背中合わせの邂逅 第七話
そして、二人揃って真っ直ぐ突進してきたのである。
私はすぐに杖を腰に戻した。
「どうしたぁ! 諦めたのか、デカいの!」
いいや、違う。これはチャンスだ。
相手が拳で向かってくるなら受けて立つ。なぜなら拳は私の専売特許なのだ!
その昔、イルマがイングマール領に越してきたばかりのとき、馴染めずにいじめられていた。それが私はとても不愉快で、イルマを守る為に格闘技を始めた。やがて強くなり、武器の扱いも修得し軍に入った。
私はありとあらゆる武器の扱いを修得している。イルマが砂鉄を扱うように個人で使える魔法があるとしたら、私の場合は杖に氷の武器を纏わせて戦う方法なのである。
しかし、魔法は魔法。私は魔力には自信が無い。それ故に杖を持つことには自信が無い。私の中での戦い方で最も強いのは、半端な魔法ではなく拳そのものである!
足を肩幅に開き、腰を低く落とし、さらに両手拳を前に構えた。
「おら、どうしたぁ! オレたちが拳で殴りかかろうとしたら急に顔に自信がみなぎったじゃねぇか! お前はこっちが真打ちか!?」
何を言われても私は答えない。
この二人は拳で殴りかかってきたとしてもチームワークで動く。連携を崩すには、まず二人を引き離す必要がある。初手、どちらかを狙う必要はない。
先ほどストレルカに蹴られた時点で、足腰を中心とした下半身が隙になるのは見抜かれている。
相手は戦いにおいてプロ。先ほど同様にスライディングで股下に入り込まれて足をかけるという同じことはしないはずだ。
だが、それでも隙である股下を狙ってくるのは間違いない。
二人があと数歩に迫ったとき、二人の中間の地面を思い切り殴った。
地面を吹き飛ばすとやはり下を狙っていたようだ。低く攻撃を繰り出そうとして姿勢も二人とも同時に空中へと高く逃げたのだ。
私はベルカのみに集中した。無防備である空中ならこちらに分がある。左に避けたベルカの真下に入り込み、足首を掴んだ。
その横でイルマはストレルカを空中で捕縛しようと砂鉄で追いかけ回している。しかし、すばしっこいようで交わされているようだ。だが、おそらく問題は無い。
あちらはイルマに任せて、私はベルカを地面に叩きつけた。しかし、ベルカは腕をバネのようにしならせて地面を手で受けるとすぐさま足首の手をほどき、地面を蹴って飛び上がった。
先手を打とうと拳をベルカに振り上げ右ストレートをお見舞いしたが、前腕で受け流されてしまった。
しかし、ダメージは確実に通っているようだった。拳を受けた前腕から血が出ており、かかった力を堪える為にビリビリと身体を震えさせている。
「素晴らしい! お前、魔術擲弾ナントカ辞めた方が強いんじゃねぇのか!?」
「生憎、北公で魔法使いは自分のような若輩でも重用される! それに給料も良いのだ!」
「その方が愛しい女にも顔が立つしなぁ!」
「あの子は私より貰っている!」
「そいつぁ笑えねぇぞ、甲斐性無し! はっはぁ!」
拳の応酬が続いたが、ベルカは防戦になり後退していった。
拳を前に構えてはいるが、ひたすら私の拳を受け流すことに専念して攻撃に転じてくる様子が無い。最初は余裕綽々と笑いながら受けていたが、いつしかに顔からも表情が消えている。
どうやら受け流すことに必死になっているようだ。
これはいけるかもしれない。この男を下せるかもしれない。
いくら受け流されようとも、続けていれば守りの腕は下がりやがて必ず隙が出来る。
戦いのおいて実力も経験も上であり、生きる為には勝ち続けなければいけなかったこの男を、私は倒せるかもしれない。
このまま押し切れば間違いなく!
しかし、追い詰め続け希望が見え始めたそのときだ。ベルカはすり足で距離を取ると無表情を一変させにやりと口角を上げたのだ。さらに両手を広げて拳を解除し、まるで誘い込むようにこちらを見ている。
この期に及んで何故そのような顔が出来るのだ。
罠である。罠であることは分かっている。何をするつもりだ。
だが、ここで止める気は無い! 止まることはない! 罠なら有り余る力で壊し、拳を届けるのみ!
近づくにつれてそのまま口角を上げて見上げてきた。
かまうものか。左足に全体重を乗せ、さらにその全てを右の拳に託した渾身の一撃を腹の立つにやけた顔めがけて放った。




