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夢から始めよ

掲載日:2018/06/10

 

 


 立川談志について考えていて、自分の間違いに一つ気付いた。自分は、現実から始めようとしていた。あるいは、現実の奥にある本質について考えようとしていた。しかし、それは間違いだと気付いた。現実から始めてはいけない。夢から始めなければならない。そういう事に気付いた。


 夢から始めるとは、どういう事だろう。「芝浜」という落語は「夢」をテーマとしている。談志が、最後まで粘り強く取り組み、彼自身もっとも熱心だった落語が「芝浜」だった。何故、「芝浜」に最も熱心だったかと言えば、現実は夢の中にあるという「芝浜」のメインテーマと、現実は夢のようなものだという談志の哲学が共鳴したからであると思う。


 落語というのは一種の夢である。文学とか、小説、芝居なんてのも全て夢である。だから、所詮、落語は落語にすぎない。文学は文学にすぎず、単なるおとぎ話、夢の一種にすぎない。そう断じるのは間違いではないが、では、そう断じている君が立っている場所は果たして現実なのか。現実というものを、人々は、功利性で計り、正常という概念で覆い、過去の神に変わる絶対性を付与しようとした。が、それは相対的なものではないのか。単に、それ以上に覚める事ができない悪夢に過ぎないのではないだろうか?


 落語は夢であり、文学も夢に過ぎない。だが、現実もまた、よくできた夢に過ぎないとわかれば、文学や落語という虚構は、夢のまま一つの現実として測定できるだろう。落語というものを背負って生きた、人は立川談志をそう見るだろうが、落語という場所から見れば、我々は相も変わらず現実という夢に留まっているに過ぎないだろう。


 文学というのは夢である。シェイクスピアは最後の作「あらし」にこう記している。


 「余興はもう終わった……あの役者どもは、先にも話しておいた通り、いずれも妖精ばかりだ、そしてもう溶けてしまったのだ、大気の中へ、淡い大気の中へ、が、あのたわいの無い幻の織物と何処に違いがあろう、雲を頂く高い塔、綺羅びやかな宮殿、厳しい伽藍、いや、この巨大な地球さえ、もとよりそこに棲まうありとあらゆるものがやがては溶けて消える、あの実体の無い見せ場がたちまち色褪せて行ったように、後には一片の霞すら残らぬ、我らは夢と同じ糸で織られているのだ、ささやかな一生は眠りによってその輪を閉じる……」


 現実は夢だと感じた男が、芝居という名の現実に生きた。これを我々は、我々の大地で受け取る。つまりは、我々は未だに天動説に留まっているという事だ。我々は自分の大地は不動だと未だに信じている。現実という不動の大地に居座り、虚構を見て楽しもうとしている。が、この場所、いや、このような人々、我々みながすべて一つの夢であろうと思う。この世界が夢だという事は、現実における何の解決でもない。が、そう知るという事は自分の相対性を知る事だ。自分が、自分達が相対的だと知るのはどんな意味を持つか? 美しい夢、醜い夢、様々な夢が宝石のようにばらまかれ、我々が自分達が作り上げた悪夢に閉じこもる時、その醜悪さをどんな夢が糾弾できるだろう? 高い夢、美しい夢は人々の目には止まらない。人々には低い現実の方が好みであるから。しかし、それが現実と信じられた夢に過ぎないと気付いたら、何が起こるか? 「芝浜」のラストのように、全てが夢になるのを恐れて、酒を飲むのをやめるか?

 

 いや、我々は常に、現実を夢とする酒をたらふく飲んでいるのだ。そして他人が、同じ夢を見ていると知って、それが現実だと信じようとしているのだ。これが全て……全て夢であると自分は信じる。そうして自分は本物の酒を飲む。逆さになってひっくり返った自分の目に、ようやく現実が……夢より鮮やかな色彩で見えてくる。夢から始めて夢で終われ。そうすれば、「彼」は現実で王者となる。例え、彼の纏っているものが薄汚い襤褸であるとしても。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 現実を悪夢なんて自分は性格が悪いと言ってるだけ [気になる点] ボロにはボロの良さがあるんだ汗と油の臭みとか汚した生地に取れない染み破れとなくなったボタン [一言] 文章は上手いと思うがな…
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