背中合わせの邂逅 第十五話
そして、これだけの数に押されてまだ私の中にどこか余裕があるのは、この二人に何かを期待しているからだ。
二対二対多数が、四対多数になれば大差が無いかもしれないが、この二人の実力が混じることで力は積になるのは間違いない。
迷っている暇はなく、もとより背中合わせになった時点で考えていたのかもしれない。
願ってもない。ならば。
「仕方が無い! イルマ下尉、一時共闘! ブルゼイとの蹴りは生き残ってから決める!」
「はい!」
イルマも何かを期待していたようだ。先ほどよりも声がうわずっており、嬉しそうな返事だ。
「よっしゃ、背中は任せるぜ!」
「だが先に言っておく。我々はこの連中を撃破はしない。離脱だけを目的としている! 我々が抜けられそうになったらお前らを置いていく可能性も忘れるな!」
「そいつぁありがてぇ相談だなぁ! デカいの、まずはあすこの集団に氷の柱ぶん投げろ!」
「うるさい奴だ! 指図するな!」
ベルカが武器を投げ上げて回して握り直すと敵の後方を指さした。
指示通りに特大の氷の柱を投げつけた。その場所は気づかないほどに傾斜していたようだ。氷の柱は倒れるとそのまま坂を下り、何十人も巻き込んで見えなくなった。
そこに出来た敵たちの隙間にストレルカが真っ直ぐ突撃していった。
「ベスノーシュカ! さっきのアレ、フルート何とかでアタシの鎌をこっちに引張れ!」
そして、敵たちの中心にたどり着くと鎌を上空に思い切り投げ上げてそう叫んだ。続けて私の方へ振り向くと「今度はデカいの! アタシのケツを追っかけてるスケベどもを一列にしろ!」と怒鳴った。
何をするかすぐさまに理解して、ストレルカの後ろを走る魔法使いたちの左右から氷の壁を持ち上げた。
「上々ゥ! 今だ、薙ぎ払え!」
天高く飛び上がっていた彼女の鎌は空中で一度震えて不自然に上昇を止め、落下をし始めた。
落下するだけの速さでは得られないスピードがでると、地面に付く直前で水平に高速で移動し始めた。そして、氷壁の間にいた数十人を一度に薙ぎ払った。
「やべぇ獲りこぼしたァ! おい、デカいの! 今度は九フィートくらいのデカい槍を作れ! よく冷えてとんがってるヤツ!」
何をするかは分からずにとにかく指示通りに,氷壁の一部を崩してかき集め突き刺すことだけに特化したような槍を煉り上げた。
ストレルカが「ソイツを寄越せェ!」と怒鳴ったので彼女に投げ渡した。すると彼女は背中で受け取り、掌を返して大きく振り回すと切っ先を前に向けた。
「残りは串刺しだァ! こいつァ痛ェじゃすまねェぞ! はははは!」という狂気じみた笑い声を上げた。
何をしようとしたのかすぐに理解した。そこで敵たちの向かってくる氷壁の出口を一人一人分に狭めた。
そこに集まった敵たちは後方からは鎌と仲間に追われ戻ることも出来ず、次々と串刺しになっていった。
「今度はオレのだぁ! ベスノーシュカ、オレにも同じコトしろァ!」
イルマはベルカの指示をすぐに理解して頷き、ベルカの投げた剣に魔力を集めた。
情けないことにイルマばかりに戦いを任せている。本当のことを言えば、魔力はイルマの方が私より遙かに強い。
それは幼なじみであり、ずっと昔からそうだとわかっていた。私はただ、先に軍に入ったと言うだけで上官なだけなのである。
「ボサッとすんなァ!? デカいの! お前はゴチャゴチャ考えすぎあんだよ!」
ハッとすると、目の前に迫っていた男の顔をベルカが殴りつけ十六フィートほど飛ばしていた。飛んでいった男はその先で二、三人を巻き込んで地面の突っ伏した。
「同じコトしろっつたよなァ!? 早くやれや!」
そうだ。今は戦いの瞬間、卑屈な考えは死を招く。
杖を振り上げ、地面から氷の棘を無数に突き出した。ベルカとストレルカが追い込んでいる敵たちを囲うように棘の壁を作り上げた。
先ほどと同じことをするが、同じでは回避されてしまう。
「素晴らしい! さぁベスノーシュカ、やっちまいな!」
そう言うとベルカの剣を大きく振り回し、棘の中にいる敵たちを一掃した。
個別に戦っていたときの何倍も戦力が上がった。
追い詰められたこの状態でなお、戦いながら状況を見て瞬時に判断して指示を出してくる二人はやはり我々二人とは比較にならないほどのプロだ。
ただのプロというのは語弊さえある。生き抜く為に日常の全てが戦い、ひいては戦いの中で日常を営んでいるのだ。
戦いが起きて初めて戦略や戦術を練る我々とは戦いへの考え方の本質が違う。
敵だと厄介な、いや強すぎて手に余るが、味方ともなるとこうも頼もしいとは。私たちはこの二人を相手に戦いを挑んだというのが如何に無謀だったのか、肌に響くほどに実感させられる。
否、味方ではない。今は同じ方向を向いているだけだ。それでも頼もしいことに変わりは無い。
気合いを入れ直した。




