白く遠い故郷への旅路 第二十四話
再び隣に座り直し、膝の上に置かれていた彼女の手を握ると、顔をこちらに向けて手を握り返してきた。乾燥していて少し冷たくなっていたので、毛布を一枚とり肩にかけてあげた。
アニエスの悲しそうな表情を見ていられずに窓の外を見ると、不安定に揺れてから低く飛んでいるのか、地面がよく見えるようになっていた。
下は一面の砂に覆われて、弱い日差しを受けて薄いベージュと砂丘の影の茶色だけだ。
先ほどよりもさらに弱ってきているのだろう。
「可哀想だが、こいつがいないと俺たちはたどり着けない。
でも、脚ばかり見てるとホントに酔っちゃうよ? 現地に着いたらたぶん落ち着いて酔いを覚ましてはいられないから、まだ朝だけど無理にでも眠った方がいいかもよ」
とはいえ、遠くに何が見えるのかと言えば空と砂漠の境目だけだ。
窓の外の薄く晴れた砂漠は白く、砂丘は同じ形をしているようで同じものは一つとしてない。崩れ始めたもの、出来たばかりなのかと思うほど高いもの、これから積み重なり始める前の小さな盛り上がり、そして、流されきり抉れたもの。
繰り返す種類は多くなかった。そのうちにそれにもパターンがあるようにも思えてきた。
見つめていればやがてパターンを繰り返し始め、それをいくつも乗り越えていた。
だが、風は今も吹いている。風が吹けばそれは形を変えて、作り上げていたパターンを崩していく。
トンボは何を目印にこの何もない繰り返しの砂漠を飛んでいるのだろうか。
彼が目印にしているもの――例えば砂丘だったとしたら――も、やがては風に飲み込まれ削られ、形を変えている。目印は崩れなくなり、繰り返すうちに下手をすれば別の目印になっているのかもしれない。
ひょっとすると目印を見間違えていて同じところをずっとぐるぐる回っているのではないだろうか、そんな気持ちにもなってしまった。
それでも前進はしているのはわかる。トンボの飛び方に迷いがないのだ。真っ直ぐ、何かに導かれるようにぶれることなく飛んでいる。
それから東から登った太陽は高く登り南中を迎え、さらに西へと沈んでいった。
右側の窓から差し込む光はやがて車内を照らさなくなり、そして、左側から再びセシリアの顔を赤く照らして、そして、暗くなった車内でエルメンガルトが灯りを付けた。
その間トンボは気丈にも翅を止めることなく、一昼夜飛び続けたのだ。
とても長い旅路だったが、その間に車が大きく揺れることはなかった。




