背中合わせの邂逅 第六話
さらに彼女が杖を強く振ると、まだ私の背後に残っていた黒いそれが脇の下を通り抜け、大きな棘のようになり二人の方へ向かった。二人はすぐさま反応し後方に引き下がった。
棘は二人を追いかけたが、十ヤードほど離れると勢いを失って止まり、溶けていくように崩れていった。
「こいつぁスゲぇな。見たことねぇ魔法だ。だが、こりゃ……」
ベルカは崩れて地面に落ちたそれを足先で警戒するように蹴り、足の甲に乗せるようにして確かめた。
靴の上に乗った砂の色は黒く、さらさらと落ちていった。それを見届けた後に足を戻すと「砂鉄か?」と顎を引いてイルマを見た。
イルマは自らの切り札であり自信の源であるその魔法をたったの一撃で理解されてしまったことに顔に焦りを浮かべた。
その反応を見てベルカは口角を上げた。
「そばかす女は雷鳴系が得意なんだろ?
聞いたことあるぜ。雷鳴系の魔法使った後に杖がジャリジャリするってなぁ。
ありゃ知らねぇうちに砂鉄集めてるんだってな。それをこうやって使うたぁなぁ。さすがだぜ」
「だろうなァ。しかし、まァ見ろよ、そばかす女をよ。息も絶え絶えで、髪の毛ボサボサに逆立ってんじゃねェか」
さすがに戦い慣れている二人だ。魔法を見ただけで特性を理解されてしまった。
彼らの言うとおり、これは雷鳴系の魔法の応用である。
雷鳴系の魔法は地中の鉄分を集める性質がある。錬金術で集めれば良いというかもしれないが、錬金術で出来ることは鉄分の多い土ごと持ち上げることであり、ここまで砂鉄だけを正確に地中から集められない。
持ち上げるのは砂鉄のみであり、さらに砂の一粒一粒で操るので形を自在に変えることが出来る。
これこそがイルマの切り札たる魔法なのだ。生まれ持っての雷鳴系魔法の素質と彼女の魔法へのポテンシャルの高さを合わせ、アスプルンド博士によるその新しき使い方を実践した魔法だ。
イルマは負けじと二人を睨め付けながら杖を前に突きだした。
すると、地面に広がっていた砂鉄は宙に浮き上がり、らせん状になった。さらに杖を振ると、先ほどの外から引かれるように身体の毛がよだつような感覚が再び強くなり始めた。
それは次第に強くなると、手元にある杖がそのらせん状の砂鉄に引かれるような感覚に襲われた。
様子を窺っていた二人も同じようで、武器がぐんと砂鉄の塊に引かれるようになっいる。
二人は武器に引き摺られると足が動き始めた。つま先に砂の山ができあがると、二人はらせん状の砂鉄から離れようと踏ん張り始めた。
次第に武器を引く力の方が強くなり、ぐんぐんと引かれてつま先の砂山は大きくなった。
しかし、引かれているのが武器だけだとすぐに気がついたのか、ベルカはストレルカに目配せをすると武器を手放した。
武器はらせん状の砂鉄に飲み込まれていき、武器が手から離れたことを見たイルマはついに飛んできた武器を砂鉄で飲み込んだ。
「あなた方の武器はもう封じました。すぐに降参してください!」
「武器がねぇんじゃなぁ」と二人は困ったように顔を見合わせた。それに少し気が抜けたのか、イルマは笑顔を漏らして魔法を弱めてしまった。
「こいつぁ仕方ねぇ」「そうだなァ。ンじゃあ」
二人はイルマの方へ同時に振り向くと「拳でやるしかねェだろ!」と両手拳を握りしめた。
「オレたちナメんなよ! 拳でも戦えるってこと忘れんなぁ!」




