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白く遠い故郷への旅路 第二十二話

 砂だらけの窓枠の遠くに、連なる山々はもう見えなかった。


 二、三時間ほど飛んでいると、乾燥地帯は既に抜け連盟政府と砂漠を隔たる山々を越えていた。飛んできた背後へ目をこらすと、その山々も地平線の下に消えていた。

 その地平線も今や砂しかない。自分が振り返った方向が本当に来た方向なのか、それさえもわからない。


 本当に辿り着けるのかという一抹の不安に襲われかけて気を紛らわすように車内を見回すと、みんなは外から差し込む光の中でそれぞれに過ごしていた。


 セシリアは窓の外を見ているアニエスにもたれ掛かり、眠たそうに長い瞬きを始めていた。

 外の日光が顔に当たると、顔に皺を寄せて渋々しく目をつぶった。寝心地も良くなかった上に、朝も早かったので眠いのだろう。


 エルメンガルトは落ち着かない気持ちを抑え込もうとしているのか、背もたれに寄りかかりながら目をつぶり顔を上や下に動かしている。

 だが、時折ふぅーんと長い鼻息をならし、足を落ち着き無くパタパタと動かしている。

 ビラ・ホラ到達は彼女が否定されても長年続けてきた研究の集大成でもあるのだ。落ち着かないのは仕方がない。


 ベルカはシャシュカを磨き、動かす度にしらしら音を立てる刃に自分を映してにやけている。

 ストレルカも大鎌の刃を研ぎ直している。あえてボロボロにしていたのだが、戦いの匂いに堪えきれずに研ぎ直しているようだ。

 二人とも物騒な雰囲気を醸し出しているが、これから本当の戦いが起きることは間違いないのだ。

 おそらく、レアが言った通り北公は追いかけてくるだろうし、そのレア自身も立ちはだかるだろう。


 のんびりしていたり、ビラ・ホラで頭がいっぱいだったり、エモノをぎらつかせていたり、思い思いに過ごしているが、不安そうな者は誰一人いなくなっていた。

 トンボが快適な空の旅を提供してくれるおかげで、もうみんな飛行には慣れたようだ。


 一番股下が落ち着かない様な気分なのはひょっとして俺だけなのではないだろうか、そんなことを思いながら窓枠から離れようとしたとき、装甲車が不安定に大きく揺れたのだ。


 何事かと窓の外を覗くと、トンボの羽ばたきが弱まっていた。しかし、すぐに羽ばたきを目には追えない速さに戻し高度と安定を保った。

 それからもしばらく羽ばたきを見ていたが、再び不安定になることはなかった。

 怪我をさせたうえに重たい装甲車を運ばせるなど無理をさせていることに申し訳なさを覚えたが、この子がいなければたどり着けない。

 心を鬼にして当面は問題が無いだろうと思い、アニエスの隣の座席に座った。


 彼女の隣でうとうとと眠たそうにしていたセシリアをかかえて持ち上げて膝の上に載せると、背中に手を回してしがみついてきた。揺れで少し目が覚めてしまったようだ。

 そのままお尻を持ち上げて安定するように抱きかかえてやると胸に顔を埋めてきた。

 あやすように揺らしながら背中を軽く叩きながら、砂の筋で見にくくなった窓越しに外を見ているアニエスに話しかけた。

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