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エピローグ


 使い古したスーツケースを引きずり、蒲生は数年ぶりに実家へ舞い戻った。まさか空き巣被害に遭った家族を心配して帰省するとは、予想もしないことだった。

「しっかし、弟がたまたまスマートフォンを家に置き忘れていて、親父の将棋セットをたまたま犯人が見つけるなんて。どれだけご都合主義の展開だよ」

 独り言ちながら、蒲生は玄関の呼び鈴を鳴らす。だが、すでに帰宅しているはずの父親も弟も出てくる気配はない。長男はむっとした顔をしながら扉を押した。鍵は開いていたのである。

「おいおい、いくら俺が帰ると分かっているからって玄関の鍵くらい閉めておけよ。空き巣に遭ったばかりとは思えないな」

 呆れたようにため息を吐きながら、リビングに足を踏み入れると――

「――誕生日おめでとう!」

 軽快な破裂音と同時に、蒲生の視界を紙吹雪が覆った。訳が分からずに呆然と立ち尽くしていると、右手のキッチンから蒲生とよく似た面影の青年が現れる。

「兄さん、遅いよ。待ちくたびれてケーキをつまみ食いするところだった」

 にこにこと愛嬌に満ちた笑みを顔に張り付かせ、蒲生の弟はぺろりと舌を出す。蒲生兄を挟んで左手には、クラッカーを手に眼鏡姿の男が優しげな微笑みを浮かべていた。

「何だよ、何なんだよこれは」

 しどろもどろな蒲生に、黒縁眼鏡の蒲生の父はのんびりと口を開く。

「たまにはお前の顔が見たくなってな。こうでもしなきゃ、お盆も正月もろくに帰ってこないんだから」

「将棋の暗号はちゃんと解けた? あれ、俺が考えたんだぜ。兄さんへのとっておきのプレゼント」

 誇らしげに胸を張る弟に続き、蒲生父も悪戯っぽく笑いながら片目を瞑る。

「実はな、あの駒の並びには二つの意味があったんだ」

「二つの意味?」蒲生は両目を丸く見開く。

「ひとつは、もちろん空き巣事件をでっち上げるための暗号。そしてもうひとつは、写真に写っていたあの並びで、それぞれの駒が進むことのできるマスの数を合計するんだ。たとえば、2一金は左右に一マスと後ろに一マスしか進めないから、合計三マス移動できる。この調子で写真の駒が移動できるマスを足し算すると――何を隠そう、お前の年齢の数になるのさ」

 あんぐり口を開けたままの蒲生に、二人の家族は新しいクラッカーを鳴らした。

「誕生日おめでとう。そしておかえり、お兄ちゃん」

人物設定を盛り込んだ回でした。蒲生は父・弟の三人家族設定です。

因みに、二人が屯している喫茶店はだいたい同じ店。ウエイトレスも顔なじみになってきたことでしょう。

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