白く遠い故郷への旅路 第三十二話
数十匹の群れは小さく見えていたが、爆発は大きく目がくらむほどに眩しく、そして、頬に当たる熱も凄まじく思わず顔を腕で覆ってしまった。
閃光は消えて煙だけになると、残骸と共に何匹かのトンボが地面に落ちていくのが見えた。
「おい、お前ら! ふざけるな! あいつらは関係ないだろう!? なんで撃った!?」
俺はユカライネンとウトリオにそう尋ねたが、二人も振り返り突然の爆発の方へと視線を奪われ口を開けてそれを見ていた。
しかし、俺の問いかけに自らの杖の警戒もおろそかになっていることに慌てだしこちらを振り向いた。
そこには敵前で杖を下げてしまったことだけで慌ててるいような表情だけではなく、予想だにしない自分たちの力を大きく超える大爆発への不安のようなものも垣間見えている。
「し、知りません!」とユカライネンが慌てるような声で即答した。この二人は焦っていても嘘がつけるようなタイプではない。
トンボたちを撃ち落としたのはこの二人ではない。ではいったい誰が――。
突然、そのときまでただの傍観者だったムーバリが鬼気迫る表情に変わると同時に「イズミさん! セシリアを!」と耳の奥まで響き渡るような怒鳴り声を上げたのだ。
声が聞こえると同時にすぐ横を何かが飛んでいき、髪の毛を揺らした。
飛んでいった何かを追うようにそちらへ振り返ると、地面にはブルゼイ・ストリカザが刺さり、残った勢いでゆんゆんと小刻みに揺れていた。
槍が刺さっている場所にはセシリアがいたはずだ。しかし、そこに彼女の姿はない。
「なぜセシリアから目を離した! 大馬鹿者!」
ムーバリの怒鳴り声をかき消すように、逃げ始めて散り散りになっているトンボたちの間で再び爆発が起きた。遅れて聞こえた爆音が収まると、
「イズミ、やっと僕のところへ連れてきてくれたか。遠路はるばるご苦労だったよ」
と背後から声が聞こえた。
それはヤツの声だ。いつも関わりが無いように振る舞いながら、最後には必ず俺たちの前に立ちはだかるあいつだ。
聞き慣れるほど聞いても聞き慣れないほど不愉快で、タバコに焼けた声で俺の名を呼び捨てにした。
しかし、そのときばかりはこれまでに無いほどの嫌悪を抱いた。セシリアが俺の視界にいないという、その一点だけで、まるで暗闇に放り出されたような恐怖が背中を走った。
考えたくもない、まさか、と思いながらそちらへ振り返ると、撃たれているトンボたちの爆発の閃光を背に受け、逆光の中で目を光らせているシバサキがいたのだ。
そして、考えたくもなかったその最悪なことが起きていた。
シバサキはセシリアを力なく垂れ下がる砂袋のように脇に抱きかかえているのだ。




