異世界転生モノって、要するに『ボクの考えた最強の天国(あの世)!』だよね?って話。
タイトル通りの作品である。
考えてみてほしい。世界に数多ある宗教のほぼ全てが死後の世界が存在すると説いている。仏教では『前世』『今世』『来世』の三つに分けて説いている。この『来世』、つまり死後の世界に注目してほしい。そこは今我々が生きている世界とは別の世界のことである。我々は死亡すると別の世界に移行すると宗教は説いているのである。また、異世界転生モノの多くは主人公の死(あるいは死を匂わせる展開)から始まる場合が多い。そう考えると、『異世界』=『来世』という図式も成り立つのではないだろうか?
分かりやすい具体例を出そう。
川原礫氏の『ソードアートオンライン』を思い出してほしい。第一作の《アインクラッド編》では主人公キリトたちの精神はゲーム『ソードアートオンライン』の世界に捕らわれてしまい、現実世界においては肉体はベッドに横たわったままで、精神とはほとんど切り離されてしまった状態にある。これは、交通事故にあった患者が臨死体験をしている状態に酷似している。臨死体験中に完全に彼岸へと行ってしまう(ゲームの中で死んでしまう)と現実の世界でも死亡してしまうところもそっくりである。
本当はこのテーマをエッセイとして書くつもりだったのだが、なんだか堅苦しいのでギャグ小説として問うことにした。
小説を読むのが面倒な方は、本編をすっとばしてあとがきを読んでほしい。主張を簡単な箇条書きにしておいた。
あと出来れば感想が欲しい。どうぞよろしくお願いします。<(_ _)>
須磨奉太郎(17歳)はトラック事故で死んだ。今どきトラックに轢かれて死ぬなんて滅多にないことなのに、1950年代(昭和30年頃)の『交通戦争』と叫ばれていた時代でもないのに、それでもトラックに轢かれて死んだのだ。17歳の少年の死因としては珍しい死因だった。(因みにこの年代の死因第一位は自殺である)
「あ、あれ。……どこだココ?」
須磨奉太郎の魂は気が付くと真っ白な空間にいた。そこは地面もない、どちらが上でどちらが下かもわからない、どれ程広いのかも分からない、影一つない、ただひたすらに広がる真っ白な空間だった。
『奉太郎さん、須磨奉太郎さん。お気づきになられましたね……』
不思議な声が奉太郎に呼び掛けてきた。その声は遠くから聞こえてくるようでもあり、すぐ耳元から聞こえてくるようでもあり、どこから響いているのか、男なのか女なのか、まるで捉えどころのない声だった。
「ここはどこですか?と云うか、あなたは誰ですか?どこから呼びかけてるの?」
奉太郎は周囲を見回した。すると、目の前に無数の小さな光の粒が集まり、拳ほどの大きさの光の玉となった。
『私は世界の管理者。須磨奉太郎さん。あなたはお亡くなりになりました。生前の世界に沢山未練はおありでしょうが、あなたの肉体は完膚なきまでに破壊され、その生命活動を停止させました。残念ながら蘇生の余地は一片たりともありません。従って、世界の管理者たる私は世界のルールに則り、あなたを次の世界に送らなければなりません……。では、次に行く世界について、これから簡単な説明をさせていただきます。まずは……』
「ちょ、ちょっと待ってくださ!」
いきなり語りだした光の玉に向かって、奉太郎は手を伸ばして(肉体はないのだけど)話を遮った。
『何ですか?須磨奉太郎さん。学校でのあだ名はスマホ太郎さん』
出オチ感満載な自身の名前について指摘され、ぐはっ、と心臓を矢で射られたようなうめき声をあげる奉太郎。
「が、学校でのあだ名で呼ばないでください!……てか、なんで俺の学校でのあだ名を知ってるんですか!?」
『世界の管理者としてあなたのことは全て知っています。あだ名も当然知っています。それどころか、あなたが生きてきた宇宙が誕生する瞬間から宇宙のすべてを見てきました』
「宇宙が誕生した時から!?……すると、あなたは神様なんですか!?」
『あなたたちの理解できる概念では最もそれが近いでしょう』
「いや、神様っていったら白髪でひげを生やしたおじいさんの姿をしていると思っていたんだけど、全然違うんですね」
『世界の管理者に固定された姿はありません。今の姿はあなたが私に対して何のイメージも抱いていないために、抽象的な光の玉として見えているのです。試しにあなたの思う神のイメージを思い浮かべてみてください』
須磨奉太郎は言われるままに、自分の考える神様の姿を脳裏に描いた。すると、光の玉は再び無数の小さな光の粒子に分解したかと思うと再び人の形となって集まり、白髪に髭を蓄えた老年の男性へと姿を変えた。
『ほほう。このカーネルサンダースのパクリの如き老人の姿が儂に対する君のイメージなのかね。流石は奉太郎くん。実に平凡で貧困な想像力をしているのう……』
須磨奉太郎の思考を受けて一人称が広島弁に変わった世界の管理者は、どうしようもなく平凡な奉太郎に毒を吐いた。(それにしても老人=一人称が『儂』は誰が始めたテンプレなのだろう?現実と激しく乖離しているのに……)
「じ、自分が平凡なことは自覚してるので、そのことを指摘するのは勘弁してください。それより僕はこれからどうなるのですか?」
『宜しい。では説明しよう。先ほども言ったが、君は死んだ。世界のルールでは死んだ者の魂は次の世界に送られることとなっておる。そして、良くも悪くも、善人でも悪人でもなく平凡に人生を全うした君は、次に行く世界を好きに選ぶことが出来る』
「それはつまり、僕が地獄でも極楽でも行き先を好きに決めていいってことですか?」
『そういうことじゃ。ところで君の家は仏教だったな』
「はい、浄土真宗です」
『なら極楽はどうじゃな?』
「極楽ってどんなところなんですか?」
『悟りを得た者たちが、より深い悟りを得るために修行をする世界じゃ』
「ら、来世に行ってまで修行ですか……。思ってたのと違う……」
『ではキリスト教の天国はどうじゃな?とにかく神の存在を近くに感じながら心安らかに生活できる所じゃよ?』
「なんだか退屈そうですね。もうちょっと刺激的な世界はないですか?」
『イスラム教の天国は刺激的じゃぞ?なにせ、酔わない酒飲み放題!美女は抱き放題!しかも美女は皆処女で、一度処女を失ってもすぐに元に戻るから何度でも処女を抱けるのじゃ!』
「何それ超俗っぽい!しかも酔わないお酒ってジュースじゃん!それに処女膜再生するから何度でも処女とかって、それ本当に処女って言えるんですか!?」
どうにも面白くなさそうな来世に奉太郎はすっかり失望し、ううむ、と唸りながら腕を組んで(肉体なんてないんだけど)悩みだした。
『困ったのう気に入らんか。なら、魔法のある世界に行ってみるか?君、ライトノベル好きじゃろう?』
「えっ!?そんな選択肢アリなんですか!?」
『無論。世界は無限に等しいほどあるのじゃ。君の好きな小説そっくりな世界などいくらでもあるぞ。例えばバッテリーのなくならないスマートフォンを持って、高い身体能力&無限の魔力&全属性魔法使用可能で、チョロい女の子たちを次々とハーレムに加えていく世界はどうじゃ?』
「それ、【異世界は〇マートフォンとともに】じゃないですか!駄目ですよ!あのアニメ、30分見ただけで頭がおかしくなりそうになりました!精神衛生上良くない!あと、アンチの人たちに袋叩きにされちゃいます!」
『君のあだ名から考えて良さそうに思うんじゃがのう……。では、気が付いたらネットゲームの世界の中で、眼鏡をかけた参謀タイプの魔法使いとして暗躍し、腹ぐろ眼鏡と揶揄されながらも仲間たちに囲まれて……』
「もろ【ログ・〇ライズン】じゃないですか!脱税で前科一犯になっちゃいますよ!主人公にはちょっと憧れるけども……」
その後も【〇者の孫】や【〇スマ】や【〇のすば】や【〇ゼロ】や【〇蛛ですが?】や【〇世界温泉】や【〇役令嬢】、雨後の竹の子の様に現れては消費されていった異世界ラノベ作品が候補に上がったが、どれも奉太郎の好みに完全に合致するものはなかった。来世選びはまたしても暗礁に乗り上げた。
『奉太郎くん、特定のラノベ作品にこだわるのは避けて、次の世界に求める条件から絞り込んでみんかな?』
「条件ですか?う~ん。だったらルールがはっきりしている世界がいいですね」
『ルール?』
「ほら、僕が生きてた世界ってルールが判然としていない上に、ルールっぽく認識されているものだって例外事例がたくさんあってカオスじゃないですか。【勧善懲悪】とか【努力は報われる】とかかなり願望が入ってますよね?つまり、ルールがはっきりしないから皆右往左往させられて、いっぱい無駄で報われない苦労をさせられている訳です」
『成程のう……』
「だったらゲームみたいにシステムやルールが最初からはっきり分かっている方が無駄な努力をせずに済むし、RPGみたいにサクサクとレベルアップ出来ていいと思うんですよね」
『分かった。システムとルールじゃな。では、他に条件はあるかね?』
「あとは、来世では自分にどんなスキル、つまり才能があるのかはっきりと分かるほうがいいですね」
『それは何故かな?』
「僕は死ぬまでの十七年間、スポーツや勉強や芸術、色々なことを体験させてもらいましたが、どれも全て平凡の域を出ませんでした。せめて何か一つくらい人より秀でた才能や、熱中できる何かを見つけたかったんですが、残念ながら見つけられませんでした。だから、来世では自分にどんなスキルがあるか知りたいんです。自分の中に眠っているスキルが分かれば、それを生かして次はもっと充実した人生を送れると思うんですよ」
『では、君の好みに合致するシステム、ルール、スキルのあるライトノベル作品は何かな?』
「う~ん。好きな作品は色々あるんですが、完全に合致する作品はまだないですねぇ」
奉太郎の言葉を受けて暫し考え込む世界の管理者。やがて重々しく口を開いた。
『ならば作ってみるかね?君自身の手で理想の次の世界を……』
「可能なんですかそんなこと!?」
『無論可能じゃ。世界は無限に増やすことが出来る。だから君が理想とする世界を儂に伝えてくれれば瞬時に新たな世界を創造しよう。これでどうかな?』
「あ、ありがとうございます!」
須磨奉太郎は興奮した。なにせ自分が新世界の設定を決められる、つまりは新世界の創造主になれる上、その世界の主人公になれるのだから、これは途方もないことだ!(実際に新世界を創造するのは世界の管理者なのだが……)しかし、奉太郎はここではたと気が付いた。僕が理想とする新世界ってどんなだ!?……と。
「あの、理想の新世界について考える時間をいただけませんか?あと、参考資料として【なろう】と【カクヨム】を読みたいので、インターネット環境も欲しいのですが……」
『そう言うと思っておったよ』
世界の管理者は指をぱちりと鳴らした。するとただひたすらに真っ白だった空間は一変。周囲は都内にあるとあるインターネットカフェそっくりに変貌した。それも単なるインターネットカフェではない。最近話題の高級インターネットカフェそっくりな豪華なインターネットカフェだった。
『これでどうじゃな?全館空気清浄機付きのエアコンで常に新鮮で快適な空気が循環しておる。そして全室オートロックの個室になっていてプライバシー保護も万全。さらにフードコーナーでは50種類以上の料理とデザートが無料でいつでも食べ放題。ドリンクもアルコール類も含めて数多く取り揃えておってこれも無料で飲み放題じゃ。極め付きは天然温泉。考えるのに疲れたら何時でも湯に浸かってリフレッシュできるぞ。無論これも無料じゃ』
「凄い!こんな豪華なネカフェ初めてです!……あれ?あそこに人がいるけど何をしている人たちなんですか?」
奉太郎が指差した先には高級ソファーとテーブルのセットが置かれたラウンジのような場所があり、そこでは数人の若い男女が何やら和気藹々と熱い議論を繰り広げていた。
『彼らは理想の次の世界について議論しておるのじゃよ』
「つまりそれって」
『実を言うと近年、君の様に次の転生先を自分で作りたいと考えるものが若者の間で増えておってな、それでこの場所を用意したのじゃよ』
「うわぁ、さすが神様ですね!」
『大したことではないよ。それよりも新世界を作るにあたって儂からのアドバイスじゃ』
「はい。お願いします!」
『思いついたアイデアは何でも直ぐにメモしておくこと。大小に拘らずな。アイデアがある程度集まったら小説を書くようなつもりで簡単なプロットとして纏めてみること。こうすれば設定の矛盾点などがある程度見えやすくなる。そして、行き詰ったら恥ずかしがらずに他の人に意見を求めてみること。特にラウンジにいる彼らなら親身になって一緒に考えてくれるじゃろう。以上じゃ。まだ何か疑問はあるかな?』
「いえ、大丈夫です!ありがとうございました!」
『うむ。良い世界ができることを楽しみにしておるよ』
そう言い残すと世界の管理者は笑顔を浮かべながら光の粒子となって消えていった。奉太郎の手にはいつの間にか部屋番号のついたカードキーが握られていた。
「ようし!書くぞぉ!」
須磨奉太郎は一声雄たけびを上げると、自分に与えられた個室へと突撃していった。かくして理想の来世を創造すべく異世界転生小説の執筆が開始されたのだった。
さて、ここからは余談で完全な蛇足なのだが……。
人間、小説を書けば誰かに読んでもらいたくなるもの。それは生きている人間に限らず、死んでいる人間でも同じ衝動を持つ。賢明なる読者諸氏にはもうお分かりだろうが、【なろう】や【カクヨム】にはこの世以外からも作品が投稿されているのだ。その数は異世界転生モノの実に二割を占める。これが【なろう】や【カクヨム】に異世界転生モノが多い原因なのである。これは偽りなき真実なのだ。ホントダヨー。
最後まで読んでくれてありがとう。本編中、他人様の作品をdisっているかのような表現が登場するが、筆者にそのような意図は一片たりともないことをここに明言しておく。そもそも人気作品はそれだけでリスペクトに値する何らかの要素を内包しているのだ。それをどうしてdisれようか!従って、本編ではあくまでも純粋にネタとして登場させているだけなのである。だからどうか、どうかお願いだ。ご理解ご容赦のほどをお願いします。嗚呼、石を投げるのは止めたまえ!
では、ここからは本編をすっ飛ばした方の為に本作の主張を簡単な箇条書きにして説明していこう。
☆異世界と死後の世界は似通っている――異世界転生モノに主人公の死亡から始まる作品が多いことからもこれは明らか。
☆異世界モノでは『システム』『ルール』『スキル(才能)』が明らか――テンプレ異世界転生モノに多く共通するこれらの特徴。これは我々の願望の現れと考えることもできる。裏を返せば、我々が生きるこの世界はシステムもルールも不明瞭で、個々人が持つ(であろうと期待されている)才能もどこにあるのか判然とせず、発見には多大な労力を要する。(場合によっては一生見つからないことも……)
☆異世界転生モノとは畢竟、理想のあの世を思い描いた物語である――上記二点を踏まえて考えると、このような結論が見えてくる。チート無双な異世界ライフだったり、あるいはのんびりスローライフだったり、理想とする異世界生活に違いはあるが、やはり、ある種の理想を描いている点では同じといえるだろう。(ただし、全ての異世界転生モノがこの主張に合致するわけではなく、例外も少数ながらある程度の数があることは補足しておく)
最後に、可能ならば是非とも感想をよろしくお願いします。<(_ _)>