背中合わせの邂逅 第十一話
「個々に大義を持ちながらも大いなる意思により統一された我々は、諸君らに降伏を勧めることはない。
魔法使い、戦士、その他如何なる者、また聖職者、王侯将相、貴族ならびに一般市民であっても全て平等な者とし、杖剣その他如何なる武器を携えた戦闘員であるならば正々堂々と戦い、そして立派に死ね。
我々はよく訓練され統率のとれたエリート集団であり、我々の攻撃から生き延びる、ましてや打破することなど不可能である。
諸君らの戦死は記録に残らず公になることは無いが、我々誇り高き騎士たちの心には永遠に刻まれるであろう!」
カイゼルひげの男がそう言うと、腰から丈の短い杖を取り上げ天に掲げた。そして、その杖先を真っ直ぐこちらに向かって振り下ろすと「いざ、参る!」と号令をかけた。
すると旗持ちの若者が「連盟に血を捧げよ!」と声を上げ走り出した。走る風圧に旗が押されて、もたもたとてとてとおぼつかない足取りでこちらに向かってきている。
それに続くように隊列が鬨の声を上げて走り出した。部隊の人数も多く、走り出すと地面が揺れるように感じた。
「シバサキってのはあいつだったか。ということは連盟政府の奴らか。また厄介そうなの連れてきたな、あの不死身の中年。まるでコシチェイだな。
だが、死なないだけの雑魚の部下だ。雑魚未満しかいねぇだろう。
ストレルカ、相手にしないでスヴェンニーの軍人さんら吹き飛ばして進むぞ!」
ベルカがこちらを見ると、拳を再び握り低く構えた。しかし、その横でストレルカは左右を見渡しベルカの肩を掴んだ。
「いんや、そうもいかないみてェだ。周りを見てみなよ」
私を含めた四人全員はすでに騎士団に囲まれていたのである。隙間無く包囲されており、そこから抜け出すには高く飛び越えなければいけない。
だが、囲む全員は魔法使いであり、魔法でそれも阻止されてしまうだろう。
むしろ、空中は無防備だ。飛び越えるなど一番危ない方法である。
「オスカリ、い、いつまで抱きしめてるの!?」
そうだった。先ほどからイルマを守ろうとして腕の中から解放していなかった。イルマを解き放ち、私は再び杖を握った。
二人組に杖先を向けたが、それよりも多くの人間がこちらに向かって突進してきている。二人に意識が集中すれば、その大勢に対応できないので狙いを定められない。
イルマも杖を握っているが、私同様に迷っているようだった。
「旗持ちチェリーボーイのひげ面保護者がゴチャゴチャ述べてる口上を律儀に聞いてる間に、囲まれちまったみてェだ。雑魚未満でも数だけは一丁前みてェだぜ」
「正々堂々と戦えってか。よく言えたモンだぜ。ただの虐殺部隊じゃねぇか」
ベルカはイルマが魔力を解き崩れた砂鉄の山から鎌を持ち上げてストレルカに投げ渡した。
「悪ぃな、ベスノーシュカ。武器は一旦返して貰うぜ! 話は後だ」
そういうとベルカも自身の剣を持ち上げ掌を返して大きく回して砂と砂鉄を払い、ストレルカと共に隊列に向かっていった。
「あ! ちょっと! 待ちなさ、きゃっ!?」
イルマが走り出した二人に向かって手を伸ばして呼びかけようとしたが、近くで爆発が起きて遮られた。
騎士団の誰かが先陣を切り、炎熱系の魔法をこちらに向けて容赦なく放ってきたようだ。
何かを期待したわけではない。この誇りの無い騎士団が私たち北公の敵だというのをより強く理解した。
これだけの大軍では数の上でかなうわけもない。すぐにでも離脱するべきだが、取り囲まれた以上、ここは戦って活路を見いだすしかないようだ。




