけにイルマがそう答えた。
背筋を伸ばした私とイルマをフラメッシュ大尉は見定めるように交互に見た後、
「そうか。私たちはギンスブルグ家の私兵だ。さっきは軍所属だと紹介したが、書類のやりとりの簡略化のためだけの立場で正規兵ではない」
と大きな反応を見せること無く、壁の方へと向かっていった。




