背中合わせの邂逅 第二話
「確かに、セシリアはオレたちブルゼイ族の、それも王族の末裔だなァ。
だが、あの子はイズミに任せてある。あいつなら大丈夫だ。任せるも何も、あの子はオレらよりもあいつらの傍にいた方がいい」
彼らの自信は腕っ節の強さだけからくるものではない。あのイズミという男をもはや完全に信用しているのだ。
だから彼らは小さくなり消えていく装甲車に振り向くことを一切せず、それを追わんとしている我々北公を正面から受けているのだ。
イズミもこの二人を信用している。躊躇の無い加速を続け、シバサキに追いつくべく止まることを考えずに砂漠をひた走り続けている。
お互いの行動へ不安を全く抱いていない。それはお互いにすべきことを必ず成し遂げると確信しているからだ。
素晴らしいと言えばそうだ。だが、対峙すればこれほど厄介なものは無い。
そして、両者に強固な信頼が築かれているならば、我々はここでこの二人と戦うわけにはなおさらいかない。
黄金捜索として始まったこの任務における北公の真の目的については、ムーバリ上佐から全て聞かされた。それは衝撃的な内容ではあったが、少なくとも私はそれを希望に満ちあふれているように感じた。
そのために、ここで戦うのは我々の目的にはそぐわないし、私自身も戦いたくないのである。
しかし、その目的はアスプルンド五カ年大計の中でも超機密事項。
閣下と一部の上級将校のみにしか知らされることはなく、最終段階になったところでやっと私たち二人だけに教えられた。安易に言うわけにはいかないのである。
そして、その内容も内容であるため、もし成し遂げる前に言ってしまえば、このブルゼイ族二人は逆上してしまう可能性が高い。それがイズミたちでも同じことだ。
「かかって来いや、スヴェンニー! こっから先は通さねェよ! 相手がお前らならなおさらなァ! 故郷は渡さねェ! 雑魚だろうが何だろうが、全力で叩き潰してやる!」
女の方、ストレルカとか言ったか、そいつが眉間に皺を寄せて大声を上げた。
「私たちを蔑み追い出したのはあなたたちでしょう!」
「ああ、そうだな! じゃ、お前らもスヴェリア内乱で殺し合ってたヤツの末裔だから、ご先祖様の分まで謝れとか言われてぇか?」
男の方、ベルカもイルマに言い返した。このままでは危うい事態に発展しつつある。
争うわけにはいかないというのに言い返したイルマの手は杖を握る力を強くしている。力みが頭にも登り、歯も食いしばっている。先手に出てしまわないだろうか。
だが、それは相手も同じようだ。互いの言葉でさらにヒートアップし始めてしまっている。
「言ってることがちぐはぐです! なんで私たちを通さないのですか!?」
「お前ら個人の意思じゃねぇんだよ。オレたちゃブルゼイ族、スヴェンニーって民族の意思を理解出来ねぇ。
だがよ、もしかしたらって考えたら通すと思うか? 過去のことなんざ、オレたちゃどうでもいい。追い出した奴らが復讐しに来たかもしれねぇって思うだろうが!」
「くっ、そんなこと! ならば余計に話し合うべきです!」
「話し合うだァ? ンだけ杖ギラギラさせてる奴らがいけしゃあしゃあと抜かせェ!」
言い争うイルマを横目に、杖を二人から外さずにムーバリ上佐の横へ移動した。
「ムーバリ上佐、相手が先手を打ってこないことからも、これは間違いなく時間稼ぎです。
行ってください。イズミとアニエス中佐を追いかけてください。上佐一人でならまだ追いつけるはずです」




