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背中合わせの邂逅 第十話

 だが、身体に痛みはない。

 痛みも感じないほどに強烈に攻撃されてしまったのかと思い、身体を起こして腕や足をまさぐってみたが、怪我はどこもしていない。もちろん、腕の中にいたイルマも無傷だ。


 背後にいたベルカが「あっぶねーな! チクショウが!」と声を荒げた。

 そちらへ振り返ると、崩れていく砂鉄でできた蛇の残骸を背後にベルカはゴロゴロと転がっていた。左袖がちりちりと燃えて煙が上がっている。それを砂で消そうとしているようだ。

 ベルカは五回ほど転がり、その勢いで立ち上がり、小さくなった火を叩くように払うと睨め付けてきた。

 しかし、私はもちろん、イルマも腕の中で魔法など唱えていない。そのような余裕などない。


 ベルカの袖の燃え方は雷鳴系を当てたときのようなものではなく、火が直接当たって焦げている様になっている。はだけた腕にも強い雷鳴系で攻撃されると出来るリヒテンベルグ図形も見当たらない。

 イルマは私が覆い被さると同時に砂鉄を解除していた。

 自分もイルマも不得意な炎熱系の魔法を隙を作る為に使うようなことはしない。


 では、誰が――。


「おい、見ろ!」


 拳を振り上げる直前に身体を捻り足を返して立ち止まっていたストレルカが、砂丘の上を見上げていた。彼女の視線の先には人影が一つまた一つと並び始めている。


 やがて人影は増え始めて、横一列になりこちらへと歩んできていた。見えている砂丘の稜線を埋め尽くすようになると立ち止まり、そのうちの一人が旗を掲げ始めた。

 朝の砂漠の丘は風が吹かず、旗ははためくことはなかった。だが、内側で支えられているのか、別珍か何かで光沢のある上質な生地に細かく編み込まれ隆々とした刺繍による彼らの名前とシンボルを、四方の角を皺一つ寄せずにぴっちりと広げてこちらに見せつけている。


「……ヴァンダーフェルケ・オーデン?」


 旗の文字を読むと確かにそう書いてあったのだ。

 しかし、聞いたこともない名前の騎士団だ。北公は貴族社会を脱して騎士団などは既に無く、武装集団は全て軍隊にまとめられている。

 その中で士気を挙げたり統一感を出したりする為に、正規部隊名の他に○○騎士団と名乗る部隊はいくつかあるが、そのような名前の部隊は存在しない。

 イルマも文字を読み、口を開けたまま不思議そうな顔をしている。


「ハヤブサですかね。鳥をシンボルにすると言うことはおそらく連盟の部隊ですが……、いったいどこの領地の部隊でしょう。聞いたことがない」


 統一された軍服は黒いダブルボタンの上着の袖や襟は白く縁取られていて、遠目でははっきりと分からないが、羽を広げ爪をむき出しにしてドクロを掴んでいるハヤブサをモチーフにしたブロンズのバッチを付けている。

 ジョッパーズも上着と同じ黒で、その下も同様に黒く膝下まである革のブーツを履いている。

 腰にはそれぞれの杖が携えられており、全員魔法が使える者たちのようだ。


 旗を持っている男はまだ若いようで十代前半にすら見える。白くて丸いニキビ顔に精一杯の威厳を乗せようと厳しい顔をしているが、緊張の方が強いのか強ばって見える。


 その旗持ち青年の横にいる、肌の色が青に近いほど白く、そのせいで生えたカイゼルひげがやたらと目立ち、かぎ鼻の両側にある目は落ちくぼみ頬のこけた男が笛を一度は短く、そして二度目は長く吹くと横一列の隊列が止まった。


「我々はサー・ステロバティス・シバサキが指揮する偉大なる諮問部隊、鶻鸇騎士団(ヴァンダーフェルケ・オーデン)である!」

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