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PSB-円卓学園-(第二版  作者: 335
8/15

《8》

「クッ……、はぁ~…」

 放課後を知らせるチャイムに負けないくらい、大きな欠伸が出た。

 懐かしくもP・S・Bから身を引いた今の俺にとって『あの時』の夢は精神的に中々来るものがあった。

 お陰で変な時間に起きてしまい、丸一日経つが未だに頭がボーッとしている。

 卒業式の後始末も終わったし、少しだけ寝てしまおうか?


「眠そうだね、アルト?」

「うぉッ!」

 だらしなく天井を見上げていると、いきなり妖子の顔が視界に入ってきた。

 全身がビクッと跳ね上がり、首筋でポキッと変な音が鳴った。


「痛っぅ…。脅かすな…」

「この程度で情けない…。こんな事で首を痛めてたら、P・S・Bやった時に怪我するよ?」

「怪我する程ガチでやらん」

 立ち上がって大きく背伸びをする。

 幸か不幸か、痛みで目が冴えた。


「その様子だと、昨日自分で探索部の活動するって言った事も忘れてない?」

「流石にそこまでボケちゃいねぇよ」

「その割りには、寝ようとしてたように見えたけど?」

 何時もの緑ツナギ姿で『お見通しだ』と言いたげな妖子のしたり顔。


「ハハハ、ンナワケネーダロー?」

 正直、若干忘れていた。

 相変わらず鋭いな。

 が、認めるのも癪なので、早々に荷物をまとめて教室を出る。


 俺たちの教室は東棟一階にある。

 この廊下の突き当たりにあるボイラー室を再調査する事が今日の活動だ。


「…グェッ⁈」

 教室から廊下に一歩飛び出した瞬間だった

 突如、俺の首に()()()かが巻きついた。

 それが腕である事は直ぐに理解でき、一瞬妖子がまた飛びついたのかと思った。


 しかし、これは彼女の…。

 いや()()()()()()()()()


 人間のそれとは違い、巻きついている腕はモフモフとした肌触りの良い縞模様の毛で覆われていた。

 まさに『獣の腕』としか表現しようがなく、大きく丸っこい手の平には肉球まで付いている。

 プニプにとした感触が顔に当たって、少し気持ち良い。


「むむ! 現れたな?『怪人・紙袋仮面‼』」

 教室から飛び出してきた妖子は、俺を捕らえる腕の主に人差し指を突きつけた。

 その目線は俺の頭よりも、だいぶ上に向けられている。


 顔を上げると、視界に入るのはなかなか大きな()()()()

 中々に立派な女性の胸だ。

 その間から、紙袋を被った人物の頭が見えた。

 二つだけ穴が開いていて、そこからエメラルドグリーンの大きな瞳が覗いている。


「おっト、動くんやなイ! この男の命は、ウチが握っとるんやデ?」

 紙袋仮面なる人物が、俺を背後からホールド。

 どうやら俺は人質らしい。


「クッ、人質とは卑劣なマネを…」

「ハーッハッハッ! どうする『ホワイト・フェアリー!』手も足も出せへんやロ?」

 紙袋仮面は妖子をダミ声であざ笑うと、俺を更に抱き寄せる。

 頭上の胸が頭に圧し掛かってきて、重い。


「グッギギギッ…、お、おのれーッ! アルトを離せーッ!」

 妖子は自分の胸元を確認したかと思うと、若干涙目で紙袋仮面を睨み付けた。


「それはできん相談やナァ。この男を婿に向かエ、我が『紙袋帝国』がこの世を支配するンやッ!」

「そんな事、このホワイト・フェアリーが許さないぞ! この世に『悪』は栄えない!」

 妖子はボクサーよろしく、顔の前でファイティングポーズを取り、シャドーボクシングを始める。


「じゃね~」

「ばいばーい」

「駅前に出来たケーキ屋さんがさぁ……」

「あ~ん、また太る~」

「お疲れ~」

「おっつー。ゲーセン寄ってこうぜ~」


 しかしそんな殺伐とした状況にも関わらず、周囲の生徒達は騒ぐ事なく平然と通過していく。

 たまたま通った教師ですら、俺たちを横目に見てそのまま通り過ぎていった。

 注目されるよりも、見向きもされない方が逆に恥ずかしい。


「おい朝野、お前帰んねーの?」

 教室から出てきたクラスメートの諸星(もろぼし) 太陽(たいよう)は、俺が捕まっていることなど気にも留めずに声をかけてきた。


諸星は『料理研究会』に所属しており、自宅は町で人気のレストラン『ガウェイン亭』という環境のため、スウィーツから本格的なイタリアンまで何でも作れる料理男子だ。

 彼とは学園に入っての知り合いだが、妙に馬が合い友人となった。

 妖子とも仲が良いが、その出会いは妖子に告白して玉砕し『お友達からで良いから!?』と泣きついてからのスタートだ。


「これから部活。成果ださねぇと、唐久多の奴に廃部させられっからな」

「お前も苦労してんな。頑張れよ、零細サークル希望の星」

「そう思うなら、諸星も手伝ってくれよ」

「悪いな、今日は校庭で料理研究会主催の定例BBQ会の日だ。それに部活がない日も家の手伝いで手一杯。ま、今度うちの人気メニュー食いに来いよ。キャベツ大盛りでサービスしてやっから」

「おう」

「それじゃ妖子さんも。暇なら後で校庭に食べにきて下さいね」

「良いの? うん、後で行くね!」

 妖子も雰囲気を一変させて、立ち去る諸星に手を振る。

 諸星と話した所為で、すっかり空気が変わってしまった。


「……そんで、まだ続けるんすか? ()()()()?」

 俺は大して締められてもいない腕から抜け出すと、一足先にこの寸劇から現実に離脱させてもらった。


「なんやねン、どいつもこいつモ‼ ノリの悪いにも程があるワ! ココはオチまで乗っかるとこやロ‼」

 紙袋仮面改め、槍剣さんは怒りながら被っていた紙袋を両手で引っ張る。


 二つに裂けた紙袋の下から現れたのは、健康的で化粧気のない妖子とはまた別タイプの美少女の顔。

 チャームポイントだという太い眉を吊り上げ、彼女はつまらなそうにボリボリと首筋を搔いた。


 名前や言動から誤解されがちだが、槍剣さんはれっきとした『女性』なのだ。

 尤も、いくらグラビアアイドルに引けを取らない美しいボディラインの持ち主だとはいえ、身長が二メートル以上ある人物が鼻息を荒くしやってくれば『怪物』が暴れているようにしか見えないだろうが。


(…まぁ実際、()()()()()()()()()()()…)

 ブロンド、というより原色の黄色に近いショートヘアーから、上方向に飛び出した丸い獣耳。

 ジャージのズボンから伸びる、縞模様の尻尾。

 毛で覆われた巨大な腕も含めて、アクセサリーでもなければ特殊メイクでもない。


「てか、紙袋被って何やってんすか…。今日の設定は、お得意の『変人シリーズ』っスか?」

「誰が変人やねン⁉ 怪人ヤ! か、い、じ、ン!」

 槍剣さんにはP・S・Bに人生をかける一方で、演劇をこよなく愛している。

 見るのも演じるのも大好きなようで、将来の夢は『アクション女優もこなせるプロ選手』だそうだ。

 一緒に居ると、よく即興劇に付き合わされる。


「紙袋被った怪人なんて聞いたこと無いですって。せめてお面じゃないすか?」

 俺の指摘に、槍剣さんは「解っとらんなァ」と大げさに、さもガッカリしたようなリアクションをとる。


「怪人言うたら、被り物と相場がきまっとル」

「なんだって?」

 槍剣さんの言葉に、妖子が「聞き捨てなら無いなぁ」と異議を唱えた。


「先輩、決め付けは駄目だね。怪人といえば『角』や『獣耳』のようなワンポイント系だよ」

「ドアホッ!『ハーフロプス』のウチがそないなモン着けたとこデ、たいして変化ないんやからオモロないやろガ!」 


 この星には、俺たち『人間』と、獣のような姿をした『ロプス』という二つの種族が存在する。

 物の本によると、人間が類人猿から進化していったのに対し、ロプスはそれ以外の動物から進化した存在らしい。

 人種の数は、人間と違って多種多様。

 生物学的に、人間は『ホモサピエンス』という一本道から『黒人』や『白人』、俺たち『黄色人種』などが誕生したと言われている。

 一方でロプスは、各種族が独立し、さらにそこから独自で進化してきた。

 人種を一本の木で例えるなら『ロプス』という括りは、まるで『森林』といえるだろう。

 地球上に現れたのは、人間よりもずっと後だという事は解っているが、ただ人間がそうであるように、ロプスもまた、いつ、何をきっかけにして『人』の姿に変化していたのかは、今もって解っていない。

 純血ロプスの容姿は、まさに獣がそのまま立ち上がった姿をしているが、槍剣さんはロプスと人間の混血、いわゆる『ハーフロプス』なので、一部にロプスとしての身体的特徴が現れている。


「被り物!」

「ワンポイント!」

 どちらも譲らず、激論を交わす妖子と槍剣さん。

 しかし議題が幼稚すぎる。


「随分と賑やかだねぇ、朝野君」

 呆れて二人を眺めていた俺を、更に困らせる声が聞こえてきた。

 見る間でもなく、唐久多だろう。

 また嫌味でも言いにきたのか?


「唐久多君‼」

「イヌスケ‼」

 すごい剣幕で妖子と槍剣さんが唐久多に詰め寄る。

 状況を知らない唐久多は面食らっていた。


「お、お二人とも? 一体なにを、」

「唐久多君! 君はどう思う!」

「な、何がでしょう?」

「怪人ヤ、怪人!」

「か、かい、じん?」

「怪人といえばやっぱり、角とかだよね?」

「被り物やロ⁉」

「‥あぁ~…、朝野君? お二人は一体、何の話を…」

 あの唐久多が、珍しく俺に助けを求めている。

 だが、状況を説明するのも面倒くさい。


「まぁなんだ、頑張れや副会長。妖子、戻ってくるまでには解決しといてくれよ?」

「さぁ、唐久多君‼」

「イヌスケ‼」

「やれやれ…」

 付き合いきれないので、俺はサークル棟に調査に必要な道具を取りに行くことにした。


 少しして背後から、唐久多の「全身タイツですーッ!」という叫びにも似た声が聞こえた。

 流石にそれは無ぇよ。

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