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アメリア

この世の中、おかしなこともあるもんだわ。


メイドに侍従、こぞって言うの。

「アメリア様のためなら何でもします!」


家庭教師の先生に庭師のトムも、みんな怖いぐらいに真剣よ。

「全てはアメリア様のために!」


伯爵家の一人娘ですもの。みんな甘いのね、なんて思ってた。お父様にお母様、弟にロンも普通だから、あまり深く考えてなかったの。ロンって言うのは私の祖母の妹の息子の嫁の従姉妹の斜向かいに住んでいるピアノの先生の知り合いの友達の…あら?全くの赤の他人じゃない?とにかく、物心つく時からずっと一緒にいるお友達なの。いえ、知り合いなの。私はお友達だと思ってるんだけど、ロンに言ったらすごく微妙な顔をされたから、知り合いってことにしとくわ。ロンは周りのおかしな人たちのことを信者なんて呼んで悪態ついてたわ。お父様達はちょっと異常な周りの反応に戸惑いながら、あまりアメリアを甘やかすなよ、なんて注意して。


それが身内贔屓じゃないって分かったのが、私のデビュタントの日。

私とダンスを踊りたいって長蛇の列。果ては結婚してくださいってみんな言い出して、殴り合いの大乱闘に。もちろんその日に初めてお会いした方々よ。会話すらしてないわ。


その時初めて、自分がおかしいんだって気づいたの。

家族もやっぱりこれって変だよね、なんて顔面蒼白に。


なんとか屋敷に逃げ帰って、世話をしたがるメイド達も蹴散らして、家族とロンで書斎にこもって家族会議よ。

みんなで出した結論は、私が魅了持ちなんじゃないかってこと。ロンはそうじゃないって反論してたけど。でも考えてみて。私が絶世の美女なら頷けるけど、残念ながら見た目は中の中。どこにでもいる茶色い髪に平凡な顔。これじゃあ魅了持ち以外に説明がつかないわ。さっそく次の日、教会に行くことになったの。何代か前に魅了持ちの男爵令嬢が王太子殿下や名だたる貴族のご子息を誑かして国を大混乱に陥れたんですって。それ以来、魅了持ちは教会に届け出なければならないのよ。ロンはまた信者が増えるって白目を剥いてたけど。


事前に知らせていたからか、教会ではすんなりと奥の部屋に通された。厳しい顔の神官様達に囲まれて、私も付き添いの家族達も何だかそわそわ。教会にもあまり来たことがなかったから余計にね。この国は建国よりも前、世界に終わりをもたらす災厄を鎮めてくださった女神フロンティーナを崇拝しているの。熱心な信者が多いのだけど、私は何だか祈る気になれなくて。そうこうしていると、水晶に手をかざすように言われて、恐る恐る手を伸ばす。手のひらサイズの水晶はほんのり紫色でとってもきれいね。うっとりと見つめていたら、もういいですよって。これで魅了の力は封印されたのかしら?ってどきどきしながら正面の神官様を見つめると。


「これは魅了持ちか判別するための水晶です。結果、貴女は魅了持ちではありません」


この結果に、家族みんなびっくり。ロンだけは分かってた、みたいな顔をしてるけど。ほっとしたらいいのか、がっかりしたらいいのか。どうしたらいいのか分からなくて、神官様の次のお言葉を待っていると。


「アメリア様、貴女こそが至高の存在」


あ、これあかんやつやー。ロンの呟きがやけに鮮明に聞こえたわ。それからはまた大騒動。私の判定をしてくれた方が結構偉い立場の人だったみたいで。やいのやいのやってる内に何と教皇様まで現れて。


「教皇の座をアメリア様に譲ります」


これはいよいよやばいぞってなって、必死に逃げ帰ったわ。もう屋敷から出ないのが最善ね。デビュタントの場で求婚してきた人達、教会の人達や教皇やらしつこいぐらい便りや訪問があったのだけど、全て跳ね返したわ。屋敷の人達がそれはもう嬉々として動いてくれたから。門前では毎日の様に武力衝突が起きていたけれど、しばらくしたら飽きるでしょう。なんて呑気に考えていたら。

なんと、国王様から登城の命令が。家族会議でこれはさすがに無視できないよねってなって。しぶしぶ行くことになりました。


「そちが噂のアメリア嬢か。魅了持ちではないのに次々と周りを魅了するそうじゃな。凄まじい美女を想像しておったが…」


言われなくても分かってます。こんな凡庸な小娘に、とお考えでしょう。


「その魅力もわしには効かぬようじゃな」


そう言って豪快に笑われます。おいおい、なんのフラグだよ。ロンの呟きが聞こえるわ。国王様の御前なのに、どうしてロンも一緒にいるのかしら。お父様もお母様も弟も控えの間に待機しているというのに。ひとしきり笑われた後、国王様が真顔で仰います。


「よし、そちをわしの正妃にしよう」


これには隣に座っていた正妃様も驚きのあまり仰け反ったまま失神しちゃったわ。周りにいる偉そうな人たちも泡を吹いてるし。何を仰っているんですか!いえ、その通りですね!いやいや、ご冗談を!いや、アメリア様を正妃に!その場は大混乱。慌ててお父様達もやって来る。


正妃様ですって。国王様でもそれは無理よ。

だって私にはちゃんと相手がいるんだもの。


相手?あら、誰のことかしら?


ずっと一緒にいるロンに聞いてみる。ロンは必死に、自分で思い出せって言ってくる。

ロンも知らないの?思い出せないってことはそれほど大事なことではないんじゃない?

そう言った時の、ロンの凄まじいまでの絶望的な顔。思わず笑ってしまったわ。あら、私ったら性格が悪いのかしら?


いつの間にやら戦争のようになっている謁見の間。あら、王冠が飛んでるわ。これってどうやって収拾をつけるのかしら。家族でアイコンタクト。こんな時は逃げるが勝ちね。さあ、いざ!スカートの裾を掴んで走り出そうとしたその時。


「やっと見つけたよ、愛しい人」


空気が震えたわ。空間が歪み、突如現れたのはこの世の者とは思えないほど美しい男の人。艶やかな黒髪に血の滴るような赤い瞳。誰かが呟いた。魔王、と。まさか魔王まで…。


「美しい人。迎えに来たよ」

「私が美しいだなんて。それはよく分からない魅了のせいですよ」


私は教えてあげる。こんな眩しい美貌の魔王に言われたって。自分の顔は自分が一番良くわかっているもの。嫌味だわ。


「存在自体が美しいのだよ、女神フロンティーナ。それに金の瞳はそのままだ」


何を言うのかと口をあんぐりと開けるつもりが、私はなぜかにんまり。周りの人たちはぽかんとしているけれど。


「あら、ジークフリード。いま記憶が戻ったわ」

「力を使い過ぎたから、少し眠ると言っていたよね。どうして人間なんかになっているんだい?」


呆れたような顔の私の旦那さま。そうしていると世界に終わりをもたらす災厄には見えないわね。

何でだったかしら?とぼけてみる。


災厄のあなたと出会い、恋をした。あなたと世界の均衡を保つために力を使い果たした私は眠ったのよね。出会ったばかりなのにごめんなさいね。どれくらい経ったのかしら。目覚めた私はまず始めに肉体を持つことにしたの。命あるあなたと同じになりたかったなんて、恥ずかしくて言えないわ。あなたと同じ存在をイメージしてたのに。人間になっちゃったみたい。創造神のようには行かないわ。慣れないことはするものじゃないわね。


何となく彼もわかったみたい。

脆弱な肉体を持つ君もたまらなく魅力的だね、なんて。


お父様もお母様も弟も、私が女神ってことよりも旦那さまがいたことに驚いてるみたい。あとはロンが私の眷属ってことよりも、フェアロンシェードって長い名前だったってことに。私が言うのもなんだけど、おかしな人達ね。それでも愛する家族に祝福されて、新婚生活スタートも悪くないわ。しばらくは実家と旦那様の家を往復させてもらうけど。そうそう、国王様達の記憶は封印させてもらったわ。この国は熱心な私の信者が多いから大変ね。今は人間なのに、私の力に惹きつけられちゃうみたい。


「愛しい人。もう離さないよ。眠っている君が突然いなくなってどれほど心配したか。気が狂ってしまうかと思ったよ」

「ごめんなさいね。もうずっと一緒よ、私の旦那様」


でも困ったわ。このままだったら私の肉体が先に消えてしまうわね。

そうだわ。そうしたらまた生まれ変わることにしましょう。その時はどうかまた見つけてね。あなたの命が燃え尽きるまで、ずっと側にいるわ。


女神の瞳に囚われた魔王さま。


次は他者視点で完結です。アメリア視点の補足も入ります。

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