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背中合わせの邂逅 第十三話

 我々の戦い方は魔法使いでありながら非常に近接格闘タイプだ。


 そして、ありがたいことにここで襲ってきているヴァンダーフェルケ・オーデンとやらも、遠距離から魔法を撃ってくる戦い方ではなく、近接しての魔法を攻撃手段として用いてくる。

 アスプルンド博士の言うところの旧時代的な“突撃の名誉”を重んじる戦い方だ。


 極めつけはこの統率の無さ! 一人一人の力は強いのだが、ただ突っ込んでくるだけでイノシシと変わらないのだ。

 自分一人が攻撃することしか考えていない。周りがどう戦うかを考慮しないでいるから、近距離と遠距離の中間地点の多くが身動きをとれず杖を持ったまま棒立ちしている。


 おそらく、遠距離から強烈な一撃を繰り出すことは銃でもない限り準備なくして不可能だと言うことを理解している。

 予め策が組まれる大軍対大軍の要するに合戦形式ではなく、現在起きている戦闘は敵たちの戦い方を見る限り突発的なものであり、準備はほぼ無いと言って差し支えない。

 その状態で悠長に遠距離の攻撃の準備をするということは、敵たちに気づかれる可能性を高め、尚且つ敵にも準備の時間を与えると言うことだ。

 その状態で接近を許し、何も出来ずに攻撃されて終わる可能性もある。

 近距離での攻撃を仕掛け、まずは遠距離から大規模で破壊的な攻撃手段を封じるのが効果的だと言うことを理解しているのだろう。


 魔法による攻撃、例えば大きな火炎弾を撃つとしよう。遠距離からの攻撃が可能だ。

 だが、目標物への距離が長くなるにつれて、空気抵抗が生まれたりや燃焼するための燃料が尽きたりしていく為、最終的には強烈な一撃にはならない。

 近距離での大火炎弾は、魔方陣の形成や詠唱時間がかかる為、隙を与えることになる。


 私やイルマ、ひいてはあのブルゼイ族の二人――ベルカとストレルカとか言ったか――とは、このヴァンダーフェルケとやらは非常に相性が良い。


 だが、余裕を言っていられるのも今のうちだ。

 こちらが少ないと見るや統率がとれていなくても数で押せば近距離で短期に片付けられると想定していたが、ブルゼイ族二人だけでなく我々も善戦した為に戦術を多少なりと変えているはずだ。

 集団の後ろにいた敵たちの強烈な魔法を撃つ為の準備が整い、そろそろ動く。


「イルマ、そろそろだ」と背後にいたイルマに声をかけると「はい!」と威勢の良い返事が返ってきた。


 氷の塊をハルバードに変えて半径十五フィートほどの敵を吹き飛ばした後に再び盾を練り上げた。

 しかし、今度は先ほどとは違い、中心がやや盛り上がった三十インチほどの円形のものだ。さらに表面を冷気が出るほどに冷やして乾燥させ、さらに植物の小さな棘のようなスパイクをいくつも立てた。


「来い!」と叫ぶとイルマが私に向かって走り始めた。

 彼女は両手を胸の前辺りで開き、その両手の指先にいくつもの稲妻をたたえている。準備は出来ているようだ。

 どれほどの稲妻の威力が強いのか、その放つ光は強く日が昇っていても彼女の顔を照らし出し、さらにそこから漏れ出した小さな稲妻が彼女の足下にある小さな石や砂を宙に浮かび上がらせ震えさせている。


 浮かぶ小石を纏いながらこちらに向かってくるイルマが私の手前で右足が大きく地面を蹴った。その動きに合わせて跪き、飛び上がった彼女の真下に入り込み盾を頭上に上げた。

 彼女が盾に両足で立ち、強く蹴り上げる瞬間、私はそれに応えるように力強く立ち上がり、彼女を天高く投げ上げた。


 盾を下げて再びハルバードに変えて、後方に退いた。


 空中ではイルマが両手を掲げ、その両手に蓄えていたオレンジとも青とも見える稲妻を地面に思い切り解き放った。同時にいくつもの稲妻がまるで牢獄の鉄格子のように地面に向かって降り注いだ。

 周囲を囲んでいた敵たちは吹き飛び、さらに地面を大きく巻き込み砂埃を上げた。


 イルマの攻撃で遠距離後方までを弾き飛ばすことができた。そこに穴が出来たのだ。

 我々はその穴に向かって進み、敵との距離を変更していけばいい。準備中の遠距離攻撃者は中間距離に、放たれた遠距離攻撃は後方の追撃をしようとしている敵自身に、近距離はこちらから排除。

 これを繰り返し停滞さえしなければ、やがては活路を開ける。


 キューディラでの伝達は遅い。この人数全員が持っているとは考えられない。後方の、例のカイゼル髭とその他数人だけだろう。

 相対するこちらは二人だけ。離れさえしなければキューディラが無くとも常にお互いの状況を把握できる。


「いいぞ! いける! 攻撃を止めるな!」


 いくつもの足音、耳を塞ぐような攻撃音で返事は聞こえなかったが、それから彼女はより素早くなり、体術を使い始めて敵を倒していった。

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