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背中合わせの邂逅 第八話

 拳は突如動かなくなった。

 ベルカの顔面に拳が届く寸前、髪の毛を風で動かすほどに近く、あと少し、本当に指の太さ一本分だった。


「デケぇのにすばしっこい足裁きだったな。そらぁ褒めてやるよ」


 拳にベルカの話すときに出る吐息が微かに触れ、産毛を揺らした。

 勝利が見えたからといって油断していなかったはずだ。だが、今こうして拳を止められて感じているこの絶望は、まさしく勝利への慢心からの転落によるものだ。


「だが、冷静になってれば、なぁ。お前ン中で抑えようとしたお前がいたの、見えてたぜ? 戦いってのはそこだよ」


 首に何かが巻き付き、締め上げてきたのだ。巻き付いているそれは紐や棒ではなく、誰かの前腕部だった。


「周りを見て戦いナ。デカいの」


 首に巻き付いていたのはストレルカの腕だった。

 まさか、イルマは負けたのか、そう思った。


そばかす女(ベスノーシュカ)を信頼してるのはさすがだ。だが、些か過信が過ぎたみてぇな」


 まるで悟られているかのような言葉に下半身の力が抜けた。

 それも見逃さず、ベルカは私の足、それも先ほどと同じ膝裏を蹴たぐった。

 バランスを失い前に倒れると同時に首に巻き付いていたストレルカが離れて背中を蹴った。勢いが付き前に倒れていくとベルカがまだ眼前にいた。そして、低く構えて右拳でアッパーをしてきたのだ。


 何処に当たったのか分からなかった。しかし、地面が近づいてくると次第にみぞおちに痛みが走り、それは身体の内側に重く広がるように響き始めた。

 今度は本格的に入ってしまった。うつ伏せのまま意識が飛びそうになったが、堪えて身体を仰向けにした。

 空が見えるまでの間に、二人が距離を取り、それと入れ替わるように不安そうな顔のイルマが駆け寄ってくるのが見えた。


 イルマはまだ無事なのか。それならばまだここで意識を失うわけにはいかない。

 駆け寄り何かを言うイルマの声が水の中から聞こえているようになっていたが、それを辿り意識をはっきりさせた。


 ぼやけていた視界に砂鉄の黒い球体と絨毯が見える。彼女はまだまだ解除せず、砂鉄を操っているようだ。


 耳が通り始めると最初に聞こえたのはイルマの声だった。イルマは名前を呼んでいる。


「大丈夫だ。大丈夫」


 彼女を安心させる為に呼ぶ声に答えると、身体を起こして砂に埋もれそうになっていた杖を掴み上げ強く握り直し杖先を二人に向けた。


 二人はニタニタと笑うだけで近づいてこようとはしない。私が杖を向けているからではなく、イルマがいるから近づかないのだろう。


「そのヤベェ砂鉄の弱点、アタシらわかったぜ? ヤベェのはヤベェがそれを知ればどうってことねェな」

「距離をとっちまえば、こっちのモンだ。砂鉄ってのは鉄だ。そりゃあ重てぇよな。離れりゃあ支えるのも楽じゃねぇよなぁ」


 やはり弱点には気づいていた様だ。

 イルマは動揺を顔に出してしまっている。隠し通すことはもはや不可能だ。それにはイルマも気がついているようで、「た、確かにそうです!」とあっさり認めた。


「ですが、それだけでは実戦に持ち込まない理由になりません! それに近づかなければ武器でも拳でも意味がありません!

 近くなればなるほど反応速度は上がります! 反射で砂鉄が私を守るので、遠距離攻撃も効きません!」


 だが、すぐに視線を鋭く持ち直し、二人にイルマは声を上げて反論した。杖を振り上げて砂鉄を全て足元に集めると、それを蛇のように一本にまとめた。


「あなたたちが離れようとしても、私が追いかけます!」


 そして、杖を振り下ろすと黒い蛇を二人の方へ差し向けた。

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