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背中合わせの邂逅 第二十三話

「突飛な推察だな。だが、なかなか鋭い」


 天井が爆音でビリビリと響いた後、薬莢が転がる音が聞こえた。またあの強烈なライフルを撃ったようだ。


「では、その洞察力に免じて真実を教えてやろう。我々はエルフのルーア共和国兵士だ」


 あっさりと自らの正体を明かしたフラメッシュ大尉に私とイルマはさらに後退ってしまい、杖に手を伸ばしてしまった。だが、命を救って貰えたこともあったのでそこで躊躇した。


 ベルカとストレルカは首を動かして私たちの仕草を見た後、再びフラメッシュ大尉の方へと向き直った。

 この二人は剣に手を添えたり、背中の鎌の柄を掴んだりはせず、動じている様子を見せていない。

 杖に触ってしまった私たちをフラメッシュ大尉はちらりと見ると、

「ゲンズブール財団というのは連盟政府内で行動するときのガワに過ぎない。さて事実を知ってしまったな。知ってこれからどうする? 憎んでこの場で殺し合うか?」

 と壁に肘をつき寄りかかった。


 砲撃の後、機関銃を撃ち払う音が天井から聞こえてきていた。それは水平線をひとしきり撃ち抜いたのか、しばらくして途切れた。

 そして、互いに憎しみ合っていた種族がこの閉鎖空間にひしめき合っていたことが明らかにされ、張り詰めるような静けさが訪れた。

 上の砲手が再び機関銃を撃つまでの短い間隔、ほんの十秒ほどがその空気に押しつぶされてとても長いものであるように感じられた。


 その沈黙を打ち破ったのはストレルカだった。エルフは憎い生き物だと生まれてから長く教育されてきた私たちに、それは出来ることではなかったのだ。

 手を組んでいてもなお、私はこのブルゼイ族を学のない愚かな者たちと見下していた自分が恥ずかしくなり悔しさを覚えた。

 ストレルカはそれも知ってか知らずか、ため息を溢すと仕方なそうに首を左右に振った。


「この北公のお坊ちゃんと嬢ちゃんがビビって命の恩人に杖構えかけてることァ、同じ人間のアタシらが代わって謝る。

 が、聞きてェことがある。お前らは何でここまで付いてきた? 黄金がねェのはもう知ってるはずだが?」


「言っただろう。勝ち馬に乗れと上から言われただけだ。

 イズミ殿とリナ……私たちの上官であるュリナ様が同郷の友人だ。

 主の言葉である勝ち馬に乗れというのを、私たちが乗った方が勝つと言う意味で理解しそれを行動に移しているだけだ。

 まぁ、イズミ殿云々と言うより、連盟政府なんざ勝たせるわけにいかないだろう?」


 ベルカがひゅーっと口をならした後、「またあいつか」とぼやいた。そして、下を向いて後頭部を掻いた。


「おし、今すべきことがあるようだな。ストレルカ?」


 ベルカはストレルカの方を向いて肩を上げた。ストレルカもそれに答えるように「じゃあ」と首をならし「エンリョなく勝たせて貰おうじゃねェか!」と拳を突き合わせて鳴らした。

 そして、「で、オイ、北公、お前らどうすんだ?」と尋ねてきた。


 すぐに返答することが出来ない。答えなどとうに出ているはずなのだ。

 この集団は強く優れている。しかし、ただ一点が私たちを押さえ付けているのだ。

 強者が差し伸べる手に縋ることへの矜持の無さを憂いでいるのではない。その強者たちがエルフだという先入観だけが私とイルマを押さえ付けている。


 これまでしてきた黄金探しの真の目的は黄金ではない。

 とある事情によりイズミたち三人を三人でビラ・ホラにたどり着かせなければいけない。

 そして、その場に我々北公も――特にムーバリ上佐が立ち会わなければいけないのである。


 ムーバリ上佐はすでにイズミさんたちを追っている。しかし、ムーバリ上佐に任せておけば万事大丈夫というわけではない。

 突如大群をなして現れ、やがて邪魔になるであろう背後から迫る連盟政府の誇り無き騎士団を追い払い、尚且つムーバリ上佐に追いつかなければいけない。

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