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背中合わせの邂逅 第九話

 しかし、二人はにやついたまま、「んなら、これならどうだ?」とそれぞれ反対方向に走り出したのだ。


 イルマは歯を食いしばり、砂鉄の蛇を二手に分けて二人を飲み込もうと追いかけ始めた。

 足の速い二人は遠く離れ始め、イルマの視界から見えづらい位置まで駆け抜けると、今度は我々を回り込むように走り出したのである。

 イルマはどちらも視界に捕捉しなければいけならず、視線が左右に泳ぎ始めている。


 僅かに足の遅いベルカに集中力が向かった頃に、タイミングを見計らったように「金物が欲しけりゃくれてやるよ!」とストレルカが身につけていた武器以外の金属を走りながら外して蛇の方へと投げつけてきた。

 イルマは先ほどのように意識してコントロールするれば金属の武器だけを引き寄せるられる。しかし、大量の砂鉄を操ることだけに集中してしまうと無作為に金属を引き寄せてしまうのである。


 投げられた金属の指輪や腰に付いているアクセサリーは砂鉄の蛇に飲み込まれると、速度を上げてその体内を通り抜け魔力の発生源であるイルマに向かってきた。

 致命的になりそうな大きな物は無いが、小さいがたくさんのアクセサリーを顔や身体に投げつけられて、その痛みを堪えながら砂鉄を操っている。

 趣味の悪い装飾をした大きい金色のバングルが飛んできて額に当たると、額から血が出てきてしまった。

 イルマは痛みを堪え額から流れ出た血を拭うこともなく砂鉄を操り続けた。


「遠距離攻撃が何だってなァ! 近くに飛んで来りゃ勝手に守ってくれるんじゃねェのか? 痛そうじゃねェか! ハンパな攻撃ならやめちまえェ!」


 イルマはストレルカの挑発にむきになり始め、全身を力ませて砂鉄の大蛇が這う速度を上げようとしている。足元の地面からさらに砂鉄が盛り上がってきた。

 いつまでも休んでるわけにはいかない。何かをしなければイルマがあっという間に果ててしまう。

 みぞおちが蹴られたが呼吸も落ち着いてきた。二人の拳を止めようと再び杖を氷の棍棒にして構えた。


「オスカリ、あなたはまだ休んでいて!」


「そういうワケにはいかない! 君だけを戦わせるわけには!」


 だが、ダメージはまだ身体に確かに残っていた。膝が崩れてしまった。精神論だけではどうにもならない様だ。イルマは私を護ろうとしてさらに砂鉄の速度を上げた。


「イイ男じゃねェか! デキてんのかァ!?」


「ヒュー、ソイツぁ熱いなぁ! 女の方もさすがだぜ! これだけの砂鉄を一遍に操れるのはさすがだぜ! 鉄骨十本振り回してんのと同じだぜ!? 連盟政府のボンクラ魔法使いとは格が違うねぇ!」


 ベルカとストレルカはさらに距離を取ると砂鉄の波をぐんぐんと引き離していった。

 だが、残念なことに二人の足の速度が上がったわけではない。砂鉄の蛇が鈍重になっているのである。

 距離が出るほどに砂鉄は重たくなる。二人が速く走れば、それを追いかける為に砂鉄の速度を上げなければいけない。それが二人分、それぞれ追いかける為に余計に魔力を消費しているようだ。


「頑張れ、頑張れェ、そばかす女(ベスノーシュカ)ァ! 多ければ多いほど重いよなぁ! アタシらまだまだ走れるぜ!」


 両側に回り込んだ二人は対角線上、イルマの視界ギリギリでどちらかに意識を回すともう一人は完全に見えなくなるように向かい合うと、今度は私たちを挟み込むように走り始めた。


「オラオラ、よく聞けよ、デカいの? オレたちゃ今からどっちかがベスノーシュカをブン殴るぜ?」

「アタシかベルカか、よく考えて守ってやれよ?」


 攻撃を繰り出しているイルマが殴られるのは当然だ。だが、そこまで追い詰められたというのに足の立たない自分が情けない。

 私はイルマの盾ではなかったのか。彼女が魔法を存分に発揮する為に、その時間を作る為の盾ではなかったのか。

 この二人組は強い。イルマが魔法を使い続けて無防備な状態で殴られてしまうのは致命傷になってしまう。

 殴るのなら私を殴れ。違う。殴られるのは私であるべきなのである。


「さぁどっちが殴るか?」


 左右を囲む二人が同時に気合いの入った怒号を上げた。


 イルマの砂鉄は遠くに引き離された挙げ句、自分の所に戻す前に二人は辿り着いてしまう。手元にある量では拳を防ぎきれない。

 ここはとにかく私がイルマを守らなければいけない。足を踏みしめて立ち上がれば一人は防げる。

 だが、どっちが拳を振り上げる?


 ベルカか? いや先ほど狙っていたのは自分だった。では、ストレルカか? そう思わせているだけではないのか?

 拳だけならベルカの方が強い。だが、ストレルカも並以上であることは確か。私はある程度なら耐えられる。しかし、ほとんど無防備なイルマが喰らえば、ただではすまない。


 こうして悩んでいる間は二人もどちらが手を下すかを決めていないだろう。私が決めた瞬間の僅かな動き、表情、その全てを嗅ぎ取って瞬時に二人でシンクロするように同じ判断を下す。

 それが分かっているならどちらかではなく、二人からまとめてイルマを守れば良い。

 しかし、ただ守るだけではダメなのだ。この二人の防御しても有り余る攻撃力を去なすにはこちらも攻撃に転じなければいけない。

 私は動けない。攻撃も半端なものしか繰り出せない。つまり二人の拳を同時に防ぐのは不可能。


「デカいの! 守らなきゃヤベェぜ!」


 どちらだ。わからない。

 身体が守られなくてもいい。足だけに残った全ての力を込めて立ち上がりイルマに覆い被さった。


 そのときだ。爆発音が背後から聞こえた。

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