背中合わせの邂逅 第一話
一体、何が起きているのだ。目の前で起きていることの展開に追いついていけない。
イズミたちと対峙していたらトンボが爆発。そこへあの中年の出現し子どもを攫った。
しかも、気がつけばいつの間にかあの子どもを攫っていった。女の子はイズミの横にいた。立ち向かう我々は視界の真正面の、さらに真ん中にいたはずなのに。
目にも留まらぬ速さで動いたとでも言うのか。タイミングを考えれば、爆発はあの中年がやったというのか?
あの子どもを攫った中年は、ときどき話合いなどに顔を出していたよく分からない男。だが、黄金を狙っていたことは確かだ。
しかし、この期に及んで何故ここにいるのだ。
ここはもうほとんどビラ・ホラだ。もう案内は必要がないはず。我々同様、あの子が必要な別な理由があるとでも言うのか。
それにどうやってここまで来たというのだ。我々が二重尾行されていたのか?
だが、混乱している場合ではない。ここは一度我々の目的を整理しよう。
先ほど上佐の話を聞いた結果、しなければいけないことは複雑だが、最後までにすることの一つ一つは単純なことの繰り返しだ。
上佐を含めた我々でイズミ・セシリア・アニエス中佐の三人で行動を最後まで共にする。これだけなのだ。
目下注視すべきは、イズミはあの中年を追いかけて先に行ってしまったことだ。
このまま行かせてしまっては、先ほどムーバリ上佐に聞かされた通りにはならなくなってしまう。我々も追わなければいけない。
しかし、立ちはだかる者たちがいるせいで砂の地平線の先へと消えつつある装甲車を横目で見ることしかできない。
ブルゼイ族の二人組は氷の壁に開けた穴の前に立ちはだかりエモノの切っ先を光らせて、我々を通すまいと塞いでいる。
目を離してしまえばすぐにでも見えなくなりそうだが、色の黒い装甲車は白い砂漠で上り始めた強い朝日を受けて影を長く伸ばして目立っている。
だが、見通しが良くてもやがては地平線の彼方へと消えて無くなってしまう。急がなければいけないことに変わりはない。
汗ばみ震えを抑えられない手に力を込め、イヌツゲの杖に人差し指と親指を押しつけて握り直した。
私の唾を飲み込む仕草を見た男の方は、私の中に渦巻く焦りを見抜いたのか
「自分の作った氷の壁に阻まれたな、笑えねぇな。こいつぁ立派な壁だぜ。褒めてやるよ」
と笑い、氷壁を左手で軽く叩いて見せた。
シバサキまで閉じ込めるつもりだったが、すでに距離を取られており間に合わず我々だけが取り残され、イズミたちはこの二人に逃がされ、さらにまずいことに自分たちの足まで塞いでしまったのだ。
ならばと氷壁を解除してしまえばいい、とはいかない。この二人が縦横無尽に動き回れるようになり攻撃を仕掛けてくるので、解除しようにもできなくなってしまったのだ。
「おい、ブルゼイ族! 邪魔をするな!」
杖先を揺すり警告するようにしたが、二人は武器をより攻撃的に構えると金属を握りじりりとするような音を立てた。武器についている金具がその筋肉の震えを拾い上げて不気味に鳴いた。
確かな腕による自信がみなぎり、人を切りつけることへの躊躇がみじんもなく、覚悟を上回る殺気を発揮を放っている。
「邪魔だ? 邪魔してんのはお前らだろ。あのプリャマーフカがいねェとアタシらはビラ・ホラにはたどり着けねェんだよ」
「そうだな。お前らも早く追いかけないと間に合わなくなるぜ?」
抑揚が無く低い声でそう言った二人は殺気も然る事ながら眼力も恐ろしく、氷壁に閉じ込められているのは自分たちではないかと思うほどである。
この二人とその仲間たちを閉じこめんと氷の壁を作り上げたはずの自分たちが、隙間を抜けようするためにその門番へ立ち向かおうとしている挑戦者のようだ。
「あの女の子、セシリアはお前たちの姫君じゃないのか!? 追いかけたければ我々の話を聞け!」
完全に覇気に圧され、私の声は裏返ってしまっていた。だが、彼らはそれをあざ笑うことはなかった。




