裏道教のGoogle先生
電子機器の発達により、ツーリンガーの人たちも平気でナビを使うような時代となった。
2000年代前半、それこそかのばくおんが連載された頃はナビなどまだ珍しい部類の時代だったが、いまやスマホがナビの代替となり、簡単に道案内などを可能とする時代である。
ここでちょこっとだけばくおんのバイクのイメージについて語りたいが、やはりばくおんのバイクネタは古いと思う。(10年~15年ぐらい)
新しい車種は殆ど扉絵などでしか出てこない。
特に筆者も引っかかったけど、CB400はいまや「優等生」ではないってことだけは言いたい。
よほどセローの方が優等生に近い存在である。
ついでにいえば刀400は慢性的なフレームの脆弱性を抱えているのでオススメできないことと、
散々刀を持ち上げる一方で「刀の再来」と欧州と欧米で大人気のGSX-S1000とその縮小版で4気筒エンジン搭載なのに国外で大人気のGSX-S750についてはもっと劇中内で語るべきだと思う。
特に筆者はGSX-S750について高く評価しているが、アレは失敗作だった750刀とはまた違うアプローチで成功している傑作マシン。
販売されてから日本でもそこそこ売れているが、実はGSX-S1000よりもGSX-S750の方が開発に難航したことはさほど認知されていない。
GSX-S750は一見するとGSR-600から続くGSRシリーズのコンポーネントを利用したマシンであるように思えるが、実際には新規フレームで行こうと当初は考えられていたなど、GSX-S1000の縮小版としてアピールできるような形で挑もうと考えていた。
だが結果的に開発者は「エンジンフィーリング」など心臓部などに力を注ぐため、あえてフレームなどは既存のものを流用することにしたのだ。
GSX-S750を見てみると、フレーム以外はほぼ完全新規設計となっており、むしろ「流用したのがフレームだけだった」というぐらい贅沢な設計である。
スイングアームから何から何まで全て新規に設計しながらもフレームを流用したのはGSRシリーズのフレームがそれだけ優れたものだったからだ。
そういった話がかの作品にはないので、「オイ!」と思うのである。
というかだ、ハッキリ言うと主人公勢のマシンが古すぎるんだ。
アレが連載された当初、たしかにあのメンバーのマシンは比較的「ベター」な選択肢だったと思う。
それぞれの車両をNC42とかの新モデルに入れ替えれば確かにしっくり来る。
だがそのメンバーに入れ替えても正直言って現状だと構成メンバーは古い。
状況がひっくり返ったのはNinja250という魔物が出てから。
ネイキッドブームという存在を生み出した川崎は2007年に施行された排ガス規制によって殆どの車種を生産終了に追い込まれた。
そこで国外などを含めて現地で大量の市場調査のデータを基に生み出したのがNinja250。
Ninja250は出た当初とにかく叩かれた。
ブレーキやフロントフォーク、そしてシートフレームがZZR250という割と古いバイクの流用だったりしたし、そもそも「Ninjaがニーハンのなんかやたら馬力の低いスポーツバイクとして出るとは何事か!」ととにかく批判された。
しかし日本でも世界でもコイツは大ヒット。
2017年に新型が出たが、出るという情報だけで世界各国のバイク雑誌がコイツの話題で独占されるほど評価される人気シリーズとなっている。
コイツこそ次世代のスタンダードと呼べるバイクであり、その後の2010年代の売れ筋バイクは「殆どこいつの設計思想と同じものが売れている」という状況である。
つまり、こういったNinja250の影響を受けて後に登場するグローバルモデルと称される連中こそ、バイク漫画の標準的な主役に相応しい。
この手のグローバルモデルの設計思想は簡単に言えば「パーツを流用して価格を下げる」「国外で一括生産して価格を下げる」「ネイキッドは風がしんどいので売れないので、カウルを装着しより実用性一辺倒なバイクとして仕上げる」「その上でカウルを施して汚れにくく破損しにくく、とにかく車の代わりになるよう仕上げる」という、スーパーカブに近いものだった。
川崎は市場調査の際、国外ではアジアも欧州も「スーパースポーツバイクにアップハンドルを付け、さらにそこに荷物を大量に積載して乗る」というような状態。
今では日本でも珍しくない姿(俗に言うロングツーリング仕様)を認知しており、そこに目をつけたのである。
250ccになった理由は経済的発展を遂げるアジア諸国でモアパワーが求められていたので、アジアへ向けては日本の四輪車でいう「クラウン」などのイメージでの販売となった。
このバイク、本気で日本で馬鹿売れした。
それまでああいった形状のスポーツバイクというと、「8000回転以上ブンまわせ!」「2000回転以下はエンストだ!」みたいな非常に扱いにくいバイクばかりな所、そういうのを捨ててもっと扱いやすい特性のエンジンに仕上げ、「こんな形状だけどフラットダートだって簡単走破だぜ!」みたいなバイク本来の形に近づきつつ、
川崎が生み出したネイキッドブーム最大の弱点である「趣味性が強すぎる」という部分を極限にまで削り取るかのような仕様だったのだ。
そしてこのNinja250が出た頃よりバイクの時代は新たな時代の幕開けとなる。
youtubeなどを見てもらうとわかるが、2007年代に車載動画と称してアップロードされるバイクで最も多かったのはやはりこいつだった。
いかにこのバイクがツーリングの窓口を広げたかがよくわかるが、そのバイクたちの各投稿者達の仕様を見ると今日のロングツーリング仕様のものとさほど変わらない。
シートバッグやトップケースなどを後部に装着し、荷物を大量積載。
タンクバッグと呼ばれるものを装着しているパターンもある。
ハンドル部分にはシガーソケットやUSBソケットが装着され、スマホなどが充電できるようにされている。
そのスマホがナビ機能をもっていたり、パナソニックのゴリラやユピテルの楽ナビを装着し、殆ど車と変わらない利便性を得たバイクの姿があった。
そして2010年代に入るとスマホ全盛期、スマホアプリによってバイクは「スマホ+α」というのが基本形態になり、バイクナビは相次いで販売終了する。(ホンダ純正も販売を終了してしまった)
ここまでで前置きで2500文字も打ってしまったが、今回はそんな「バイクナビ」の話だ。
ツーリングスタイルには様々なものがあると思う。
特に道の選び方には。
高速やバイパスを基本としてを選ぶ人。
海沿いを選ぶ人、山沿いを選ぶ人。
様々な人間がいる。
そんな中で昔から特異な派閥として認知されているのが「裏道教」と「酷道、険道教」。
こいつらはある意味でバッティングしそうだがバッティングしない。
裏道教というのは例えば「は?上野原から大月に行きたい?なら県道30号だろ?」と国道20号こと甲州街道ではなく県道をオススメするタイプ。
ようは「赤信号を絶対悪」とする者たちであり、正直言って筆者もこの思想を好んでいる節がある。
このような思想にハマる理由は簡単だ。
バイクは自立しない。
エアコンもない。
よってよほどのバイクでない限り、基本的に停止中が最も疲れるのだ。
走っているほうがバイクにとっても楽だったりするような車種もある。
空冷式とかは特に。
そんな状況だと「30km遠回りになっても快走路に行く」といったような感じになる。
具体的には例えば、茨城県に行くとしよう。
通常、ただのナビだと東京なら靖国を超えて浅草や両国などを超えてまっすぐ進む道を推奨される。
だが裏道教はまずは北上して埼玉県の都心部、新都心付近まで入り、そこから東に進んで三郷の方面へ向かう。
それから山側を走るのか思いっきり海側を走るのかで分かれるが、最終的には浅草・両国ルートよりよっぽど早く到着する。
どれだけ速いかというと速いときには2時間は速いね。
距離でいえば40kmは遠回りしているが。
というか普通に考えて、新宿から浅草、両国方面へ向かうとか「何の我慢大会ですか?」って話である。
平日でもめちゃくちゃ混むルートを延々進むのでgoogle先生で渋滞状況を見ると真っ赤である。
おまけにこの辺りはとにかく信号が多いのでいろんな意味で辛い。
もう1つ例を出すなら「京都迂回」だろう。
広島や岡山に向かいたいと思った場合、東京から行くなら「名古屋、京都、兵庫」と進むのが普通に思える。
だがこれも上記と同じパターン。
裏道教はどうするか。
名古屋を過ぎたらまずは関が原へ。
関が原から琵琶湖へ向かい、そこから一気に北上し、敦賀へと向かう。
「え?」と思う人。
下道ならこっちの方が速い可能性が高いんだよ。
後は敦賀からそのまま西の舞鶴へ向かい、舞鶴から少し進んでから南下しつつ山間、山陰と山陽の中間あたりをずっと走行する。
こっちの方がよっぽど速く、イライラせずに岡山や広島にいける。
一度山陰に出るほうが都市部でイライラするよりも距離は伸びるが楽に辿り着けるというわけ。
これの理由としては敦賀あたりまでは無料または格安の有料自動車専用道路などが多く、快速性に富むから。
そして舞鶴まで到着してしまえばそこから国道や県道は快走路しかなく、山陰と山陽のど真ん中を射抜くようにしてずーーーっと岡山や広島まで進んでいける。
裏道教とはようは「極限にまでドライバーの負担を減らしたい」人がいつの間にか入信している宗教である。
一方酷道または険道教というのは「己の限界に挑戦する」といったような人間で、林道大好き人間とさほどイメージは変わらない。
とにかく「これって道なのか?」ってな所を走行するのが好きな人たちで、「国道なのに車じゃまともに走れない」といったような場所をバイクの強みで走っていくような存在だ。
裏道教はあくまで「目的地まで楽に辿り着く」のが基本であるため、苦労する道に入ってくパターンは少なく、バッティングしないというわけだが、稀に「こちらの方が早い」ということも無くは無い。
そんな裏道教に入信しているナビがある。(ヘタすると教祖様または神官あたり)
Google Mapだ。
こいつは本当に裏道が好きだ。
それも「通れるのかよ!」ってな道を推奨してくる。
とにかくGoogle先生は「赤信号が嫌い」なのだ。
赤信号多発地点はとにかく避ける。
渋滞を避けるのではない「赤信号」を避ける傾向があるのだ。
だからいきなり「おい右曲がれ」とかいって街路を指定してくることがある。
大通りの隣の街路が(恐らくは街道)があると、本気で「そっちへ行け」と交通事故のリスクも考えずに指定してくる。
これはバイクではいいんだけど車だと恐怖でしかない。
そんなGoogle先生だが、実はアメリカ版でもそんな仕様でそれが嫌悪されたのか、ついに「バイクモード」というのが新たに国外の一部地域のアプリ版で実装された。
導入した人間の感想はというと「車版は大通りをかなり多用するようになったが、バイクモードにすると今まで以上に裏道を使う」というさらに裏道教へ誘うブービートラップのようで、ネット上の動画を見ると「行け」といって通ってみたら雪とトナカイがいるような場所に案内されたというような状況が平然とあったりする。
現状のモードでも裏道大好きなのにさらに酷くなるとか逆に試してみたくなるものだ。
ところで、じゃあ筆者はgoogle先生を使っているのかというと実はメインでは使ってなかったりする。
先生は平気で農道を指定してくるが、筆者はバイクをあまり汚したくない人間なので、基本的にダートは避ける。
砂利道までしか許可できない。
そんな筆者の場合は通称ナビエリと呼ばれるNAVIeliteを使っている。
アイシン・エイ・ダブリューという会社が販売しているナビアプリである。
こいつは「スマホで一般的なポータブルナビと同等のモノを目指す」というだけあって非常に優秀で、これを用いている人間もかなりいると思う。
こいつがとにかく優秀なのは「日常的に渋滞する道路は避ける」という仕様だ。
通常、ナビアプリというと「常時オンライン」が基本だが、こいつはオフラインでも使える。
一例を出してみよう。
慢性的に渋滞する道路といえば「環状7号線」こと「環七」と「環状八号線」こと「環八」がある。
この2つの下道は東京都心部ではよく使うが、渋滞する区間は限定されている。
また、時間帯によって渋滞するという特徴もある。
ナビエリは本当に賢いので、例えば「早朝なら環七の外回りを使う」というナビゲーションをするが、「渋滞する時間帯は国道246号線などを使って迂回する」といったことをする。
夜間などは環七の内回りを積極的に使うが、正午頃や夕方頃などの最も混雑する時間帯は迂回させる。
しかも向かう場所によってはこの迂回に環七などの慢性的に渋滞する道路の渋滞しない区間を使うなど、都心部では驚くようなルートを紹介してくる。
しかも「それなりに運転しやすいルート」を選択してくれる。
これらをオフライン状態でも案内をしてくれるのだ。
さすが3GBもの容量をマップデータなどの各種データ領域として必要とするアプリケーションだけはある。
例えばナビタイムのツーリングサポーターなんかは「常時オンライン」が基本。
オフラインでも使えるが、オフラインだと無難な道しか示さず、渋滞に遭遇してしまうこともしばしば。
これが問題なんだ。
山間部を走る場合、必ずしもスマホは回線接続できるわけじゃない。
回線障害などのリスクもある。
Google先生も結局は繋がって初めて裏道を紹介するのであって、通常だとそもそもが現在地指定すら割と怪しい挙動をしてしまう代物。
そればかりか先生の場合はオンラインでも「行け」といって住宅街を無理やり進ませようとする。
「○○通り」とか書かれた非常に狭い場所を平然と走行させることもしばしば。
まあ基本仕様としては「街道」と称される江戸時代ぐらいの頃に生まれたかなり長い距離をずっと進んでいける狭い道(旧道)が大好きなようで、走っていると「○○ゆかりの地」とか書いてある。
もしかして松尾芭蕉あたりが案内してるのか?ってな道を選択することも多い。
一方ナビエリの優秀さは「それまでアイシンが培ったビッグデータを利用し、オフラインモードでも極限にまでリスクを緩和させる」という、事故渋滞以外はオフライン使用でも全く困らない有用さにあった。
ちょっと文章だけで表すとわかりづらいのでスマホアプリの様子を少し箇条書きにしてみよう。
Google先生。
・赤信号を絶対悪とする裏道教
・渋滞よりも信号を気にしてリルートが極めて多い。
・オフラインだと使い物にならない。
ツーリングサポーター
・大通り大好き
・現地の天気や道の駅の紹介など他の機能が豊富
・裏道は迂回を指定すると初めて紹介してくれる程度
・恐らく「すり抜けしろ」というような感じのリルートの仕方
・よく言えば優等生だが、悪く言えば「先生の方が疲れない」
・ナビエリ
・オフラインでも渋滞を極限にまで回避してくれる
・大通りや評定速度の高い道路を優先にしつつも、都市部などは避ける傾向
・裏道への案内は皆無(バイクではなく車用ナビだから)
・二輪走行不可区間を認識できない(バイクではなく車用だから)
・最近のアップデートでなんと「Google先生と連動する」という機能がついた。
GoogleMapで指定した地点登録場所をナビエリに目的地として反映させる事ができる
ここだけの話、ツーリングサポーターは一見すると優秀に見えて実はそんなに優秀じゃない。
そこそこの期間使った立場として言わせてもらうと「ナビタイムからそんなに進化していない」という印象。
Google先生のほうがバイクにとっては楽。
筆者は先生とナビエリの二重起動で使っているが、これが本当に優秀である。
先生は信号が多すぎる区間にて裏道を指定し、ナビエリは基本的に快走路をなるべく示す。
だからそこで先生に従うかナビエリに従うかはライダーが考えればいい。
先生の裏道紹介は不便だけど便利だ。
ところで最後に余談だが、先生が裏道紹介をする条件はgoogle社曰く「裏道を通ったというデータの反映によるもの」らしい。
つまり、どう見ても通れない道を誰かが通ると先生は「通れる」と判断して紹介してくるようになる。
ようは農道は軽トラックなどがgoogleナビを使って何度も通るとそこを紹介してくるようになるわけ。
バイクモードになるとさらに道案内の裏道度がさらに酷くなるのは……裏道教や酷道、険道教の信者のせいである。
それは案内しなくても起動中だとデータが蓄積される仕様だから。
排気量とか!バイクの特性とかは関係ないのだ!
つまり先生が望むバイクというのは、ダート走行可能な代物ということになる。
先生はスーパースポーツは大嫌いらしく、先生の罠に引っかかると「デイトナはオフ車…デイトナはオフ車…」「YZF-R1はオフ車……YZF-R1はオフ車……」などと自己暗示をかけて祈りを捧げることになるのだ。
信号だけじゃなくスーパースポーツバイクが嫌いな先生なのであった。