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白く遠い故郷への旅路 第二十七話

 彼女の指さす上空を見上げると、そこには数十匹ものトンボの群れがいたのだ。

 それぞれにその翅を絶え間なく動かして、天から糸で吊されている飾りのように空中で揺れている。ときおり点と点を移動するように動き回り、空いっぱいに広がっていた。


「いっぱいいる! トンボさん、いっぱい! 家族がたくさん!」


「こいつは最後の一匹じゃなかったんだ!」


 トンボは上空の群れに気がついたのか、上昇する速度を上げてそこへ向かって飛んでいった。

 やがて群れに混じると、どれが俺たちを運んでくれたトンボなのか区別が付かなくなった。


 砂の山を遅れて登ってきたベルカも額に手を当て目を細めてトンボたちを見守った。


「オレたち、元の飼い主が長いこと放ったらかしにしてる間に増えたんだろうな。二百年近く放っておきゃあ、そりゃ増えるよなぁ」

「それでもアタシらを忘れずに迎えに来てくれるってのァ、感慨深いモンがあるなァ。戻ったらしこたま可愛がってやンなきゃなァ、へへ。アイツら、何食うんだろうなァ?」


 ベルカの横に並んだストレルカも目を細めて笑っている。


 トンボの群れはまるでこれまでその一匹をずっと待っていたかのようだった。合流すると一斉に一方向へと向かって流れるように飛び始め、遠ざかるにつれて小さくなり始めた。

 あれほど恐れていたトンボたちが今では別れが名残惜しいほどだ。

 セシリアも小さな胸に別れの悲しさと彼が孤独ではなかったことへの喜び、それから感謝をいっぱいに抱えているのだろう。トンボたちを追いかけながら力強く手を振っていた。

 砂の中で転んで砂だらけになっても、すぐに起き上がり手を振っていた。

 やがて群れも小さくなるとセシリアの足も止まった。それでも小さな手をいつまでも振り続けていた。


 俺はその小さな背中を見ながら、腰に手を当てた。ベルカとストレルカの方を見て、「さて、置いてかれたな。これからどうする?」と片眉を上げて笑いかけた。


「どうもしねェよ。真っ直ぐ北に向かうだけだぜ」


「日の出を待つのか? 太陽が昇れば東の方角が分かる。いや、まさか白夜とか極夜とかはないだろうな?

 でも、まぁ、早雪と噴火で季節の感覚がおかしいけど、お前らは慣れっこみたいなもんだろ?」


「いンや、日の出を待つ必要は無いね。ビラ・ホラはもうすぐだろうよ」


 ストレルカが目をこらした。そちらはトンボの向かっていった方角だ。

 俺も見ようと佇むセシリア越しにそちらの方へ目をこらしたが、何も見えなかった。困ったようにストレルカの方を見ると「ホントにちィさーくだが」と彼女はさらに目を細めた。


「北の方に山が見えンだろ?」


「いや……」ともう一度見てみたが「全く何も見えない。つか北がどっちか分かるのかよ」


「当たりめェだろ。目ェ悪ィのか? それにトンボの群れがあっちに向かってッただろ。

 あの歌の通りなら、あの山間にあるんじゃねェか?」


 ストレルカが細めていた目を戻して腕を組んだ。

 すると、ベルカがうおおおと突然声を上げ始め、


「あれだ! あれにちげぇねぇ! うははは! おっしゃ、イズミ! オレたちが一番乗りで帰るぞ! オレたちのビラ・ホラへな! はァっはは! 車起こしてさっさと行くぞぉう!」


 と気合いを入れるかのように両手を挙げた。

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