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白く遠い故郷への旅路 第二十九話

「ひゅー、きた、きた、きやがった。お待ちかねだったぜ、北公サンよォ」


 現れたのは北公の三人組だ。

 ベルカとストレルカは、三人組の姿を見るや否や首をぐるりと回し口角を上げて睨め付け、木を這い上る冷たい蛇のような殺気を放ち始めた。

 いよいよお出ましの仇敵をこの場で叩きのめしてやろうという、むき出しの敵意を向けている。


「お前ら、どうやってここまで来た? あー、いや、言う必要なんざねぇ。オレらのかわいいトンボに便乗してただろ? さっき落っこちたときから今までダラダラ何やってたんだ? のんきに気でも失ってたのか?」


 向けられた敵意に応じるかのようにオスカリとユカライネンは素早い動きで杖を抜いて構えた。

 しかし、その後ろをムーバリは困ったように二人を見つめながらのんびりと付いてきている。

 毛を逆立てる二人とは違い、ムーバリはブルゼイ族の天敵である背中の槍には触れようともせず、それどころかきっちり腕を組んでさえいる。


 しかし、本当にここまでどうやってついてきたのだろうか。

 三人とも着ている軍服はイングマールのもので灰色のはずだが、砂が全体を覆うように付いていてまるで薄汚れて斑のベージュになりまるで別の軍服のようになっているのだ。

 そして、顔も杖もサンドブラストでもされたかのように砂がしっかりと付き、ベルトの隙間にもボタンの模様にも詰まっている。

 砂たちは皮膚や杖の表面から水分を奪い塊になっており、喋る顎や身体の動きに合わせてぽろぽろと落ちていく。

 ムーバリに疲労の色は見えないが、二人は息も絶え絶えだ。

 その様子から察するに、おそらく装甲車にフックショットか何かをかけて便乗したのだろう。

 途中からトンボが重たそうになったのは、タダでさえ弱っていたところに三人分余計な重さが加わっていたからだろう。途中の振動はもしかしたら。


 ベルカは迷いなくシャシュカを引き抜き、刃を一度見せつけるように光らせそこに手を添えるような仕草をして構えた。

 ストレルカも足を肩幅に開き、背中の鎌を引き抜いて大きく振り回し、空を切る音を立てた。


「アタシらの故郷には指一本触れさせないぜ。ここから先に行きてェなら、まずアタシらをぶちのめしていきな」

「オレたちゃ強ぇぞぉ? でぇぇきるぅぅかなぁぁ? へっへっへぇ」


 不敵に笑いだした二人に警戒し、ユカライネンとウトリオも立ち止まると杖を構えて腰を深く落とした。しかし、魔法を唱えようとはしていない。


「二人とも、武器を下ろしなさい! ま、まずは私たちの話を聞きなさい!」

「ここで交戦するわけにはいかないのだ! ユカライネン下尉の言うとおり武器を下ろせ! 話は武装解除のあとだ!」


 ユカライネンはそう言いながら喉に貼り付いた渇きにむせ、ウトリオは声が裏返っている。


 一昼夜強風に吹きさらされて疲労困憊の様子の二人を見たベルカとストレルカは鼻を鳴らして笑うと、

「お前らは車に何か引っかけてくっついてきたんだろ? お疲れ様だぜ、ダニ野郎。

 どうだ、引っ込んで少し休んでろよ。砂ァ冷たくて気持ちいいぜ? 適度にやらけぇしなぁ」

 と隙を見せるかのように剣と鎌を下ろし両腕を広げて見せた。

「武器は下げたぞー、ほれほれ」と言っているが、煽ろうとしているだけでまるで隙を見せていない。


 砂上での戦いは足場が不安定であり、剣や鎌と言った近接武器よりも魔法という中長距離攻撃の方が有利だ。

 だが、このベルカとストレルカは乾燥地帯を拠点にしていたし、元は砂漠の民だ。そのような状況でも戦い慣れている。

 さらには北公三人組の疲労というアドバンテージもある。

 それでも油断しない二人は、負けないという確信があるのだ。


「そういうわけには! ちょっと、ム、ムーバリ上佐、上佐も何か言ってくださいよ」


 しかし、ムーバリは無表情でそれに、うんん、と興味なさげに唸るだけで、全く違う方向の様子を伺っている。遠くに何を見ているのか、額に手を当てて目を細めている。

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