白く遠い故郷への旅路 第二十話
銃内部の構造上、魔法使い(魔法が使える者)が引き金を握ると自らの魔力と魔石が相互作用を起こして過剰に働き、薬室相当部を焼き切ってしまう可能性がある。
しかし、それは魔法射出式や魔力射出式銃の話であり、雷管式に使用される魔石は小さな火花を引き起こせば良い程度なので極めて弱くても利用することが出来る。
使用される魔石は魔力が弱く、魔法使いが使ったとしても起こす暴走はほぼ皆無に等しいのだ。魔法使いさえもその銃を扱うことが出来る。それ故に非常に汎用性は高いのだ。
魔法使いでなくとも魔法使いであったとしても分け隔てなく使用できる汎用性、兵士一人一人の打撃力の劇的な向上、これまでは捨て石であり処理に困った挙げ句密輸などに回されていたような大量の弱く小さい魔石を利用出来るという、短期間での戦力倍増が可能でありすぐに量産されることになった。
しかし、問題が一つだけあった。火薬が大量に必要になることだ。
北公に所属するかつての自治領は資源の乏しいところが多かった。
原料となる金属は、時代遅れの武器を溶かして再利用したり各地域からかき集めたりすることで問題なく運用できる程度まで集められたが、硝石だけはどうしても足りない。
これまでの戦い、戦いに限らず日常生活においても主力は魔法であり、火薬については使用される頻度は極めて少なく、硝石は硝石のまま長年の蓄積により大量に余っている状態だった。
しかし、分離独立戦争が起きたことでその在庫さえも食い尽くす勢いで硝石が消費されていて、またこれまでのように硝石を硝石のまま火薬には用いずに、加工が必要なことも大量消費に拍車を掛けている。
やがて近い将来、将来と言うほども先ではないいつかに硝石は底を突いてしまうのは明らかなのだ。
硝石は火薬の原料であり、火薬は雷管式銃とは切っても切り離せない。もし枯渇してしまえば、北公は武器を失い戦うことが出来ず敗北を意味する。
「その原料の硝石を巡る話だよ。ベルカは聞いてたから分かると思うけど、ビラ・ホラは黄金郷ではなくて巨大な硝石鉱床らしいんだ」
連盟政府をはじめとした人間世界の陸上での物流のほとんどを牛耳っていた商会は、北公からすぐに硝石がなくなることを把握していた。
戦争の臭いを嗅ぎつけてきた商会が、新たな事業の為に銃をくれれば硝石を手配すると北公と契約を交わした。
「しかし、北公は独自の調査によってブルゼイ族の白い山、つまりビラ・ホラが硝石鉱床だと言うことに気がついて、根こそぎ奪い取ろうとしてる。
そうなると、商会が手配する硝石はいらなくなるだろ。買ったとしても大量にはならない。大幅なコスト削減に繋がる。
でも、商会はそれじゃ儲からないって話だ」




