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白く遠い故郷への旅路 第二十八話

 装甲車を起こして外壁を調べていると、「こいつぁまだ動くんかいね?」とエルメンガルトがベルカの側に来て装甲車の壁を杖でごんごんと叩いた。

 腰を擦りいたわるような素振りをわざとらしくした後に

「ババァは歩くのがしんどいから動いてくれた方が良いんだが。動かなかったら、ブルゼイのアンタ、おんぶしておくれ、ヒーッヒッヒ。洟垂れ小僧じゃ、私が小鳥みたいに軽くてもへばっちまうよ」

 とベルカを杖先を向けてぶんぶん揺らした。


 指名されたベルカは両手を上に向けて、

「ばーちゃん、この期に及んでババァのふりすんなよ。あんた全然元気だろ。さっき車がひっくり返ったとき、砂でクソ重いドアこじ開けて真っ先に出てったのアンタじゃねぇかよ。

 それから、オイオイ、杖で叩くなって。これ以上壊れたらどうすんだ。マジで動かなくなるぞ」

 とため息をした。

 エルメンガルトを壁から引き剥がしたあと、ドア枠に手をかけて「オイ、イズミ! どうだ!? 動きそうか? 足腰元気なワガママババァ背負って歩くのはごめんだぜ!?」と車の中を覗き込んできた。


 さきほどベルカと車を起こしたとき、車内から大量の砂が流れ出てきた。ぶつかって転げた際に巻き込んだ砂は相当な量だったようだ。

 座席の隙間などに入り込んだものは払ってしまえばいいが、さらにその下の隙間や継ぎ目からから内部にまで入り込んで機械をダメにしていないか心配だった。


 弱く風を起こして壁に纏わり付いてた砂を吹き飛ばし確かめると、装甲車の天井はあちこちへこみ、窓も割れている。

 しかし、こびりついた砂は払えば落とせそうで、へこみも邪魔になるほどではなく、外側も何とかできそうだ。

 とにかく一度綺麗にしてしまおうと後ろのドアを観音開きにして車内の砂を一掃し、排気口の砂を一通り出しきって天井と窓を簡単に直した。


 しかし、問題のエンジンがやられていたら元も子もない。

 運転席に座って手でハンドルを二、三度叩き、祈るように目をつぶりキーを回してエンジンをかけようとしたが、かからなかった。

 だが、こういうのは数回試すモンだと自分に言い聞かせ、「頼むぜッ」とやや力みながらキーを回すとギアの悲鳴が二、三度聞こえた後、排気筒からぼむぼむと咳き込むような小さな爆発音がしてエンジンがかかり、車体が小刻み震えだした。


 さすが共和国のガウティング・ゴフ社謹製の装甲車なだけある。あのユリナが殴り飛ばしても一発では破壊できないほどに頑丈に作ってあるというのは伊達ではないようだ。


 タイヤも砂にスタックしないように接地面積の大きいものに換装してくれてある。

 ビラ・ホラまでは砂丘によるアップダウンはあるがもうほとんど直線であり、燃料で動かせるところまでは乗っていくことにした。


「内燃機関はやられてない。よかったな。こいつ、動くぞ。燃料もまだありそうだ。

 ストレルカ、トンボが飛んでいった方角を忘れないでくれ。あいつらももう見えなくなりそうだ」


 車の屋根の上から、あいよ、と返事が聞こえたので、準備を整えた後にいよいよ出発と言うことになり、全員を車に乗るように促した。しかし、真っ先にエルメンガルトが乗ったときだ。


「待ちなさい! あ、あなたたち!」


 と若い女の声で呼び止められたのだ。

 またしても出発直前に呼び止められ、今度はどちら様だと声の方を振り返ると、


「あなたたちだけでビラ・ホラには行かせません!」

「そうだ! ここからは我々も同行させてもらう! 従わないという選択肢はない! 現地までの道のりを案内しろ!」

「二人とも疲れて気が立っていますね。落ち着きなさい。やれやれ、こそこそ尾けるのも二人にはもう限界のようですね。楽でないのは私も同じですが」

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