悪役令嬢の姦計と76名の証人
習作。
手始めにテンプレ悪役令嬢を自分好みに書いてみました。
「───ヴィクトリア・ブラットリー、この場を借りて、あなたに問いたいことがある」
卒業という晴れ舞台に浮かれた生徒たちがざわめくホール内で、一際通る青年の声がこの場を一瞬にして沈黙に変えた。
その鋭い声の主は、壇上から一人の令嬢ただ一人を睨めつけるように見下ろしていた。美しい金髪の青年は、この国の第二王子たるレオン・ギルバートだ。深い青の瞳が、今は氷のように冷ややかに凍てついている。壇上にいる彼の背後には、友人である青年が3人と、一人のピンクブロンドの髪を持つ小柄な少女が佇んでいた。少女は大きなピンク色の瞳いっぱいに涙を浮かべ、悲しげに眉を下げている。彼女の華奢な手に巻かれた白い包帯が異様に目立っていた。青年たちは少女を守るように背に隠し、憎々しげに眼下の令嬢を見下ろしていた。
「…なんでしょうか、レオン殿下」
ヴィクトリアは涼しい表情で、ゆったりと顔を上げた。豊かな銀色の髪が、シャンデリアの光を弾いて鈍く輝く。猫のようにつり上がった紫苑色の瞳が、意地悪そうにくいと持ち上がった。
彼女はホールの中心で友人たちとお喋りを楽しんでいたが、壇上から名を呼ばれたことで大きな注目を浴びていた。
「そこでは遠すぎるだろう。こちらへ、上がって来てはくれないか?」
「承知いたしましたわ。私の愛しの婚約者様」
充血したように赤い唇が、美しい弧を描く。コツン、コツンと、ことさらゆっくりとヒールの音を響かせて、ヴィクトリアは壇上へと歩を進めた。彼女は、自らの婚約者であるレオン王子を恍惚と見つめながら、優雅にドレスの裾を捌く。冷ややかな視線など物ともせず、彼女は淀みない足取りで壇上に登った。
どこか不穏な様子でテーブル上のロウソクの火が風に揺れる、魔法で奏でられる精霊たちの演奏がいつの間にか途絶えていた。
ヴィクトリアが近くに寄った瞬間、ピンクブロンドの少女がびくりと体を震わせる。
「クリスティーナ、大丈夫。俺たちが守るから」
過敏に反応した周囲の青年たちは少女を更に守るように背後に隠した。
シンと静まり返った空間は、先ほどまでの喜びに満ち満ちた卒業パーティーの舞台とは程遠い。皆、不安と興味と、物珍しさを混ぜ合わせたような目を壇上に向けた。
何せこの面々たるや、噂話に事欠かない。
レオンとヴィクトリアは子供の頃からの婚約者同士だが、既にレオンは婚約者に愛想を尽かし、それに気づかずヴィクトリアは一方的に愛を押し付けていると評判だ。
そして青年たちに守られているクリスティーナは、幼い頃は病気がちで公の場に姿を表すことが無く、この魔法学園に入学し初めてその存在が明らかになった少女だ。儚げで愛らしい容姿と、魔力量が膨大な特異な体質に入学当初から注目の的で、気がつけばあらゆる有望な子息たちを虜にしていた。それは第二王子たるレオンも含まれており、彼がクリスティーナに懸想しているというのも、もっぱらの噂だった。…ヴィクトリアの前では口が裂けても言えないが。
「ご足労、感謝しよう。ここならば、皆が証人となってくれる。罪人にピッタリの舞台だろう」
「まあ、素敵ですわね。殿下はロマンチストですこと」
「喜んでいただけて何よりだよ」
噛み合わない会話を手慰みのように転がしあって、ピタリとまた沈黙が落ちる。
「ふざけるなッ、よくもそう平然とクリスティーナの前に姿を出せるな…!」
沈黙を破るように一人の青年が吠えると、背後にいる少女が弱々しい声でいいの、私は大丈夫だから、と青年の袖口を小さく引っ張った。
静かに目を細めて、ヴィクトリアはそちらを流し見た。取るに足らない虫ケラを見るように、興味のない冷めた視線だった。
「そう慌てるな、ダニエル。ここは既に僕らの舞台の上だ」
「まあ、そうでしたの。そうとは知らず土足であなた方の舞台にお邪魔してしまいましたが、下りましょうか」
意地悪くヴィクトリアがそう言うと、レオンは片眉を上げて冷たく微笑んだ。
「退屈させてすまない」
「とんでもございませんわ。殿下に呼んでいただけるなんて光栄の限りですもの」
ヴィクトリアは美しい紫苑の瞳を輝かせて、愛しい婚約者に微笑みかけた。レオンは温度のない表情でそれを受け止めると、ぐるりと会場内を見渡した。生徒達だけの卒業パーティー、卒業式の前夜祭に浮かれた子息令嬢たちの困惑の視線がある。
「さて、めでたい卒業パーティーに水をさしてしまって申し訳ないが、皆さんにも是非この舞台の証人として見守っていただきたい」
「レオン様…」
不安そうに名を呼ぶクリスティーナに、心配いらないとレオンは甘く微笑みかけた。そのやりとりを忌々しそうに見つめ、ヴィクトリアは目を眇める。
「ヴィクトリア・ブラットリー」
「はい、なんでございましょうか?」
鋭い声で名を呼ばれ、コロリと令嬢は笑みを形作る。王子は厳格そうな空気の中、静かに口を開いた。
「あなたはこちらのクリスティーナ・レディントンに数々の嫌がらせを行ってたそうだね」
「嫌がらせ?そのような低俗なことをした覚えはございませんが」
飄々ととぼけるヴィクトリアだが、レオンを愛する彼女が、恋敵であるクリスティーナに嫌がらせを行っているというのも、学園中で評判だった。
「思い当たらないなら、例を挙げよう」
レオンが軽く手をあげる仕草をすると、会場のワイングラスが一つ踊るように飛び出して彼の手に行儀よく収まった。彼は赤い葡萄酒が注がれた美しいグラスの縁を、一口舐める。
「まず、あなたは以前パーティーでこの赤いワインを浴びせかけ、彼女のドレスを汚した」
「故意ではありませんから、そのくらいで嫌がらせだなんて狭量では?」
肩をすくめて、ヴィクトリアは首を振った。王子の背後の青年たちが殺気立ち、恥知らずめと吐き捨てる。
レオンは眉ひとつ動かさず、今度はグラスを持っていない方の手を広げた。一瞬にして、その掌中に小さな炎が生まれる。純度の高い炎が揺らめき、炎越しに見た少女の顔が歪んだ。
「次に、あなたは様々な授業で、彼女の邪魔をした。例えば何もない場所で火を生み出す魔法課題の時は、得意の風属性魔法で彼女の火を消し、校庭で大きな炎を水魔法で消火させる課題の時も、突風を起こして彼女の放った水の軌道を変えてクリスティーナ嬢をずぶ濡れにし、恥をかかせた」
「彼女の運が悪かったのでしょう、たかが風ごときで私のせいだとおっしゃられても困りますわね」
つまらなそうにそう言ってヴィクトリアが人差し指を振ると、小さな突風が起きて王子の手のひらの上の炎が一瞬でかき消えた。
レオンはその氷のように青い瞳を鋭く尖らせ、一歩ヴィクトリアに近寄った。王子らしい飾りの多い衣装の、胸についた細いロープが揺れる。ヴィクトリアは微笑みを崩さず、甘い表情で婚約者を見上げた。
「さらに、あなたは公爵令嬢という立場から権力を振りかざし、クリスティーナ嬢を学園で孤立させた」
「…それは、私のサロンに彼女を招かなかったことをおっしゃっているのかしら?仲の良い友人たちをお誘いする場に、彼女を招く義理はないでしょう。私のサロンに招かれなかったからといって、彼女が孤立する理由にはなりませんわよ。ひとえに彼女自身の問題でしょう?」
くすくすと淑女らしく笑って、コテリと彼女は首を傾げた。銀糸の髪が絹のように肩口を撫でる。
「何が…!すれ違うたびに彼女に嫌味を吐き捨てては笑い者にしたくせにッ」
「よくもまあ…何度もクリスティーナの持ち物を壊したのは誰だ!?彼女の教科書を八つ裂きにして捨てただろうが!!」
けたたましく吠える青年たちに、いいの、いいから、大丈夫だから、と震える少女が袖を引く。
───パッ、とレオンは前触れなくグラスを持つ手を離した。ホールの生徒たちがあっと息を飲んだ。
重力に従ってワイングラスが落ちていく、赤い飛沫があたりを舞う。
「そして…昨日、ついにあなたはクリスティーナ嬢を階段から突き落とし、彼女を殺そうとした」
レオンは鋭い視線でヴィクトリアを射抜き、静かな声で彼女の恐ろしい罪状を明らかにした。
静まり返ったホールに、コトリ、と音が響く。落ちたグラスは忽然と、何事もなかったかのように元あったテーブルの上に舞い戻っていた。
その音を合図に、ざわざわと生徒たちが囁き始める。まさか、そんな、恐ろしい、小さな呟きが大きな雑音となり、壇上に毅然と立つヴィクトリアをチクチクと責め立てる。
まるでショータイムだ。
手品のように鮮やかな魔法の数々、小説のようにスリルある事件、クライマックスである犯人の断罪、どこか夢見心地な気分で皆は壇上の行方を見守った。
これ以上ないほど、ヴィクトリアは悪役にふさわしい。彼女が罪深ければ罪深いほど、この舞台は艶やかに完成される。
この場にいる全員の注目を一身に受けたヴィクトリアは、きょとりと一つ瞬きし、レオンに向かって麗しく微笑みかけた。
「今日の殿下はとてもお喋りですのねぇ、素敵ですわ」
頬を染めて、恍惚と彼女はレオンを見上げた。
そんな彼女に青年たちが口々に叫んだ。
「なんて恐ろしい魔女だッ」
「人を殺そうとした挙句、平然と白を切るなど、悪魔と契約でも交わしたか?」
「クリスティーナ、君は俺たちが守る、怯えないでいい」
「…先ほどから羽虫がうるさくて敵いませんわね」
鬱陶しそうに手で追い払う仕草をして、ヴィクトリアは溜息をついた。
「この期に及んで惚けるつもりなら、それもいいだろう」
金の髪をかき上げ、胡乱な青い瞳でレオンは彼女を見下ろした。
「だが、こちらにはまごう事なき証拠がある。あなたの命運は既にこの舞台の上にあるという事だ。慎重に言葉は選んだ方がいい。これは忠告だよ」
「あら、何のことでしょうか?」
「証拠を出す前に今一度あなたに問おう。つまり、あなたは昨日の放課後、こちらのクリスティーナ嬢を階段から突き落とし殺害しようとした───これが事実かどうか、あなたに答えていただきたい」
「さあ、記憶にありませんわ」
「残念だよ」
冷酷な顔をして、レオンは一つ手を叩いた。軽い破裂音と共に、フロアの鏡という鏡が輝いた。生徒たちは慌ててあたりを見回した。先ほどまで自分たちを映していたあちこちの壁面の大きな鏡が、その一瞬で学園の校舎のとある場所を一方向から映し出した。
魔法学準備室の傍の、階段の手前が映し出されていた。階段は途中までしか見えず、教室が並ぶ廊下がずっと向こうまで続いている。その廊下の奥から、ピンクブロンドの少女が歩いてくる。言わずとも知れた、クリスティーナ男爵令嬢の姿が映っていた。彼女の姿がどんどん大きくなり、階段の手前にたどり着く。彼女が下りの階段の1段目に片足を下ろす。
その時、不意に美しい銀糸が映り込んだ。
画面の手前から銀髪の少女が突然訪れ、ゆっくりとクリスティーナの背後に近寄る。クリスティーナは気づかない。
銀髪の少女は、階段を下りるクリスティーナの背中にその白い手を伸ばし───ドンッと突き飛ばした。
クリスティーナの細い身体が驚きに痙攣し、足を踏み外す。
一瞬の出来事だ。
少女は為す術もなく、落ちていく。
その時、風で銀髪が舞い踊り、背後の少女の横顔が露わになる。
紫苑の瞳に愉悦を浮かべた、───ヴィクトリアがそこに立っていた。
映像が終わると、一面の鏡は全て元どおり生徒たちを映し出していた。誰もが、今の映像に青ざめ、震える。
もはや、言い逃れなど出来ない。
全ては明白、明快、疑念は確信に変わり、生徒たちは証人としてこの断罪の行く末を見守らなければならないと、生唾を飲み込んだ。
「これを見ても、まだ言い逃れができるのか?」
静かな声だった。
憎悪や憤りの感じさせない、淡々とした口調でレオンは自らの婚約者に詰問した。それがかえってそら恐ろしく、誰一人ざわめき一つ立てやしなかった。
ヴィクトリアは無表情で沈黙した。
人形のような顔立ちをさらに無機質に変え、静かに王子を見返していた。
「ヴィクトリア・ブラットリー。質問に答えろ」
王族の命令に、逆らうことは許されない。つり上がった目尻をクイと引き上げ、彼女はそのぽってりと赤い唇を開いた。
「申し訳ありませんが、特に記憶に留めておりませんわ」
「…分かるように話してくれ」
悪びれなく話すヴィクトリアに、王子は眉をピクリと動かした。
「ですから、取るに足らない男爵令嬢一人階段から落ちたところで、私が気にとめる必要性が感じられません、と申し上げています」
「それは、クリスティーナ嬢を突き落としたことを認めるということでいいか」
一瞬だけ沈黙して、ヴィクトリアはクスリと微笑んだ。
「それは───悪いことかしら?」
ゾッ、とその場の全員に悪寒が走った。
紫苑色の瞳が純粋そうに輝き、笑みの形に唇が上がる。
「ねえ、皆さん」
気の強い目が生徒たちを見渡す。唐突に矛先を自分たちに向けられた彼らは、ドキリと身体を震わせた。
「私は、レオン殿下を愛しているのです」
芝居掛かった動作でヴィクトリアは白い手を胸に当てた。それはそれは悲しげに伏せられた長い銀の睫毛の端に、キラリと光るものが滲む。
「一目見た時から、私はずっと殿下だけをお慕いして参りました。殿下を愛しているから、マナーも魔法もダンスも語学も全て人一倍努力いたしました。殿下に愛を捧げ続けました」
この学園でヴィクトリアの成績は上位に入っており、実際令嬢の中ではトップを誇る。彼女は目元を拭い、キッとその純度の高い炎のような瞳をクリスティーナに向けた。
「それなのに…そこの男爵令嬢は、恥知らずにも殿下を誘惑し、私から婚約者の座を奪おうとした。だから、身の程を分からせてさしあげようと思っただけですわ」
一息にそう言って彼女は美しく微笑んだ。
「それの何がいけないことなのかしら」
その台詞にクリスティーナとその周りの令息たちが慄き、わめく。
「そ、れは…本気で言っているのか…!?運良く軽傷で済んだから良かったものの、最悪の場合死んでいたかもしれないんだぞ!?この女、人間じゃない…」
「本当、悪運の強いこと」
ヴィクトリアは忌々しそうにクリスティーナを睨みつけた。少女は自らの手の包帯を庇うようにして、怯えて縮こまった。
「許しを請うなら今の内だが…本当に、申し立てはないのか?」
レオンは眉をひそめ、ヴィクトリアに問いかけた。彼女は愛しの王子様に微笑みかけ、愛らしく首を傾げた。
「許し…?私は悪いことをしたのですか?あちらこそ、ただの男爵令嬢でありながら不躾にも殿下の名前を呼び、ベタベタと馴れ馴れしく付き纏い、婚約者の座を奪おうとした罪人ではなくて?私はただ、殿下を愛していたが故に…殿下のためを思って行動を起こしたのです」
「レオン殿下!騙されないで下さいッ!!どんなに甘ったるい言葉を並び立てようが、クリスティーナを殺そうとした罪は消えない!この女にどうか相応の裁きを…」
「ええ、そうですわね。愛は免罪符にはならない、あなた方にも言えることでしょうが」
そう言ってヴィクトリアは失笑した。
「なんだと!?」
「真実の愛を見つけたから───、婚約者のいる身で他の女性を愛して良いのかしら?」
シン、とホールが静まり返った。
「ねえ、殿下?」
冷ややかな青い瞳が、ヴィクトリアの瞳とかち合う。証人たちは固唾を飲んで、王子の言葉を待った。
彼はその端正な顔を歪め、肺から深く息を吐き出した。
クリスティーナは桃色の瞳を潤ませ、聖女のように指を組み首を振る。彼女を守るべく青年たちはヴィクトリアを睨め付ける。
「兵よ、配置に付け」
王子が口を開いた。その途端、ホールの出入り口から王家の兵士たちが一気に現れ、ホールを取り囲むようにザッと訓練された動作で隙間なく立ち並ぶ。
突然の兵隊の登場に、生徒たちは驚き身を寄せ合った。
「ヴィクトリア・ブラットリー」
厳かに名を呼ばれた令嬢は、優雅に微笑み返す。
「あなたに婚約破棄を言い渡す」
その宣告に、紫苑の瞳を驚愕に見開き、ヴィクトリアはその白魚のような指でゆったりと口元を覆った。
その下で、抑えきれずに赤い唇がにんまりと弧を描く…はずだった。
「───ように仕向けた、あなたの姦計は許されない」
彼女は続けざまに言い放たれた言葉に硬直した。
「……………………………………はい?」
ブリキ人形のような動きで、ヴィクトリアはぎこちなく首を曲げた。それはいつもの彼女らしくない、どこか油断した表情で。
その時、初めてレオンが口の端を歪めた。
「あなたの手のひらの上で踊るのもなかなか楽しかったが、そろそろ遊びはおしまいにしよう」
にこり、と微笑んだ貌。目元を覆う長い前髪、その金色の隙間から覗く青い瞳には愉快そうな色が宿る。
「あらあら、殿下ったら。何をおっしゃってますの?」
すぐに余裕を取り戻したヴィクトリアは、眉を寄せて困ったように微笑んでいる。
「此の期に及んで悪あがきかい?まあ…それもいいかな」
くつくつ喉の奥を鳴らして、レオンはさもおかしそうに笑った。対するヴィクトリアは余裕そうな表情を保ちながらも、輝く銀髪が額にかいた冷や汗で少し張り付いている。
流れについていけない他の皆の様子にようやく気づいたのか、レオンは生徒たちに向き直った。
「皆さん。先ほど見せた場面は、校舎に設置された魔法カメラが捉えた映像だが…実を言うと他の角度からの映像も残っていてね」
「ッ!そんな、あの場所にはあれ以外カメラなんて…」
途端に目に見えてうろたえるヴィクトリアに、堪えきれずレオンは吹き出した。
「ふっ…、ははっ、あなたは頭が良い割には、少し抜けている」
「な…」
カッと少女の頬に朱が走る、レオンは可哀想なものを見るように彼女を哀れんだ。
「王族が通う王立学園に、これ見よがしにカメラを設置すると思うかい?敵にバレないように隠れていろんな場所に取り付けられてあるに決まっているだろう」
「そんな…」
ヴィクトリアの赤みを帯びていた顔が、瞬く間に青ざめる。静観していた生徒たちも驚愕の事実にざわめき出した。
「ああ、皆さんは心配しないでいい。滅多なことでは誰も見ることはないし、プライバシーはきちんと遵守されている。そもそも王族以外見る権限がないが」
戸惑う生徒たちがレオンのその言葉にホッとしたのも束の間のこと。
「けれど、くれぐれもこのことは他言無用で頼むよ」
冷ややかな微笑に、生徒たちは凍りつく。
彼らは王族しか知らない機密を知ってしまったことにズンと背中が重くなった。この先誰にも漏らすことなく、この情報を隠匿して生きていかざるを得ないのだ。
地面に穴を掘ってその中にこの秘密を叫び埋めてしまいたい。
正直、生徒たちはもはやこれ以上ここに居たくはなかった。今回はまだ軽い内容だったが、これ以上ここに留まれば、一体次はどんな重要な隠された事実を聞いてしまうか分からない。
けれど振り返れば兵隊たちがぐるりとホールを取り囲み、蟻1匹逃がさない面持ちで立ち塞がっている。
それに、最初に命じられたではないか。この舞台の証人として見守るように、と。
いつの間にかショーを観覧しているお気楽さは失せ、誰もがこの舞台の役者へと引き上げられていた。既に傍観者という立場ではなく、れっきとした証人という役名で参加している。
「さあ、隠されたカメラがとらえた映像をご覧に入れようじゃないか」
高らかにそう言って、レオンは手拍子を一つ叩いた。
軽やかな破裂音の後、再び眩い光が溢れたフロアの鏡に校舎が映し出される。
階段の真下から見上げるようなアングルで撮影された映像は、しばらくして一番真上に少女の姿が現れた。ピンクブロンドの髪の少女、言うまでもないがクリスティーナだ。どこか緊張した面持ちで彼女は一歩階段に足をかけた。
それと同時に、ドンと彼女の体が大きな衝撃を受けて、真っ逆さまに落ちる。覚悟を決めたように彼女はぎゅっと瞼を閉じた。
落ちていく彼女の背後に、笑みを携えた銀髪の少女の姿が映る。好戦的な笑みを浮かべ、彼女は両手を突っ張った状態で佇んでいる。
その時、突然ぶわりと大きな風がクリスティーナの落下地点から巻き起こった。とてつもない突風に、少女たちの長い髪が煽られる。
クリスティーナの体は地面に当たる寸前でふわふわと舞い上がり、ゆっくりと風にエスコートされながら、─────着地した。
クリスティーナはホッとした表情を浮かべ、階段の上を見上げた。頭上から見下ろす勝気そうな少女、ヴィクトリアはクイと口端を上げて片目を瞑った。そのまま彼女は階段の奥へと消える。
皆が呆然とそれを見守ると映像は途切れ、鏡は元通り生徒たちを映し出していた。
「クリス、ティーナ?」
先ほどまでレオンの話について行けず呆気にとられたまま、空気のように無言だった青年たちが戸惑いの声をあげた。
ピンクブロンドの少女は俯いて座り込み、その前髪が表情を覆い隠している。その華奢な肩は小刻みに震え、これから来るであろう尋問に恐れおののき、言葉をなくしていた。
「クリスティーナ、今のは一体…どういうことなんだ…?」
青年たちは混乱した目で、お互いを見合った。白い包帯が巻きつけられた手の甲を、少女はそろりと撫でた。先ほどの映像が真実であるならば、その包帯の下は…。
「親愛なるクリスティーナ、そんなに怯えないで。あなたは僕の女神なのだから」
そう言ってレオンはそっと跪き、クリスティーナの手をとった。びくり、と少女の体が大きく震える。
「…も、申し訳ござっ、…いません」
謝罪の言葉と同時に、真白い包帯が解ける。傷ひとつない、美しい手が露わになった。
「どうして…」
青年たちは目を白黒させて天を仰いだ。彼らは何も知らない。全ては彼女たちのシナリオ通りに踊っていただけだ。
レオンはその白魚のように美しい手を見つめ、笑みを深めた。勿体振るように彼女の手の甲を軽く撫で、優雅に立ち上がる。
「さて…“これを見ても、まだ言い逃れができるのか?”」
数刻前と全く同じ問いかけをして、レオンは振り返った。罪人の姿がその視界に入る。
罪人ヴィクトリアは可哀想なほどに顔を蒼白にし、ジリジリと後ずさって既に舞台の降り口あたりまで離れていた。いつでも逃げ出せるように、チラチラ周囲を伺いながらそれでも懸命に王子たるレオンを警戒する彼女は、さながら毛を逆立てた猫のようだ。
「あの風属性の魔法、見事だったよ。ああも自由自在に風をコントロールできるのは、あの場においてあなた以外あり得ない」
「…流石に本当に怪我をさせるわけにはいきませんもの、だからああやって少し脅かしたのです」
「なるほど、ではあのチャーミングなウインクにはどういう意味が?」
「…………………………め、目にゴミが入ってしまいましたの。偶然ですわ」
白々しくもそうのたまって、ヴィクトリアはツンと顔を背けた。あまりにも苦しい言い訳にレオンもこみ上げる笑いを噛み殺して、誤魔化すように咳払いをした。
「僕は優しいからね、もう少しあなたの悪あがきに付き合ってあげよう」
つい先ほどまで男爵令嬢一人階段から落ちようが気にも留めないと言っていた口が、本当に怪我をさせるわけにはいかないから脅かしたと矛盾したことを言っている。けれどあえてそれを指摘することはなく、むずかる子供をあやすように、レオンは微笑んで手を叩いた。
「バークヘルク、報告を頼む」
鎧を纏った兵士が一人機敏な動きで舞台下に駆け寄り、跪く。
「ハッ、殿下の指示のもとブラットリー嬢の寮部屋を捜索致しましたところ、塵ひとつ無いもぬけのからでありました。」
「やはりそうか」
「なんですって…!?私の部屋に無断で入ったの?信じられないッ」
ヴィクトリアは顔を真っ赤にして震える両手で頬を押さえた。
「信じられないのはこっちの台詞だ。何故あなたの部屋にベッドも家具も何もかもがないんだ?今日は前夜祭である卒業パーティーで、明日は証書をもらう卒業式がある。どうしてかな?」
「……早いうちに荷物を送っておいたほうが後で楽ですから。今日はお友達のところで泊まらせて頂く予定でございました」
「バークヘルク」
「学園の全校生徒にあたったところ、誰一人その予定は無いと証言しました」
「だ、そうだが?」
「内密にしていただくように頼んでおりますから」
「なるほど。どうする、バークヘルク」
「王族の御下命により行われた質問に、虚偽の証言した者がいるということでしょうか。であれば、即刻その者を洗い出し、厳罰を与えなければなりません」
生徒たちはヒヤリと肝を冷やした。そういえば今朝、使用人を通してそんな質問があった。今夜誰かを部屋に泊める約束をしているか、しているならば相手は誰か、とかなんとか…なんの事かと思ったが、心当たりが無いため否と答えたが。
「恐れ入りますが、どなたかお教えいただけますか?」
「そ、それは…」
無機質な鎧越しに見上げる兵士に、追い詰められた少女はゴクリと唾を飲み込む。
顔を真っ青にして、閉口するヴィクトリアに生徒たちは懇願の念を送った。どうか、どうか自棄になって嘘をつかれぬよう。勢いで自分の名前を出さぬよう!
「………………冗談ですわ…」
ヴィクトリアの言葉はボソボソと、しりすぼみになって消える。安堵と同時に、生徒たちの身にドッと疲れがのしかかる。
「冗談?というと…何故あなたの部屋がすっかり空になってるのか、その説明はどうなるのかな?」
「………………………………」
「黙秘はつまらないな…ま、仕方がない」
下がって良い、と兵士にひらひら手を振って、レオンは一歩ヴィクトリアの方に近寄った。
「つまり、あなたは今日この場で自らが断罪されることを既に知っていた。それもそのはず、あなたはこの全てを仕組んだ張本人なのだからね」
「全てを仕組んだ…?」
青年たちは呆然と立ち竦み、呟いた。
「………………ええ、ええ、そうですわ!殿下のおっしゃる通りです。悪あがきはやめに致します」
突然ヴィクトリアはキッと顔を上げ、レオンを睨みつけた。
「私はこれまで数々の嫌がらせをそこの男爵令嬢に行い、その罪を自覚しておりました。…それゆえにあなた様から今日、この場で糾弾されることも覚悟しておりました。おそらく今日をもって、私は屋敷に帰ることになり、追って沙汰を待つことになるだろうと、そう思って荷物は全て送ってしまいましたの」
ヴィクトリアは長い銀の髪を手で払い、開き直ったように堂々として、唇を歪めた。
「そうか」
レオンは、一つ相槌を打った。そのこの世ならざる美貌から、一切の感情を削ぎ落として。
「強情も過ぎれば愚かだよ」
「何を…」
「それともまだ、この期に及んで逃げられるとでも思っている?」
ゆっくりと近づく男に、思わず視線をそらした。じわじわと恐怖がヴィクトリアの胸を染め上げていく。磨り減った精神の中、打開策を考えては首を振る。
こつり、と革靴が音を立てて目の前で止まった。ヴィクトリアの白い頬に柔らかな金色の髪が落ちる、反射的に逃げようとしたが、それより早く腕を掴まれた。
ハッとして顔を上げれば、至近距離で青い瞳が彼女を見下ろしていた。
「可哀想なヴィクトリア」
つう、と男の指が少女のまろい頬を撫ぜる。憐憫と、愉悦を混ぜ合わせた色が、どろりと溶け落ちるように細められ、怪しく輝く。
その視線に絡め取られる、ギラギラと光る瞳がヴィクトリアを捕らえて離さない。
その手が首筋を辿り、やがて銀色の髪をすくい上げ美しい唇を寄せた。吐息を零して、彼が、微笑む。
「僕のヴィクトリア」
驚愕のあまり、少女は目を見開いた。
慌てて力任せに腕を解こうとして、ギチリと白い手袋をはめた男の指が食い込む。歴然とした力の差に絶望した。
「……ク、リスティーナっ…どういうことなの、どうして」
ヴィクトリアは涙交じりに叫んだ。屈辱に紫苑の瞳を濡らし、舞台の真ん中で座り込む男爵令嬢に助けを求める。
「申し訳、ございません…」
名を呼ばれた少女は、うなだれて身体を震わせながら力なく首を振るばかりだ。
「あなっ、あなたが、言ったんじゃない…!こうすれば全てうまく行くって、なのに、どうしてなの…っ!?」
駄々をこねるようにヴィクトリアは髪を振り乱した。その姿を冷静に見下ろしながら、レオンは優しく問いかける。
「…どうして泣く?あなたは僕を愛しているんだろう、ほら、もっと嬉しそうな顔をすればいい」
「泣いてなんかいないわッ!!!」
癇癪を起こし、敬語も忘れてヴィクトリアは叫んだ。
「愛してるですって?笑わせるわ!!ねえ…殿下、教えてあげる。私はね、昔からあなたのことが大っ嫌いなのッ!!あなたなんかと結婚するくらいなら、修道院にでも言ったほうがマシよ!!!」
学園にいる間ずっとレオンに付きまとい、愛していますと毎日のように愛を浴びせかけてはにっこりと微笑んでいたはずの彼女は、別人のように目を釣り上げて真逆の言葉を吐き捨てた。
はあ、はあ、と息を切らし、追い詰められて青ざめた顔をそれでも彼女は凛と上げ、目の前の憎らしい男を怯むものかと睨みつける。
火傷しそうなほどに苛烈な視線を向けられた当の本人は、うっすらと目を眇めた。
「知ってたよ」
そう言って、口元が三日月を描く。
「……………は、……………」
予期せぬ返答に一瞬呆けて、ヴィクトリアはこちらを見下ろすその透き通るような青い瞳を思わずまじまじと見つめた。理解できていない彼女を言い含めるように、レオンはもう一度優しく繰り返した。
「あなたが僕を嫌ってることくらい、とっくの昔に知っている」
「なんですって…?」
事態が把握できず反射的にヴィクトリアの唇が弧を描く、信じられないと乾いた笑いがふ、と口からこぼれた。
「知っているよ。隙あらば婚約者の座を辞し、自由の身になりたがっていたことも。…あなたは狡猾な人だから、先手を打つのに苦労したよ」
苦労なんて微塵も感じられない惚けた口調で、彼の白い手袋をはめた指はヴィクトリアの耳の後ろをなぞった。その感触にゾワリとしたものが走る。自由な方の手で叩き落とそうとしたが、それより先に彼の手が離れた。
「どんな気分だい?大っ嫌いな僕に陥れられて、権力だけじゃなく純粋な力だけでも敵わないなんて」
見下すように鼻で笑う美貌が近づく、金糸の髪がヴィクトリアの頬を、首筋を優しく撫ぜる。
「…残念、もう逃げられない」
耳元で囁かれた言葉が鼓膜を震わせ、甘い毒のようにヴィクトリアの内側をじわりじわりと侵食し始めた。
絶句する少女に、レオンは機嫌よく喉を鳴らす。
「生まれてからずっと蝶よ花よと大事に育てられてきたあなたは何でも自分の思い通りにしてきた。まだ年端も行かないあなたに対して両親も周りの大人も子供も誰もが逆らうことなく、媚びへつらい、ちやほや褒め称えた。さぞいい気分だったろう?世界の中心が自分になったような気でいただろう」
全てを見透かすような底の見えない青い瞳が、ヴィクトリアを捕らえた。
「でも、それは全部僕のためだったんだよ」
当たり前のように彼はそう言った。
「将来、僕に献上されるために、あなたは麗しく育てられてきた。プライドの高いあなたからすれば、我慢ならないだろう。だけどそれが現実だ」
それは、ひけらかすようでも無く、ただただ真実を諭すだけの優しい声色だった。
「幾度となくあなたがこの婚約を破り捨てようとしても、周囲の者が誰一人許さなかったろう。あれほどまで優しくしてくれた皆が、どんなワガママも叶えてくれた両親が!」
数刻前のヴィクトリアを真似るように、芝居掛かった口調で大げさに唱えて、一呼吸。
「…そう、言わばあなたは僕に売られたようなものだ。高貴で、美しくて、優秀で、…哀れな僕だけのヴィクトリア」
金色に輝く髪、空を映したような青い瞳、彫刻のような整ったその顔が、嘲笑を携えてヴィクトリアを見下ろした。
「…自分で客を選べる分、高級娼婦の方がもしかするとマシかもしれないね?」
あからさまな侮蔑が薄笑う、この自分に向かって、この男は。
「───い、ッ…………」
潤んだ紫苑の瞳がキラキラと光を反射しながら、レオンを睨み上げた。
未だ嘗て感じたことのない屈辱、恥辱にカッと頭に血が上り、凄まじい憤りのあまり目の前が真っ赤に染まる。
「ッあなたなんか、大っ嫌い!!!!!!!!」
絶叫と同時にブワリ、と銀色の髪が舞い上がり、内側から魔力が放射状に放出される。感情が高ぶるあまり飛び出した魔力が大きな突風になり、ホール中を駆け巡った。鋭い風がテーブルを吹き飛ばし、グラスや皿が甲高い音を立てて割れて床を汚す。
静観していた生徒たちの髪や服が煽られ、パニックになりかけたとき、乾いた音が一つ落ちた。
「……悔しさのあまりに失神したか」
見れば手拍子一つで事態を収めたレオンが、無表情で少女を抱き寄せていた。
ヴィクトリアはくたりとレオンに身体を預けて、意識を失っていた。
誰もが、この状況に二の句が継げず、この広いホールを沈黙が支配する。
口火を切ったのは、当然ながら王子だ。
「みなさん」
全体を見渡しながら、不気味なほどににっこりと微笑む男。その笑みに薄ら寒いものを感じながら、生徒たちは次の言葉を静かに待った。
「御察しの通り僕たちは愛し合っている。今日はこのパーティーの場をお借りして、それを証明できたかと思うよ」
誰もが頭に疑問符を浮かべながら、誰もが賢明にも口に出さなかった。
「この場にいる76名の皆さん。今後卒業してもきっとまた会う機会もあるだろう、くれぐれも…よろしく頼むよ」
彼はこの場に存在する証人の数を正確に把握している。それは、つまり、そういうことだ。このパーティーの全員の顔と名前を恐らく、いや確実に把握しているということだ。お前達の命運はこの手の内にある、くれぐれも忘れるな、とその笑顔が訴え掛けている。生徒達はゾッと悪寒に身を震わせた。
「卒業おめでとう、僕たちはこれにて失礼するが、皆さんは引き続きパーティーを楽しんでくれ。ではまた明日の卒業式で」
壊れ物を扱うようにヴィクトリアを横抱きにして、最後まで楽しそうに王子様は舞台を降りた。苦悶の表情でうなされている彼女を愛おしそうに見つめる顔は、童話に出てくる王子そのものだった。
彼らが立ち去っても、ホールを取り囲む兵士達は生徒達を見張っているかのごとく、そのまま微動だにしない。
再び精霊たちによる演奏が始まる。精霊たちも動揺しているのか、ミスが目立つ。
最初に動いたのは、舞台の上に取り残された青年達だった。
「クリスティーナ嬢……どうか、もう泣かないで」
「もういいさ、もう謝らなくていい」
「……ですが、私は…」
クリスティーナのピンク色の瞳がもはや溶け落ちそうなほどに、潤み切っている。
青年達も、生徒達もただ首を振った。
「きっと、のっぴきならない理由があったんだろう、だけど理由は言わなくていいよ」
よろよろと覚束ない足取りで舞台から降りながら、彼らは笑った。
「正直これ以上もう、誰にも言えないことを増やしたくないから…………」
げっそりと死んだ目で一同は頷いた。
中庭に76人分の穴を開けて、その中に叫ぼう。
ああ、痴話喧嘩は他所でやってくれ!……と。
結婚するまで二人はまだまだこの関係を楽しむそうです。
そのうち、ヴィクトリアや王子視点でちょっとした番外編も書けたらいいなと思っています。
以下、作中で明かされなかった長い説明
ヴィクトリア:少々カッとなりやすい、ワガママお嬢様。プライドは天より高い。
婚約した当初は、かっこいいし王子さまだし素敵!って思ってたけど、しばらくして自分ばっかり王子の婚約者としてふさわしくなれるように周囲からせっつかれ、あんな優しかった両親もレオンの肩を持ち、肝心のレオンは全然こちらのことを気にかけない…という扱いに腹を据えかね、何でこの私がこんな目にあわなくちゃならないのよ!!!とキレる。
婚約解消のチャンスを伺うも、ことごとく空振り。そんな中、学園に入学し、クリスティーナと出会う。クリスティーナとレオンが仲良くし始めて、なんかよく分からないけどちょっとイラついて、とりあえずクリスティーナに話だけしに行ったら、聖女のごときクリスティーナに絆され(アホの子)、友達になる。
恋愛相談(どうすれば婚約破棄できるか)にも乗ってもらい、二人で考えた結果、うざいぐらいにレオンに付きまとえば、あっちも嫌になるんじゃ??ついでにイジメとかしたら更に幻滅するんじゃ??という結論に。
もうプライド捨ててもいいから、どうにかしてあの腹黒男と婚約破棄したい。
ちやほやされるのは好きだけど王子妃とかあんまり興味ない(序列が王子>王子妃というのが嫌。自分より偉そうにされるのが嫌。待って辺鄙な領地だったら一番えらいの自分になるんじゃ??よし、婚約破棄&追放されて引きこもろう。的な発想)
ちょっとアホの子。ワガママだけど悪い子ではない。
レオン王子:ヴィクトリアが大好き。ヴィクトリアがプライドを傷つけられ、悔しくて震えながら泣くのを我慢してるのをいつもニコニコしながら見てる。
ヴィクトリアが婚約解消したがってるのはとっくに知っていて、毎回楽しみながら阻止している。
学園に入ってちょっとしてから、ヴィクトリアの好き好きラブコールが突然始まり、最初は流石に驚いたが、嫌いという感情を全身全霊で抑えながら作り笑顔で愛してるアタックしてくる彼女を眺めるのも「頑張ってるなあ、可哀想に」という感じでなかなか楽しめた。
クリスティーナと別に普通に仲良くしていたら意外と無自覚にヴィクトリアが嫉妬し始めたので、(ヴィクトリアで)遊んでいたら学園で「レオン殿下は実はクリスティーナに懸想している」という噂が立った。
第一王子だったらさっさと妃娶って、王太子として頑張らないといけないけど、第二王子だから別に急いで結婚しなくてもいいし、しばらくこの楽しい関係を続けられるので第二王子で良かったなあと心底思ってる。
腹黒策士。獲物を逃す気はゼロ。
クリスティーナ:幼い頃から病気がちで、成長とともに丈夫になり、学園に入学できた。病弱ゆえに今まで一切の交流を断ち切ってきたため人との適切な距離感がつかめず、学園に入っても最初は周囲から遠巻きにされていたがすぐに裏表なく接してきてくれたヴィクトリアが大好きに。(レオンは馴染めない自分を気遣って仲良くしてくれていたと気づいてた)
恋愛相談にも乗ってあげて(まさか婚約破棄したがってるとは思わなかったが)好き好きうざアピールを考案。イジメは軽いものなら…(ちょっとしたマナーに関する嫌味とか)という感じで始めた。
………………………が、途中からレオンにばれて、笑顔の圧力に屈し、共犯者にさせられる。
つまり途中からヴィクトリアを騙していた。
婚約破棄のシナリオはレオン監修のもと綿密に作られ、フィナーレはこの卒業パーティーに。階段落ちもレオン考案で、クリスティーナがそれをヴィクトリアに提案し、ちょっと渋ってはいたがあの校舎で決行する事に。
もちろんクリスティーナは隠しカメラの存在をレオンから既に聞かされており、ずっとヴィクトリアに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
なので作中ずっと怯えていた。
クリスティーナの親衛隊?の青年たち:なにも知らされてない、かわいそうな人たち。全員婚約者持ち。
いやクリスティーナ嬢はそういうんじゃなくて、レオン殿下に頼まれたというか、その、あの、……申し訳ございません調子こきました浮気じゃないですただ殿下にヴィクトリア嬢から彼女を守れるのは俺たちだけだとおっしゃって頂き真に受けまして…許してください待ってお父上に言いつけないで、待って